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第2話 古代人の末裔の少女


そんなある日。


その日は、畑仕事が休みで、僕は村の中を散歩していた。広場に行くと、何やら人だかりが出来ている。何事かと思って見に行くと、女の子が一人で周りの人に必死に何かを訴えていた。

「@adjjmmgpjjdkgjjdd!」

どうやら、この辺りの言葉では無いようだ。早速、僕は、スキルを発動した。

「助けてください!」

女の子は、何か助けを求めているようだ。

僕は、彼女の話を聞くことにした。

「どうしたんだい?僕で良ければ話を聞くよ。」

「私の言葉が分かるんですか?良かった。分かる人がいて。」

「ここは人が多い。場所を変えよう。」

「はい。わかりました。」

僕は、女の子を連れて酒場に入った。

角のテーブル席に座って、飲み物を注文し、落ち着いたところで、改めて話を切り出した。

「それで、君の名前は?」

「私はリリアです。」

「僕はケンタ。よろしく。」

リリアは、赤くて長い髪をしている。背は160㎝くらい、歳は18くらいだろう。種族は人間だ。

「私、ここから1日ほど歩いたところにある小さな集落の出身なんです。食べ物が底をついてしまって、食料を分けてもらいに来たんですけど、言葉が通じなくて。あなたがいて助かりました。」

「食料を買うお金はあるのかい?」

「少しなら。」

そう言って、彼女は、腰につけた袋を開けた。金貨が数枚入っている。本当に少しだ。これでは1人分くらいにしかならないだろう。

「これじゃあ、少ないから、僕のお金も足してあげるよ。」

「そんな。悪いです。」

「大丈夫。僕はまだ余裕があるし、困っている人は助けなきゃ。」

「ありがとうございます!」

そして、僕らは、食料品店に買い物に行った。干し肉や米など保存のきくものが中心だ。

「こんなに沢山。これで集落のみんなが助かります。ありがとうございました!」

「荷物が多いし、女の子の一人旅は危険だ。僕も集落まで一緒に行くよ。」

「そんな、そこまでお世話にはなれません。」

「大丈夫。君のボディーガードをやらせてくれ。但し報酬はもらうよ。それで良いだろう?」

「わかりました。よろしくお願いします!」


こうして僕は、リリアの集落まで一緒に行くことにした。


リリアの集落へは、この村から丸一日は歩く。一晩は野宿になるということだ。僕らは翌朝早くに出発することにした。


この辺りは、まだ魔物が少ない。いたとしても、森の中で最初に戦ったウサギくらいのレベルのヤツだそうだ。集団でこられたら厳しいけど、僕一人で何とかなるだろう。

しばらく歩くと泉があった、ちょうど喉が渇いていたところだ、ありがたい。

僕は両手で掬って水を飲んだ。リリアも水を飲む。なんだか、この辺はのどかで、ピクニックにでも来ている気分になる。


「リリアの住んでる集落は、どんなところなんだい。」

「家が数件あるだけの小さな集落です、作物を育てて、自給自足で生活してるのだけど、今年は不作で。困っていたの。」

「村との交流は?」

「私たちとは言葉が違うから交流はほとんど無かった。どちらもお互いに干渉しない。ずっとそうやってきたの。昔は私たちの集落も大きな村だったんだけど、若い人が都会に出て行ってしまったりして、人が減ってしまった。」

「若い人はリリアのほかにはいないのかい?」

「私が一番若いの。あとは老人がほとんど。」

「そうか、君らの言葉はなんでミルドの村と違うんだい?」

「私たちは、昔、高度な文明を持っていた古代人の末裔だと言われているの。集落の近くには遺跡もある。古代人の言葉がずっと受け継がれてきているの。」

「古代人か。なんだかロマンを感じるな。」

「ロマン?」

「いや、魅力的で興味があるってことだよ。遺跡を調べたら何かわかるかもしれない。」


話しながら歩いていたらすっかり陽が暮れてしまった。

「今日は、ここで野宿しよう。」

火を絶やさないようにして、彼女を寝かせ、僕も仮眠をとった。




ウトウトしかけた、その時だった、


グルルルルルッ

獣の唸り声で目を覚ました。

2つの目が光っている。

僕は片手で短剣を構え、もう片方の手で松明を持った。

こいつはオオカミのような魔物だ。

魔物は、こちらを睨みつけている。

僕は松明を左右に振って、追い払おうとした。

しばらく睨み合いが続いた後、オオカミは逃げていった。

・・・助かった。

リリアは寝息を立てている。

僕は、それから寝ずに番をした。


翌朝。

「おはよう。」

「リリア、よく眠れたか?」

「うん、ばっちり。」

僕は、寝不足だよとは言えないな。

「君の集落までは、あとどれくらい?」

「あと半日くらいかな。」

「よし、急ごう。」

僕らは、歩き出した。


昼を少し過ぎたくらいだろうか?

