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第23話:鉱山ダンジョン(2)

 もう女神の傍若無人ぶりにはついていけなくなっていた。女神が人差し指で水晶を触るたびにそれが希少金属へと様変わりしている。


「とりあえずだけど、これくらいあれば、喜んでもらえる? って、なんでこっちに目を合わせないの!?」

「……資源王国日本爆誕でおじゃる」

「ヨッシー、気を強くもってください」

「ノッブ殿ぉ……」


 ノッブがよしよしと宥めてくれた。今はノッブの優しさに甘えておく。とんでもないことをしでかしたというのに女神がキョトンとしている。


 自分がしたことがどれほどにとんでもないことなのか、さっぱり理解していないようだ、この駄女神は!


 そんな駄女神にミッチーがつかつかと歩いて近づいていく。


「ちなみにウランは生成できないでござるか?」

「ウラン? それを何に使うの?」

「それはもちろん、核ばくだ……」

「最後まで言わせないでおじゃるよーーー!」


 ミッチーの尻を思い切り蹴飛ばしてやった。非核三原則という言葉すら、ミッチーの辞書にはなさそうであった。


 ミッチーがこちらをジロリと睨んできたが、こちらは一歩も引く気はない。金銀、ダイヤモンドですら危険すぎるというのに、その100万倍、危険な物質の名前を出してきた。


 ミッチーを野放しにしておくわけにはいかない。こちらへと手招きし、ひそひそと耳打ちしておく。


 ミッチーがこれ以上もなく、ニッコリとほほ笑んでいる。


"あっこいつら"

"これで日本も核武装の議論が進むなー(棒読み)"

"でも、冗談抜きでこれから先、そういったことを考えないといけないんじゃねーの?"

"そう……だな。別にダンジョンはここだけじゃないもんな?"

"ヨッシー、引き続き調査を頼む(`・ω・´)ゞビシッ!!"

"新素材とかも探してくれよー"

"まあ、だいたい、そういう新素材って、まずは軍事転用に使えるか? だよな……"

"人類は愚かよ……ククク"

"まあ俺たちが普通に使ってるインターネットすら最初は軍事利用だったけどな?"

"それってマジ?"

"マジだっぞい"


 改めて、ヨッシーはダンジョンの調査をしっかりと行わなければならないと痛感した。世界はダンジョンの出現によって、確実に様変わりするだろう。


 封印しなければならないと声高に主張する者たちも出てくるだろう。だが、それが日本だけで済む話ならば、それも間違ってない判断かもしれない。


 ダンジョンは世界中に出現した。ならば、日本も変わらなければならない。そのためのダンジョン探索である。


 ヨッシーたちは気を引き締めて、鉱山の奥へと進む。すると、ますます気持ち悪さが増してきた。


 女神が突然、足を止める。さらには虚空の先へと手を突っ込んだ。


「えっと、あったあった。はい、これをあげるね?」

「これは……ガイガーカウンター?」

「魔素測量器よ。わたくしはある意味、魔素に鈍感すぎるのよね。だから、ヨッシーたちがこれを持っていたほうが良いと思うの」

「ふむ? よくわからんが持っていれば良いのじゃな?」

「魔素がとんでもなく高いとメーターの赤線を振り切るの。そういうところでの活動時間は3分ってところかしら」

「ウルトラマンみたいな活動時間でおじゃるな」

「スペシウム光線を出せるように今のうちに練習しとく?」

「日本の文化に詳しいでおじゃるな!?」

「そりゃお客様がやってくるまで暇してたもん。アマプラでしっかりと勉強しておいたわよ!」

「ちなみにそういうもので感化されたりはしないのでおじゃるか?」

「もちろんよ! 大怪獣とかのデザインに使わせてもらってるわよ!」

「著作権はしっかり守るのじゃぞ……」


 女神にいちいちツッコミを入れていては日が暮れる。明日も午前中は国会だ。こちらも遊んでいるわけにはいかない。


 魔素測量器がたまにピーガリガリ! と不穏な音を鳴らしていたが、そちらは見ない振りをしながら鉱山の奥へとゆっくり進む。


 モンスターの巣と繋がっていると言われた割には鉱山にはモンスターっぽいものがいなかった。


 首を傾げるしかなかった。どちらかというと、この魔素の方がよっぽど厄介に思えてくる。何も起きないために会話が途切れがちになる。


 その状態を嫌ったのか、女神がこちらに話題を振ってきた。


「あっ、レアメタルで思い出したけど……」


 女神が昨日のゴーレムの核について説明しだした。


「あれってあなたたちの世界でいう賢者の石よ?」

「えっ? 賢者の石って、金を生成することができるっていう……アレ?」

「うんうん。ボーリング球の大きさだから……東京ドーム一杯分の金に変換できるわよ?」

「とんでもない爆弾を押し付けられたでおじゃるー!」

「さすが難易度SSダンジョンでしょ!? 報酬もすごいもの用意してるわけっ!」

「すごいで済むレベルに調整してほしいのじゃーーー!」


"さっきの金塊騒ぎがまだマシだったでござる"

"なんでこうも爆弾を日本に押し付けてきてんの、この女神"

"あはは……グッバイ世界経済"

"\(^o^)/オワタ"

"日本発の世界恐慌か……"

"いやでも……賢者の石ってのなら、金以外も精製できそうな気がするな?"

