まるで昔の絵巻物に登場するような異形な姿。
銃火器などの武器が全く通用しない敵。
人を襲い、その血肉を貪る悪夢のような存在。
政府はこれを「
妖怪、という存在であるかどうかは別にして、少なくとも人類の科学の力では抗う事すら出来ない最悪の敵。
その犠牲者は日を追うごとに増えていった。
海外へと逃げ出した者も多くいた。
近隣諸国から救助の為に飛行機や船を出してくれていた国もあった。
しかしその全てが闇との境界付近で消息を絶っていた。
このまま日本は滅んでしまうのか?
全員が餓鬼どもの餌となってしまうのか?
人々は絶望に暮れ、その祈りは神へと向けられた。
普段信仰心など持たない人たちも、今となっては超常的な存在にすがるしか正気を保つことが出来ないほどに追い詰められていたのだ。
そしてその祈りは奇跡を起こす。
『私の名は
夜空のスクリーンに投影されたかのように現れた巨大な一人の女性の顔。
見えているのは細く伸びた首筋から肩へのラインまで。
その肩の辺りまでの短めの黒髪。眉の上辺りで真っすぐに切り揃えられた前髪。
切れ長で見事なまでの一重の美しい瞳。
整った鼻筋から小さめの唇へのセンターラインは若干の幼さを感じる。
「え……神様?」
「いやいや、そんなものいるはずないだろう……」
「神様!私たちをお救いください!!助けて!!」
「落ち着け!騒いだら餓鬼に気付かれる!」
誰もが一目で美人だと感じるだろう容姿の女性は、落ち着いた口調で自らを神だと名乗った。
『まずは私から今の日本の状況について説明いたします』
その声は直接頭の中に語りかけてくるように聞こえ、それまで家の中にいた者や、眠っていた者たちも慌てて屋外へと飛び出して空を見上げた。
『今この日本は一時的に神々の住まう
「神々の住まう高天原?」
「なんか聞いた事あるような……」
「ほら、古事記や日本書紀に出てくる」
「そんなの読んだ事ねーよ!」
「陶器?」
「それは日本食器な」
『その原因は、この日本の昼の世界を、そして高天原を統べる私の姉神である
「
「なんか聞いた事あるような……」
「ほら、古事記や日本書紀に出てくる」
「だからそんなの読んだ事ねーよ!」
「
「えーと……多分それはイワトカゲな。そんなに近くねーよ?」
『その事が影響し、この世界にも黄泉の国より魑魅魍魎が流れ込んできております。すでに多くの方が犠牲になっておられること、これに関しては完全に私の手落ちです。亡くなられた方にはお詫びも兼ねて、チート能力付きで異世界へ転生していただきました』
「なんだって!?」
「はい!はい!はい!はい!俺も転生したいです!!」
「俺もハーレム作りたいです!!」
「私は悪役令嬢をやり直してヒロインに逆ザマァしたいです!!」
「スライムにしてください!!」
「ゴブリンでも良いです!!」
「ケモ耳ー!!もふもふー!!」
『残念ですが転生枠は私がここに来た時点で締め切らせていただきました』
「なん……だと……」
「あぁぁ……終わった……」
「この世には神も仏もいないんだ……」
『いや、皆さんの目の前に神がおりますが?』
「月読様!!お聞きしたいことがございます!!」
全国の人たちが口々に話している全てを把握している月読。その声の中から一人の男の声に反応した。
『あなたは確か今の……』
「はい。私はこの国の総理を務めさせていただいております
『分かりました。では貴方を国の代表として認めましょう』
「ありがとうございます。月読様。質問がございます。この日本は貴方様のお力で助けていただけるのでしょうか?」
『もちろんです。その為に私はここに来たのですから』
「マジか!?」
「月読様マジ有能!!」
「さすがは自称神様!!」
『ただ、元通りにする事は出来ません。私が司るのは夜の世界、そして月。天照のように太陽を戻す事は出来ないのです』
「それではどのように?」
『この国を完全に私の統治下におきます』
「月読様の統治下……つまり夜の世界であることには変わりないということでしょうか?」
『そうですね。形式上は夜の世界です。しかし月の力をもって昼夜を作る事は可能です。太陽の代わりに光を増した月の明かりで仮初の昼間を作りましょう。もちろんこれによって作物もこれまで通り育てる事が出来るでしょう』
「おお!それは助かります!では、今国民を襲っている餓鬼たちも月読様のお力で――」
『それは出来ないのです』
「え!?」
『私たち神が干渉出来るのは世界そのものであって、そこで起こったことを直接どうこうするわけにはいきません。それに黄泉の国は私の管轄ではありませんので、そこの者に手を出す事も出来ないのです』
「そんな……それでは遅かれ早かれ私たちは……」
『ですから、皆さんには魑魅魍魎と戦う事の出来る力を与えましょう。ここをそういう世界だと設定することは可能ですからね』