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異世界で無双しない物語:翻訳スキルとコミュ力で生き延びます!?
異世界で無双しない物語:翻訳スキルとコミュ力で生き延びます!?
DAI
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年04月15日
公開日
1.5万字
連載中
平凡な大学生、佐藤健太(ケンタ)は、図書館で本を読んでいる時に突然、異世界に転生してしまう。見知らぬ森の中で老人と出会うが、言葉が通じない!? 異世界転生した主人公が、翻訳スキルとコミュ力だけを武器に危険な世界を生き延びていくサバイバル転生ファンタジーです。

第1話 転生


図書館が好きだ。


本棚に整然と並ぶ様々な種類の本たち。

古い本の紙の匂い。

街の雑踏とは違う、静まり返った異空間。

そして、本は知識の宝庫だ。

文字を読むことで、僕は今まで知らなかったことを知ったり、別の場所を旅したり、時には、こことは違う世界に冒険に出ることもできる。

図書館では、そんな経験がいくらでも出来るんだ。






僕は、佐藤健太。


どこにでもいる、ごくごく平凡な大学生。

読書好きなのは、子供のころに親が絵本をたくさん買ってくれたからだ。

子供の僕は、絵本を読むことで、この世界の広さを知った。

みんながスマホやタブレットで漫画を読んでいる時でも、

僕は紙の本を読むことにこだわった。

指で紙を触って、ページをめくる瞬間は、次の話の展開を想像してドキドキする。スマホの画面をタップするのとは全然違う。

だから、僕は図書館に通う。

ここは、僕の世界の全てだ。


今日も、僕は本を読んでいた。ファンタジー小説だ。剣と魔法の世界で魔王と戦う勇者の物語。胸が躍るとはこのことだ。

いよいよ、物語も佳境、魔王の城に勇者と仲間たちがたどり着いた。どんな恐ろしい敵が待っているのだろう?僕は手に汗を握っていた。


その時、急に僕はまぶしい光に包まれた。なんだ? 次の瞬間、僕は意識を失った。


目が覚めると、僕は見知らぬ森の中にいた。ここはどこだろう?

周りを見回しても緑の木々しか見えない。

すると、茂みの中から一匹の獣が現れた。小さなウサギのようだけど、

目が血走っていて、口からは涎を垂らし、唸り声を上げている。そして、前足には鋭くて長い爪が生えていた。爪には別の獲物のものだろうか?赤い血がついている。

僕は咄嗟に近くに落ちていた太い木の枝を持った。

と、次の瞬間。ウサギが僕めがけて飛びかかってきた。


シャー!!

僕は、木の枝の先をウサギに向けた。

長い爪が僕の頬スレスレの所を通っていく。

ブスッ!

木の枝がウサギの喉に刺さった。

ギャン!!

思わぬ攻撃を受けて驚いたウサギは茂みの中に逃げていった。

危なかった。あの爪で引っ掻かれたら大怪我しているところだ。

それにしても、あんな凶暴なウサギがいるなんて、ここはどこなんだろう?

ウサギの襲撃で動揺している気持ちを何とか抑えて、僕は歩き出した。


それから、1時間ほど歩いただろうか?

森の向こうに開けた平原が見えてきた。

どうやら、森はもう終わりのようだ。

そう言えば、飲まず食わずで歩き続けたから、喉が渇いてきた。

水を探さなければ。

すると、森を出たところに、奇妙な格好をしたお爺さんが立っているのが見えた。

フードのついたマントのようなものを身にまとっていて、左手には長い杖を持ち、白くて長いあごひげを蓄えている。ファンタジー小説によく出てくる魔法使いのような恰好だ。

お爺さんは、僕の方をじっと見ている。

「gh;ふぇdそhgfど@:gjfdg?」

お爺さんが僕に向かって何かを言った。聞いたことのない言葉だ。英語とも中国語とも違う。何語だろう?

「hfd;hfそ:ghgdそ:fghsfg。」

何を言っているのか全く分からない。

僕は、何とかジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとした。


次の瞬間、お爺さんが持っていた杖を僕に向けて何やら呪文のような言葉を唱えた。

「fd:sfkds:f!!」

杖の先から光が放たれ、僕にまっすぐ向かってくる!

僕は目を閉じ、両手のひらを前につき出して衝撃を待った。

・・・衝撃はない。怪我もないみたいだ。何が起こったんだ?


「すまんのう。これで言葉が通じるはずじゃ。」

日本語!お爺さんが日本語で話しかけてきた!

どういうことだ?

