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八重山昔話「ハイカ星」

 むかしむかし、八重山の黒島という小さな島に一人の娘がいました。

 不思議なことにその娘には乳が四つありました。


「ああ、どうしてこんな身体に生まれてしまったのだろう」


 両親も娘も、そのことをとてもはずかしいと思ってずっとかくしていました。

 やがて年頃になり、娘はとても美しく育ったので、いろいろな人から嫁に欲しいと話がくるようになりました。

 夫になる人には、いずれ身体の秘密はバレてしまいます。


「申し訳ございません、私はこのような身体なのです」

「ええっ?! ああすまない、この話は無かったことにしておくれ」


 娘は結婚を申し込む人に、正直に話しました。

 みんなはおどろいて帰っていきました。


「ああ、私はこんな身体だから、誰も嫁にもらってくれないのだわ」


 その度に娘は悲しく思って涙を流します。

 自分は一生独り身だろうと思いました。


 ところがある日、娘の身体の秘密を知っても嫁にしたいという男が現れました。


「それでもいい、嫁にきてもらえないか?」

「本当によいのですか?」

「おまえがどのような姿であっても構わない」


 こうして二人は結婚し、とてもむつまじく暮らしました。

 夫婦は二人の男の子を授かりました。


 しかし困ったことに、娘の秘密を知る男たちからうわさが那覇の王様のところにまで届いてしまったのです。

 王様はとても珍しいので見せてみよと命令を出し、娘は王府へ召し出されることになってしまいました。

 その頃の沖縄本島は、黒島から行って帰って来ることが難しいくらい遠い場所でした。


「よくお聞き、私はもうここへは帰ってこられない。母さんを恋しく思ったら、春の田植の頃と、夏の稲刈りの頃に、南の空を見ておくれ。そこには大きく輝く星があるだろう。それを母さんと思って暮らすのだよ」


 母となった娘は泣いてすがる子供たちに言い残して、那覇へ行きました。

 そして、そのまま島には帰ってこられませんでした。


 子どもたちは母の言葉を信じて、春と夏に南の空を見上げます。

 そこには、明るく輝く大きな星があったのでした。


 のちにその星は、田植えや刈入れを知らせるものになったそうです。

 島の人々は春にその星が見えると田植をはじめ、夏にその星が見える頃には稲が実るので刈入れをします。

 その星は島の人たちから、ハイカ星とかアブー(母親)の星と呼ばれて、野良仕事のたいせつな目当てとなっています。


 ※ハイカ星は、八重山の島々で見られる南十字星の星々のひとつです。

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