"マジ? 例えば?"

"お、オリハルコン"

"ふぁっ!? ゲームとかファンタジー世界でしか存在しないあの金属!?"

"ヨッシー! オリハルコンを精製してくれよ!"

"技術大国日本なら、精製できそうだよな?"


 コメント欄に救われた気がした。金ではないものに精製すれば、世界経済をぶっ壊すこともなくなるだろう。


 しかし、オリハルコンというものにピンとこない。ゲームやファンタジー世界ではおなじみの金属であるが、それが果たして、現実世界ではどのように活用できるのだろう。


「ミッチー。もしオリハルコンを精製できたとしたら、何に使うでおじゃる?」

「ふむ……単純な使用で言えば、弾頭をオリハルコン製にすることでござる」

「ほほう。戦車砲の威力を上げるというわけじゃな?」

「でも……劣化ウラン弾のほうが安価で済むでござる。というわけで、女神様……。そこの水晶をウランに変えてほしいでござる!」

「ミッチーーーー!」


"ほんまミッチー"

"油断も隙もねえなっ!"

"でも実際、弾頭補強なら劣化ウラン弾で事足りてるんだよなぁ……"

"まあゲームみたいに武器防具の強化が妥当なんじゃね?"

"オリハルコンで作った日本刀とか見てみたいよな"

"まあ1番簡単なのはオリハルコンの棍棒とかメイスだろうけど……"

"技術大国日本に期待"


 ミッチーには困ったものだ。油断もへたくれもない。切歯扼腕としていると、ノッブから念話が飛んできた。


(こやつ! 直接脳内に!)

(いつでもヨッシーとは心で繋がっていますよ)

(気持ち悪いからやめるのじゃ!)

(それはさておき……ダンジョンの資源に罪はありません。要はどう利用するかですよ)

(そ、それはわかっておる。しかし……ダンジョンは危険すぎるのじゃ。封印しておくべきという奴らをどう抑えれば良いのじゃ?)

(それこそ、ダンジョンが有益だというダンジョン配信をすればいいのです)

(そう上手く行くのじゃろうか……)


 いろいろと頭の中でこれからの日本について想いを馳せた。だが、ヨッシーはやがて考えるのをやめた……。


 そうであるのにヨッシーの耳に聞きたくない情報が次々と届く。女神とノッブが和気あいあいとダンジョン内のアイテムについて話し合っていた。


 もういっそ、ミッチーに耳栓をもらおうと思った。するとミッチーがこちらの気持ちを察して、ミリタリーヘッドセットを手渡してきた。


「これで少しはノッブ様の声を遮断できるはずでござる」

「ミッチー……」

「ふふっ。ついでに拙者と女神とのやり取りも聞こえづらくなるでござるよ?」

「あほかっ! おぬしのほうがよっぽど物騒じゃわい!」


 ミッチーの気遣いを無碍にしてしまう行為であったが、ミッチーにミリタリーヘッドセットを突き返す。彼は「チッ……」と舌打ちしていた。


 ミッチーを無視して、どんどん鉱山の奥へと進む。しかし、ここでふとした疑問が湧いた。


「あれ? この場所には既視感があるのじゃが?」

「ようやく気付きましたか」

「迷っているとかじゃなくてでおじゃる?」

「迷っていることは事実です。ただ……これはループ系の罠ですね」

「ここ、鉱山でおじゃるよね!?」

「鉱山ダンジョンよ!」

「頭が痛くなるから、女神様は黙っておるのじゃ!」


 女神が聞いてもいないのにダンジョンと化した鉱山の説明に入った。


 モンスターの巣と繋がったことで、そこから魔素が流れ込み、鉱山ダンジョンに様変わりしたそうだ。


 さらにはモンスターまでもがダンジョン化した鉱山内でぐるぐると迷子になってしまっているとのことだ。


 怪我の功名という言葉がぴったりとあてはまる。モンスターに出くわさない理由がようやく判明するに至る。


「このクエストは本来なら地下のモンスターが鉱山を通って、外の世界に出ちゃうってことなの」

「なるほど……これもバグの影響なのじゃな?」

「そういうこと。しっかりバグ取りしてね?」

「バグを排除したら……モンスターが鉱山の外に出てしまうのではござらぬか?」

「皆まで言うな……ミッチー。わっちらはすでにこの鉱山から出れぬ……」

「ご名答~♪」

「ほんと、この駄女神がぁぁぁ!」


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