「お前さんのスキルを発動させたから、言葉がわかるようになったはずじゃ。わしの言ってることが判るか?」

スキルを発動させた?よくわからないけど、とりあえずこのお爺さんを頼るしかなさそうだ。

「言葉は分かります。あなたは誰なんですか?」

「おお、良かった。言葉が通じるな。わしは、魔法使いのハックじゃ。」

「魔法使い!?ここは一体どこなんですか?」

「ここはエルドランド王国。君をここに呼んだのは、わしじゃ。」


急にいろいろなことが起こったので僕は頭が混乱していた。ハックと名乗ったお爺さんに聞きたいことが山ほどある。

「ここにいても落ち着かんじゃろう?とりあえず、わしの家に行こう。」

そういうと魔法使いハックは歩き出した。

「あ、ちょっと待って!」

「付いてこい。」

ハックについていくしかない。まずは情報を集めなくては。


数十分ほど歩くと、石造りの小さな家が現れた。周りに家はない。ここに一人で住んでいるのだろうか?

「ここがわしの家じゃ。」

木製の古い扉を開けると、中は意外に広い。

部屋の真ん中にはテーブルといすがあり、奥には暖炉がある。横には台所。暖炉の横の扉はトイレだろうか?

「おじゃまします。」

僕は恐縮しながら家に入った。

「緊張せんでもいい。取って食ったりはしないでの。」

そういうとハックは椅子に座った。

「君も座りなさい。」

促されるまま、僕も椅子に座った。

「突然、見ず知らずの場所に来て、不安じゃろう?」

「はい。もう、訳が分からない。」

「順番に説明してやろう。名前は何じゃったかな?」

「佐藤健太です。」

「サトウ・ケンタか。ケンタで良いか?」

「はい。」

「ケンタをこの世界に召喚したのはわしじゃ。ここは、エルドランド王国。エルドランド王が治める国じゃ。」

「僕を召喚したのは、何のためなんですか?」

「エルドランド王国には危機が迫っておる。それをケンタに解決してもらいたい。」

「僕が?この王国の危機を解決する?どうやって?」

「ケンタには、この世界のあらゆる言葉を理解し訳せるスキルがある。それを使うのじゃ。」

「あらゆる言葉を理解する能力。それで世界が救えるんですか?」

「救えるとも。この世界の言葉は、国ごと種族ごとでバラバラじゃ。一応、世界共通語はあるが、使いこなせるものは少ない。」

「世界共通語。英語みたいなものか。」

「言葉が違えば、争いが生まれる。ケンタには、その仲裁をしてもらいたいんじゃ。」

「いきなり、そんなことを言われても。。。」

「そうじゃな。まずは、この世界のことを学ばなければいかんじゃろう。」

「世界のことを学ぶか。図書館でもあればいいけど。」

「図書館か。この王国の首都ならあるだろうが、ここからはちと遠いな。」

「僕は、まず、何をすればいいでしょう?」

「そうじゃな。まずは、この世界の暮らしになれる事じゃ。ここからしばらく行ったところに小さな村がある。そこで村人の話を聞くといい。」

「わかりました。僕に出来るかどうか分からないけど、やってみます。」

「よくぞ言ってくれた。期待しておるぞ。今日の所は疲れてるじゃろうから、うちで休んでいくといい。あとは、その衣服は異世界のものだから、わしがこの世界の服を用意しておこう。」

「何から何まで、ありがとう。ハック。」

「寝室は2階じゃ。ゆっくりと休め。」


こうして、僕の異世界生活が始まった。


その夜、僕はハックに晩ご飯をごちそうになった。

何かの肉と野菜をぶつ切りにして塩を振って焼いただけの料理だったけど、

すごく美味しかった。ビールは、日本のビールよりも苦かった。


酔い覚ましに外に出ると、空一面に星空が広がっていた。夜も明るい日本の空とは全く違う。溢れ落ちそうなくらいの美しい星空だった。

僕は、今日の出来事を考えると、興奮して、なかなか寝付けなかった。

まさか「異世界転生」なんてことが、僕の身に起きるとは。

僕は「翻訳スキル」だけで、この世界を救うなんてことが出来るんだろうか?


翌朝。

ハックが朝食を用意してくれた。何の卵か分からない目玉焼きと、パサパサのパン、それと、何の乳か分からないミルク。

用意してくれた服に着替え、簡単な武器も持たせてくれた。錆びかかった短剣でも、無いよりはましだ。


ハックに見送られて、僕は家を後にした。この先のことを考えるとわからないことばかりで不安になるけど、行くしかない。平原の中の一本道をとにかく歩き続けた。この辺りは、魔物の類はいないようで、何事も起こらない。少し拍子抜けだけど、僕の戦闘能力を考えれば、その方が助かる。

2時間ほど歩いただろうか?やっと村が見えてきた。


村の入り口にはアーチがあって、アーチの下に村の名前が書いてある看板がぶら下がっていた。僕のスキルのお陰で、この世界の文字も日本語に見える。この村の名前は「ミルド」というらしい。

