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16 先輩


「あ~、ゴールデンウィークも終わり、今月末には中間試験かぁ、だりぃ~。」


「あー、そうだったね。先生もそんなこと言ってたね。」

「まぁ、そんな大したことじゃないよテストなんて。」


「それを言えるのはテストができるやつだけだよー!」

「ねぇ~よっしー!教えてよ~勉強!」


「えっ!嫌だよ!」


「なんでだよ~いいだろぉ~。」


「じゃー、久万谷堂くまたにどうの大福5個が条件かな。」


「え、大福あげたら勉強教えてくれんのー!?」

「それぐらいお安い御用さ!!」


「決まりね。またいつやるか教えて。」


「おう!わかった!」


ちょろい。こいつはちょろいやつだ。


「おはよーん!なにー?勉強会すんのー?」


「あ、入野さん!おはよー。」


「おうよ!よっしーが教えてくれるって!」


「タダでとは言ってないよ。大福なかったらすぐ帰るからね。」


「分かってるよ~。」


「なに?平岡っち、大福好きなの?」


「うん、まぁ。久万谷堂の大福は特別かな。」


「ふ~ん。そうなんだぁ。じゃあたしも持ってくから勉強よろ~!!」


「え!!入野さんはいいよ!勉強くらい普通に教えるよ!」


「俺と態度違くねーかー!?」


「いやいや、あたしも食べてみたいから持ってくよー!」


「そ、そう?まぁ何個あっても嬉しいかな。」


「にひひひ~!そんなに好きとは~、いいことを聞いたなっ!」


なんだろ、この弱みを握られた感じは!?


「お、俺は無視か~。」



ー放課後。


今日は図書委員の活動で図書室の係だ。

本読み放題!安藤先生の新刊もあと少しで読み終える。

少し寂しいが、また読み返せばいい!!


図書室は静かで居心地がいい。

それに誰も来ないし、たまーに来ても2,3人だ。

ときたま寝てしまうこともある。

本のいいにおいが眠気を誘う。


さて本の続きを読むとするか。

と思っていたが・・・。



「あの。」


「あの。すみません。」


「あのー!!すみません!!」


「は、はいっ!!」


あれ、寝ていたのか。いつの間に。


「あの。起きましたか?起きたのなら、これ、借りたいんですが。」


「あ、す、すみません!貸出ですね。すぐ手続きします。」


どれくらい寝ていたのか。起こしてもらわなかったらずっと寝てたままだった。

あれ、この本、安藤先生の。


「はい、どうぞ!すみません、寝てしまっていて!」


「あ、いえ。ども。」


あれ、この人、あの時の、バイトの時見た地雷系の人。

この学校の人だったのか。


「あの!」


あ、呼び止めてしまった!


「はい?」


「その作家さん、好きなんですか?」


「え?なんでそんなこと聞くの?」


いや、そうだよな。当然の反応だ。


「この前、書店で安藤先生の本買ってたから!」


「あー。あの時の店員さんか。」

「まぁ好きですよ。」


「そ、そうなんですね!ぼ、僕もです!!」


「そうですか。」


「まぁそれだけなんですけど、気になって・・・。」


「安藤作品の中で何が一番好きですか?」


な、なんだ?唐突な質問??

あ、あの作品はどうだろうか。


「うーん、かなり迷いますね・・・。強いて言うなら、猿川探偵シリーズ1作目『オセロから目覚める朝の調べ』、ですかね。」


「ほう。君とは趣味が合いそうだね。また話そう。」


と言って、その地雷系の女子は図書室から去っていった。


「何で聞いてきたんだろう。」


安藤 正司著、猿川探偵シリーズ1作目『オセロから目覚める朝の調べ』。

安藤先生がミステリーの帝王たらしめたかなり初期の作品。

「新世界より」で知られているアントニン・ドヴォルザークの作品、序曲「オセロ」から発想を得たミステリー作品。


あの作品に出会ってなかったら僕は安藤 正司という作家を知らなかっただろう。


というよりも、あの作品まで知っているとは思わなかった。

絶対知らないだろうと思ってあの作品を言ったが・・・。


また図書室に来たら聞いてみよう。


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