"ヨッシーが順調に壊れ始めてるわね"
"ヨッシー、がんばれがんばれ"
"ヨッシーがどんどんかわいそうかわいいキャラに"
"かわいそうかわいいヨッシーのツインテールで髪コキしたい"
"わかる!"
"いや、わかんねーよ!"
"おまわりさーん"
"通報しますた"
賑わっているコメント欄を無視して、鉱山ダンジョンの中をゆっくりと進む。奥に進めば進むほど、足取りが重くなる。
しかし、この感覚は大切であった。ループを2回食らって、3度目の正直とばかりに魔素が強くなっている個所を特定した。
「これがループの発生源ですね。えいっ!」
「ノッブ殿。これまた勢いよくボキッと水晶を折ったのう」
「発泡スチロールみたいに簡単でしたよ?」
「ちょおま! こっちに水晶の塊を投げるなでおじゃる!」
ノッブが高さ1メートルもある水晶を両腕で抱えて、うっちゃりをかますようにへし折った。それをひょいっとこちらに投げてきたものだから、腰を抜かしそうになってしまう。
しかし、ノッブの言う通り、本当に発泡スチロールのように軽かった。こちらは驚きの表情となってしまう。
「中身、すっかすかというところじゃな」
「驚かせてすみません。でも、先生にドキドキしたでしょ?」
「だから、わっちを惚れさせようとするのはやめるのじゃ!」
「つれないヨッシーです。昔を思い出しますね」
ノッブが何かを思い出すような顔つきになっている。戦国時代、ノッブのことを
あの時の蜜月の時を思い出してくれているのだろう。こちらの胸がトゥンクとときめいてしまう。
「ヨッシーには苦労させられました。上洛したいから力を貸せっ! と一方的に織田家に要請してきましたね?」
「むむっ! あれはミッチーと細川藤孝がノッブ殿なら、それを為してくれると言ったからじゃ!」
「ふふっ。ヨッシーをひと目見た時に思いました」
「なにをじゃ?」
「とってもおもちゃにしやすいと」
「このぉぉぉ!」
腰に佩いた刀を抜き出し、ブンブンと振り回してノッブを追っかけまわした。ノッブは「あははっ」と笑いながら逃げていく。
「ヨッシー様、ノッブ様。浜辺でいちゃつく恋人同士ではござらぬよ?」
ミッチーにたしなめられた……。「くぅ!」と唸りながら、ノッブを追い掛け回すのを止める。
すると、女神がニッコリとした表情でこちらに近づいてきた。さらにはこちらの手を取って、うっとりと刀を見つめている。
「いい刀……ね?」
「う、うむ。宮内庁から貸し出された鬼丸国綱じゃ、もとは足利将軍家が所持していたやつじゃの」
「美しい刃渡りだわ。ねえ? わたくしに強化させてくれない?」
「えっ……これ、国宝でおじゃる。下手なことをしたら、わっちは陛下にめっちゃお叱りを喰らうのじゃが?」
「じゃあ、コピー品を作って、そっちの方を強化するってことで?」
「むむ……嫌な予感がひしひしするでおじゃる」
ヨッシーはノッブの方へ顔を向ける。ノッブが少し考えた感じを出したあと、こちらにウインクしてきた。
ノッブが了承してくれた以上、女神の提案を無碍に蹴るのは色々と
何を思ったか、女神が刀を先ほどの発泡スチロールのように軽い水晶にカーンカカカーンとかち当てた。
「この駄女神! その刀は国宝だと言っておるじゃろ!?」
「大丈夫、だいじょ~~~ぶ♪ はい、返すわね?」
「くぅ! 世が世なら打ち首でおじゃるー!」
ヨッシーは刀を返してもらうと、刃こぼれしたりしてないか、鬼丸国綱をじっくりと見た。どうやら、見た目におかしなところはないようだ。ホッと安堵してしまう。
次にキッ! と強く非難の色が込められた瞳で女神を睨みつけた。だが、視線は自然と先ほどの水晶に移動させられてしまった。
水晶がまるでゼリーのようにプルンプルンと震えている。さらには女神が「よいしょよいしょ」とその水晶を捏ねるような所作を取り出した。
次の瞬間、水晶の頭の方からペッ! と一振りの刀が吐き出された。女神がそれを空中でキャッチしてみせる。
「はい、コピーの出来上がりよ。出来上がったばかりだから、まだ試し切りはしないでね♪」
「ほほー。これは……クリスタル・ソードというやつかえ?」
"FFでよくあるクリスタルの剣キタ――(゚∀゚)――!!"
"家に飾っておきたいレベルの美術品だな"
"見てるだけで、うっとりする……"
"ヨッシー、いいなー(´・ω・`)"
"強度とか切れ味とかどうなんだろうな?"
"それはモンスターが出てきた時に期待……だなっ!"
