目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

八重山昔話「夜に鳴くガラサー」

 むかしむかし、とある村の巫女みこが、役人に呼び出されました。


「お前は人の弱みをにぎって大金をよこせと言い、困らせているそうだな」


 役人はそう言いました。

 巫女はそんなことはしていません。

 どうしてそんなことを言われるのか、分かりませんでした。


「お前は大悪人だ」


 巫女が無実むじつうったえても役人は聞きません。

 役人は巫女をろうに入れてしまいました。

 だれがなんのためにそんなウソを言ったのか、巫女には分かりません。


「どうして? わたしは人から大金をうばうようなことはしていないのに」


 牢の中で、巫女は泣いていました。

 そんな巫女を見張っていた若い牢番ろうばんは、巫女をかわいそうに思って優しくしてくれました。


「たすけてあげられなくてすまない。私に出来ることは、あなたと話すことだけだ」


 牢番は、巫女の話し相手になってくれました。

 巫女の心の支えは、この若い牢番だけでした。


 牢の中で一年もらす間に、巫女はすっかり弱ってしまいました。

 立つことさえできなくなってしまい、もう長くは生きられないことをさとりました。


「私はまもなく死ぬ。その前にあなたに話しておこう」


 巫女は若い牢番にこう言いました。

 牢番は巫女がもう長くないことに気付き、だまって話を聞いています。


「私は死んだらガラサー(カラス)になり、私をこんな目に合わせた人間たちに災いをもたらすだろう。けれどあなたは親切にしてくれたから、災いからのがれる方法を教えよう」


 巫女は自分の話を聞いてくれる牢番に、これからのことを話しました。

 ガラサーになるという巫女が教えた災いを逃れる方法は、このようなものでした。


「夜にガラサーが鳴いたら、そのあとに災いがおこる。あなたはガラサーの声を聞いたら、家の外に出てウスをたたきなさい。そうしたら、災いはあなたの家を避けていくから」


 その後巫女は死に、真夜中まよなかにガラサーが鳴きながら村の上を飛びました。

 大火事が起きて、巫女を無実の罪におとし入れた人たちや、話を聞こうともしない役人たちの家が、みんなほのおに焼かれていきました。

 けれど若い牢番の家だけは、ウスをたたいて知らせたので、災難さいなんにはあわなかったそうです。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?