集落が見えてきた。

木に囲まれた中に数件の三角屋根の家が建っている。

まるでおとぎ話の絵本に出てきそうな家だ。

「ここが私の家。どうぞ、入って。」

「お邪魔します。」

「荷物はここに置いておいて。」

案外広いリビングだ。僕は、持ってきた食材を床に置いた。


この集落はすごく良さそうなところだけど、他の村との交流がないのが問題だな。言葉が通じないというのが厄介だ。僕の力で何とかできないだろうか?

「リリア、今回みたいに他の村に食材を買いに行くことはよくあるのかい?」

「そうね。作物が不作の年は特に多いかな。」

「毎回、リリアが行くのかい?」

「そう。私が一番若いから。一番近くの村でも片道1日かかるし。」

「大変だね。言葉も違うし。」

「でも、もう慣れたわ。」

そうは言っても、こんなことを繰り返すのは、やっぱり非効率だ。

僕が仲を取り持ってなんとかしなければ。

「僕が、ミルド村の人に頼んでみるよ。」

「本当に?そうしてもらえると助かるわ。」

「月に1回とか、定期的にここに来て、食料を分けてもらうようにすれば、いいかな。」

「そうね。それくらいで大丈夫だと思う。」

そうすれば、これをきっかけに村との交流が生まれるかもしれない。

僕は、早速、ミルド村に戻った。


村に戻ると、僕は酒場に行った。

酒場で昼間から飲んでいる八百屋や肉屋を捕まえて、交渉をするのだ。

「・・・というわけで、そこの集落に月に一度、食材を売りに行ってくれないか?」

「その見返りは何かあるのかい?」

「そこの集落では、珍しい作物が取れる。それから、手作りの服は珍しい装飾がされていて貴重な品だと思うよ。」

「よし。いいだろう。その話乗った!」

「交渉成立だな。」


今度は、この交渉の話をリリアにしないといけない。

僕は、リリアの集落に向かった。

リリアと集落の長のおじいさんに話をする。

「・・・というわけで、この集落の作物と服を毎月、用意してもらいたいんです。それと交換で食材が手に入ります。」

「悪い話ではないわね。ねえ、長?」

「向こうから来てくれるというのは、ありがたい。これでわしらも生活できる。」

「では、交渉成立ということで良いですね?」

「よろこんで受けさせてもらいます。」


こうして、ミルド村と集落の交易が始まった。村からの食材は、馬車で運ぶ。これなら集落まで数時間で行けるので楽ちんだ。村に馬がいるなら、もっと早く教えてもらいたかったが。

集落の作物と手作りの服も好評で、ひとまず、交易はうまくいきそうだ。そして、リリアは毎月、村に通って言葉を勉強するようになった。将来は通訳になりたいそうだ。全てが丸く収まったようで良かった。




そんなある日、集落に新たな脅威が迫りつつあった。


僕は、リリアの集落に世話になっていた。何故かというと。近くにある遺跡に興味を持ったからだ。遺跡の調査にはリリアも同行してくれている。

僕の「翻訳スキル」のおかげで、遺跡に刻まれた古代の文字も問題なく読める。考古学者なら喉から手が出るほど欲しいスキルだろうな。冒険にはあまり役立たないけど。


古代の人々は、かなり進んだ文明を持っていたようだ。魔法の力で農業や工業が発展していた。そういえば、魔法使いのハックがいるということは、今のこの世界にも魔法があるということか。なぜ古代文明は滅んでしまったんだろうか?やはり戦争か?


リリアに古い言い伝えなどは伝わってないか聞いてみたけど、特に無いみたいだ。


首都エルドの図書館なら、何か文献があるかもしれない。やはり、いつかは首都に行かないといけないか。

旅に出るとなると、用心棒が必要だな。村に腕っぷしの強いのが何人かいるけど、世界を旅するとなると尻込みするかもしれないな。どうやって探そう。


「リリアって、何かスキルは持ってるのかい?」

ふと気になって聞いてみた。

「私は、回復系と攻撃補助系の魔法が使えるわ。」

回復系!?それで、女の子一人でもミルド村まで行けたのか。

「リリアは、外の世界には興味があるかい?」

「興味はあるけど、集落の人がいるから・・・」

「そうか。そうだよね。」

回復魔法の使い手が仲間にいれば、心強いんだけどな。

村でだれか探してみるか。


そんな時、集落で事件が起こった。


村からゴラムが作物を交換に来ている時だった。

「じゃあ、この大根は、ここに置いとくな。」

「ありがとう、助かるよ。」


「畑が大変だ!みんな来てくれ!」

叫ぶ声が聞こえた。僕とゴラムは、急いで畑に向かった。

畑を見ると、作物が荒らされている。ひどい状態だ。

「魔物にやられた。どうしたら良いんだ。」

どうやら、この近くを縄張りにしている魔物にやられたらしい。

動物避けの対策なんて、あまり意味がないだろうし、退治出来るような戦士も、この集落にはいないよなぁ。


「俺が、魔物退治しようか?」

突然、ゴラムが言い出す。ゴラムって、まさか戦士なのか?

