「という訳で、リアの両親に会いに行くため、虎族の里に行くことにしました。」
「そうか。リアと言ったか。両親が無事で何よりだ。いい仲間を持ったな。気を付けて行ってくるとよい。」
「ありがとうございます、ライザン長老!」
俺は作り留めしておいた紫の指輪を長老に渡した。
「それは、俺の魔力とスキルを付与している指輪です。念話も出来るので何かあれば知らせてください。」
長老はまたかという顔をしたが、珍しそうに指輪を見て指に付け念話してきた。
◈これで聞こえるか?
◈ばっちりです!
「これまたすごい代物だな。灯生殿、何から何まで助かる。リアを頼んだぞ。」
「はい!大切な家族は俺が守りますよ!」
ライザン長老に報告した後、俺たちは城門前に集まり、旅の準備を整えていた。
皆、装備を整え、荷をまとめる。カメ吉も調子がいいみたいだ。
目的地はカイから聞いた、北方の山岳地帯にあるシェルヴァの谷を超えた先にある虎族の里だ 。
獣人国ケルバの朝は、澄んだ風が城下を駆け抜け、森の緑を揺らしていた。
「じゃあ、行ってくる」
灯生が振り返り、見送りに集まったカイたちに手を振る。
「くれぐれも気をつけてな!」
ケルバ城を出発し、北へと進み始めた。
舗装された道を抜けると、すぐに起伏のある丘陵地帯へ入った。
草の香りが強くなり、野花の群れがあちらこちらに揺れている。
旅は始まったばかり。けれど、どこか穏やかな時間が流れていた。
リアの不安な顔を見て、ルーナたちが声をかける。
「ん、緊張してる?」
横に座ったルーナが、リアに小声で尋ねた。
「ちょっとだけ・・・。」
リアはうつむいたまま、答える。
あの夜、叔父のカイに聞かされた両親が生きているという事実。
あれから、胸の奥がざわざわしっぱなしだった。
会いたい。会えるなら今すぐにでも。
でも、同じくらいの不安が、声にならずにのどを塞いでいた。
「リア、大丈夫。何かあれば私たちがついてるから。」
「そうですよリア。私たちみんながリアの味方ですからね。」
「ルーナ、セリーヌ、みんな・・・。」
リアは安堵した様子だった。
荷車が緩やかな坂を登ると、見晴らしのいい高台に出た。
そこからは、北の方角に連なる山並みがうっすらと見える。
その山並みのシェルヴァの谷を超えた先に、虎族の里があるのだという。
昼過ぎには、小さな川辺に着いた。
水面には陽が反射し、きらきらと輝いている。
カメ吉の提案で、ここで休憩を取ることにした。
俺は水を汲みながら、ふとリアの方を見やった。
リアは足を川に浸し、そっと流れを見つめていた。
「大丈夫か?」
灯生が背後から声をかける。
リアは少しだけ振り返って、笑った。
「大丈夫。会った後、何を言えばいいのかもわからない。でも・・・それでも、会いたいから。」
しばらくの沈黙の後、水をひとすくいして顔を洗った。
「なら、行こう。俺たちも一緒だ!」
リアはその背中を見ながら、小さく「うん」と頷いた。
旅の先に、再会の光があるのだと信じて。
リアは自分の胸に手を当て、小さく呟いた。
待ってて。パパ、ママ!
ルーナたちは何も言わず、リアの隣に寄り添うように座った。
そしてまた、北へと歩き出した。風がその背を押すように。