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22 勝利の帰還


血に染まった戦場に、雨が静かに降り注ぐ。

灯生が剣を収めると同時に、彼の背後には馴染みのある気配が立つ。

アルファス、ロータス、カイらが駆け寄ってくる。


「無事だったか、灯生!」


「なんとかね。そっちも派手にやってたろ。」


灯生は疲れた笑みを浮かべ、カイの肩を軽く叩いた。


そのとき、戦場の中心に立ったライザンが、全体に響き渡る声で叫んだ。


「王国軍は退いた! この戦、ケルバの勝利を宣言する!」


歓声が一部から上がる。だが、その多くは静かだった。

誰もが疲れきっていたのだ。傷を負い、仲間を失い、それでもなお、生き延びた。


灯生は静かに唱えた。


「治癒魔法 エレメントヒール。」


その瞬間、空から淡い光が舞い降りた。

冷たく重かった空気が、少しだけ温もりを帯びる。

地に伏していた兵士たちの傷が、音もなく癒えていく。

血が引き、呼吸が楽になる者もいた。


とそこへ、「ひなりさーん!」と近づいてくるルーナ。


「ルーナ! 大活躍だったね! 後衛の弓部隊、とても助かったよ!」


「無事でよかったぁ。帰ってきてくれて……ほんとうに、ありがとう。」


皆に安堵の顔が浮かんだ。


 ***


戦場を後にした一行は、ケルバ城へと戻った。

城門を抜けた瞬間、魔王、セリーヌ、アーロ、リア、アポロンが彼らを出迎える。

その見慣れた顔に、灯生はようやく肩の力を抜いた。

皆が心配して寄ってくる中、魔王さんは少し遠めでニコニコのグーっ!をしてくれた。

魔王さんらしいや。


その後の戦後会議で、ライザンが静かに口を開く。


「王国という巨大な敵に立ち向かうには、魔法公国サリヴァンとの正式な同盟を結ぶことが急務と考える。」


その提案に、城内は一瞬ざわめく。

だが、すぐに頷きの声がいくつか上がり始めた。


「ライザン長老。それは俺も同意です。急いで同盟の場を設けましょう。

 あいにく俺の仲間にはサリヴァンのミンチェスター家の元メイドもおりますし。」


「それは本当か! そうしていただけると助かる灯生殿。」


「ロータス、先にサリヴァンへ行ってネルビアさんとサルビア校長に知らせてくれないか?」


「承知しました。」


◈テレポート ロータスをサリヴァンへ


灯生はロータスをミンチェスター家があるサリヴァンへと転移させた。


「ライザン長老。他に同盟を結べそうなものは国はありますか?」


「うむ。それはまた同盟の場で話し合おう。心当たりがあるにはあるんだが……。」


なにか含みがある言い方だ。言いにくいことなのだろう。


「分かりました。それならば後ほどということで。」


灯生は仲間たちを見回す。

ルーナ、リア、セリーヌ、アーロ、アルファス。そして魔王と勇者アポロン。

それぞれに、次なる戦いの覚悟が見える。


「また行くんだね、サリヴァンへ!」


リアがギラギラした目で灯生を見る。


「うん。ミンチェスターの屋敷に行こう!」


「どうした、リア?」


「今の力でどこまであのおじちゃんに通用するか試したいにゃ!」


「あー。なるほどね、そういうことね。」


タンリックさんと一戦試したいのだろう。

話していると、カイがある本を持ってリアの元へ来た。


「リア、“獣神の系譜”を解読するのに、俺が知っている獣人の古語をまとめた本だ。持っていくといい。」


「ありがとう、カイおじちゃん!」


「カイ、また同盟の場で会おう。」


「おうよ!灯生!」


灯生とカイは熱い握手を交わした。

灯生たちは歩き出す。戦は終わった。だが、物語は続く。


「俺たちの戦いは、まだ終わっちゃいない。」


いざ、再び魔法公国サリヴァンへ。


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