僕は、アーチをくぐって村に入った。


村の中には、石造りの建物が四方に建っていて、中心には広場がある。看板がかかっている建物をみると、「宿屋」「武具屋」「道具屋」「酒場」「魔道具屋」など、ファンタジーの世界で見るような店が並んでいる。

やはり、情報収集は「酒場」からだろう。僕は酒場に入ることにした。


ギィッ。

両開きの木の扉を開けて、中に入ると、客が一斉によそ者を見るような眼を僕に向けてきた。その視線に耐えながら、僕はカウンターに向かう。

店主らしき男がこちらを睨んでくる。

「ご注文は?」

低い声で聞いてくる。逃げたくなる気持ちを抑えて僕は、

「この店で一番旨い酒を。」

精一杯、強がって言った。

「はいよ。」

グラスに入った酒が出てきた。透明だけど、向こう側の棚が揺らめいて見える。相当強い酒だ。

ある程度のお金は、ハックが用意してくれていた。その金で、まずは住む場所を確保しないといけない。僕は店主に聞いてみた。

「この村に空き家はあるか?」

「村はずれにボロイ家が一軒だけあるな。」

「そこの家主を紹介してくれないか?」

「そこにいるぜ。おい!こいつが家を貸してほしいだとさ。」

店主が声を掛けたのは、人間ではなくゴブリンだった。

この世界では、魔物と人間が一緒に生活しているらしい。

「あの家を借りたいって?ボロだからただで貸してやるよ。」

ゴブリンが臭い息を吐きながら言う。かなり酔っている。

「ただし、苦情は無しだ。修理は自分でやりな。」

「わかった。ありがとう。」

交渉成立だ。とりあえす住む場所は確保できた。あとは仕事だな。

ダメもとでゴブリンに聞いてみた。

「ついでに仕事も紹介してほしいんだけど。」

肉体労働でもなんでも、お金を稼がないと生きていけない。

「よそ者のくせに、随分贅沢だな。」

「そこを何とか頼むよ。」

「じゃあ、俺の畑仕事でも手伝ってもらうか。給料は、1日100マニーだ。」

「ありがたい。助かるよ。」

「じゃあ、さっそく明日から頼むぜ。」

こうして、僕は住む家と仕事をゲットした。


村はずれにある家は、辛うじて雨風がしのげるという感じのボロ家だった。

これは、修理にかなり時間と金がかかりそうだ。

その日は、最低限の寝床だけを確保して、眠りについた。


翌日。


ゴブリンの畑での仕事は、日本の農作業とさほど変わらないもので、作っている作物は、桜島大根を一回り大きくしたような作物だった。

煮て食べると旨いらしい。慣れない野良仕事で、体はガタガタだけど、充実感はあった。その夜は、ゴブリンの家で晩ご飯をごちそうになった。


「あんた、名前は何て言うんだい。」

「ケンタです。」

「俺はゴラムだ。」

「家と仕事の世話をしてもらって、ありがとう。」

「俺は、困ってる人をほっとけないだけだよ。この村の人間の中には、よそ者をよく思わないやつもいるけどな。」

「本当に助かったよ。」

「ケンタは、どこからこの村に流れ着いたんだい?」

「日本っていう、すごく遠い国から来たんです。」

「聞いたことない国だな。じゃあ、相当長い旅だったんだろ?」

「そうですね。長いというか一瞬というか・・・」

「で、旅の目的はなんなんだい?」

「この世界を知ることが旅の目的ですかね。」

「この世界を知ること。か。それは大変だ。じゃあ、すぐに別の場所に旅に出るのかい?」

「いえ、しばらくはこの村でお世話になろうと思ってます。」

「そうか、まあ、気が済むまでいたらいいよ。なんもない村だけどな。」

ゴラムが気のいいゴブリンで良かった。何だか、魔物のイメージが変わるな。


その夜は、畑仕事の疲れもあって、ぐっすりと眠ることができた。


ゴブリンと打ち解けた僕は、翌日から、畑仕事に更に精を出すようになった。

夜は酒場に行き、他の客と話して情報を得る。村人とも、大分打ち解けてきた。

辺境の村ではあるけど、この世界の概要は、分かってきた。エルドランド王国は、この世界の半分を領地に持つ大国で、周囲に幾つかの小国が存在する。首都エルドは周囲を城壁に囲まれた大都市で人口の半分が住む。人間と魔族が共存していて、一部の魔物は、人間との共存を望まず、時々テロ行為をしている。言語は世界共通語が存在するものの、人間と魔族の一部にしか浸透していない。首都以外では、通じないことが多い。ちなみに、このミルド村も共通語は通じない。


やはり、この世界を知るには首都エルドに行く必要があるな。

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