コメント欄を見る限り、視聴者も喜んでくれているようだ。ゲームではダンジョンで取れた素材で武器や防具を鍛えるというようなシーンがよく出てくる。
女神が今為したことはそれと同様のことなのだろう。ヨッシーはクリスタル・ソードの柄を握る。
何度か上から下へと振り下ろす。その度にクリスタル・ソードから小さな星が煌めいた。
「気に入ったでおじゃる!」
「ふふっ♪ 作った甲斐があったわ。ちなみに……」
「ちなみに? なんじゃ、なんでそこで溜めておる!?」
嫌な予感がした……。ごくりと息を飲む。女神の次の言葉を待った。
「そいつ、オリジナルになりたがるから、注意しといてね?」
「へっ!?」
意味がよくわからなかった。女神の言っていることが理解できない。そうこうしているうちに元々はクリスタルであったのに、色合いが変化していった。
「うぉ!? この色つや。まるで本物の刀のように変わっていくでおじゃる! しかも柄の部分も日本刀のそれに!?」
「かわいいでしょ? わたくしこそが本物なの! 愛してほしいって自己主張してくるわっ!」
「あほかっ! どっちが本物かわからなくなるでおじゃる!」
いい迷惑であった。女神が言うにはこの水晶は生きていると解説された。生きているからこそ、本物になろうとする意志を宿しているそうだ。
「では、この水晶も
「う、うむ。取り扱い注意でおじゃる」
ノッブが開いたゲートにミッチーが
(……あっちの世界で何かをコピーしたら、大変なことになりそうじゃ)
(でも、面白い物質だと思いますよ?)
(ノッブ殿……もういい加減、わっちの心を覗くのはやめてくれたもれ?)
(はははっ。心でも繋がり合うって最高じゃありませんかっ!)
(いやじゃーーー。わっちのプライベートが無くなるでおじゃるー)
ノッブには困ったものだ。しかしながら、女神に聞かれたくない話を、こっそり念話で話し合うことができるのはありがたい。
気を取り直して、ループ状態が解かれた鉱山ダンジョンの奥地へと向かう。すると、待ってましたとばかりにきのこモンスターが現れた。
そのモンスターは個体ごとに大きさがばらばらであった。30センチしかない奴もいれば、こちらと同じくらいの身長の奴もいる。
しかしながらタイミングが良いとはこのことであった。鬼丸国綱のコピー刀の試し切りをしてみた。スッ……ときのこモンスターの頭にコピー刀の切っ先が入る。
そこから一気に下へとコピー刀を振り下ろした。見事に一刀両断できてしまった……。
「これは……まさしく鬼丸国綱っぽい切れ味でおじゃる」
「ふふん♪ もっと斬ってあげて? そしたら、もっともっと本物に近づくからっ!」
「お、おう」
"オリジナルになりたがるコピー刀。嫌な予感しかしないぜっ!"
"ふと思ったんだけど、人間もコピーできるのかな?"
"それ、怖すぎね?"
"お、おう。オリジナルの人間を殺して、コピーが本物になり替わりそう"
"こういう時こそ、ツッコミ上手のヨッシーの出番だ!"
なんだか呼ばれたような気がした。それよりもこっちはわらわらと現れたきのこモンスターを斬り倒すので精一杯だ。
ミッチーがコルトパイソン357マグナムで応戦してくれているが、きのこモンスターには効き目が低いようだ。
弾力ある繊維質の身体がマグナム弾の威力を低減させているようだ。一応、弾をぶち込んだら、吹っ飛んではくれている。
それでも次の瞬間には何もなかったかのようにひょっこりと立ち上がって、とことこと可愛らしく歩いて、こちらへと接近してくる。
「ノッブ様。火炎放射器を使いたいでござる!」
「ははは。気持ちはわかります。ほーれ、きのこの丸焼きですよー!」
ノッブがミッチーに代わって、火炎魔法できのこモンスターを次々と丸焼きにしてくれた。なんとも食欲がそそる匂いが漂ってくる。
「うきーーー! うきうきもぐもぐ、ごっくん! うききぃ! うげーーー!?」
サルがこんがりと焼けたきのこモンスターにがぶりと噛みついた。最初は美味しそうな顔をしていたが、いきなり目を丸くして、その場で昏倒してしまった。
ぞぞぞ……と思っているところに女神が遅れて解説してくれた。
「ここのモンスターは魔素を体内にたっぷりと蓄積しているわっ! だから、適切に処理しないままに食べたら、ショック死する可能性があるのっ!」
「サルー! しっかりするでおじゃるー!」
「サルくん、無茶しやがって!」
「サル殿……苦しむくらいなら、いっそ介錯するでござるよ?(カチャ!)」
「ちょ、ミッチー! サルはまだ死ぬとは決まっていないでおじゃる!」
「ふむ……いたずらに苦しみを長引かせるのはいかがと思うでござるが? まあ、ヨッシー様がそう言うのであれば、慈悲を与えるのはやめておくでござる(スッ……)」
サルが大変なことになってしまったので、さっさときのこモンスターの全てを倒し切った……。
それでも、サルの様態は悪化するだけであり、良くなる素振りは見せなかった……。