「俺は、こう見えて、ウォリアーだ。任せてくれ。」

灯台下暗しとは、このことだ。まさか、こんなに近くに戦士がいたとは。

「じゃあ、僕も行こう。1人じゃ危険だ。」

流石に、ゴラムが戦士だと言っても、1人で行かせる訳にはいかない。

「よし、ケンタと一緒なら、心強い。よろしく頼む。」

話が決まりかけた時、もう1人手を上げた。

「私も行く。回復魔法を使える仲間がいた方が良いでしょ?」

リリアだった。

「リリア、気持ちはありがたいが危険だぞ。」

「大丈夫。それに私の集落の問題だもの。」

「わかった。一緒に行こう。」



こうして、僕、ゴラム、リリアの3人で魔物退治に行くことになった。


3人で森の中に入って行く。ザコ敵はいなそうだ。もしかしたら逃げてしまったのかも知れない。それだけ強い魔物という事だろう。

僕らは森の奥に入って行く。古代の遺跡が見えてきた。この辺りで魔物は見たことがないけど。

!?

何か獣の唸り声のような音が聞こえる。

「ゴラム、聞こえたか?」

「ゴブリンは耳が良い。さっきから聞こえてるよ。」

ゴラムは、周囲を警戒している。

森の奥に大きな黒い影が見えた。

向こうもこちらを警戒しているようだ。

次の瞬間、巨大な影が襲ってきた!

「グリズリーだ!」

茶色い毛のデカい熊だ。


僕たちは、身を翻して、グリズリーを囲んだ。

グワーッ!

グリズリーが大きな腕を振り回して、リリアに襲いかかる!

ゴラムが間に入って、グリズリーを斬りつける。腹にダメージを与えたようだ。傷を負ったグリズリーは益々凶暴になる。


??

突然、僕の頭の中に、何かのイメージが流れ込んできた。視界に僕たちが見える。次は右手でゴブリンを殴る?

これはグリズリーの思考だ!僕は咄嗟に叫んだ!

「ゴラム!右パンチが来るぞ!」

グリズリーの右手がゴラムに襲いかかる。ゴラムは、それを避けて、グリズリーの首をはねた。

バタン!

首を切り離されたグリズリーの体はそのまま前のめりに倒れた。

グリズリーに勝った。

僕はほっとして、その場に座り込んでしまった。

「やったぞ!グリズリーを倒した!」

ゴラムが勝利の雄叫びを上げた。

「ゴラムさん、凄い!本当に強いのね。」

リリアがゴラムに抱きついた。

ゴラムは照れている。

「ゴラム、本当に強い戦士だな。見直したよ。」

ゴブリンが戦士だなんて、この世界は、普通のファンタジーじゃないんだな。

「ところで、ケンタ。どうして、グリズリーの右パンチがわかったんだ?」

「それが、急にグリズリーの考えが頭の中に流れ込んで来たんだ。僕にも理由はよく分からない。」

「魔物の考えたことが分かる、か。ケンタ。お前が持ってる翻訳スキルと関係があるんじゃないか?」

ゴラムの言う通りだ。もしかしたら、僕のスキルを発動させた魔法使いハックなら、何か知ってるかも知れない。

「ちょっと心当たりがある。その人なら、知っているかもしれない。」

「じゃあ、その人に聞きにいきましょ!」

リリアが妙に前のめりだ。

「俺も賛成だ。一緒に行くぜ。」

ゴラムも乗り気か。

「よし、3人で、その人の家に行こう。」

僕らは、魔法使いハックの家に行くことになった。


ゴラムの馬車に乗って半日でハックの家に着いた。やっぱり、徒歩より早い。当たり前だけど。


ハックの家から旅立ったのが、随分前のような気がする。それくらい、この短期間で色々あった。


玄関のドアをノックしたが、返事が無い。

「ハック。ケンタです。いらっしゃいますか?」

「おお。ケンタか!入りなさい。」

家の中から声がした。

「お邪魔します。」

僕は家の中に入った。

「ご無沙汰してます。ハック。一緒にいるのは、ゴラムとリリア。」

「初めまして。よろしくお願いします。」

リリアがハックに挨拶をする。

「このお嬢さんは、古代の民族の末裔だね。訛りに特徴がある。」

そうか、リリアは言葉を勉強中だったな。訛りで出身がわかるのか。

「俺はゴブリンの戦士ゴラム。」

「ゴブリンの戦士か、なかなか珍しいのぅ。」

「ハック、今日は、聞きたいことがあって、来たんだ。」

「分かっておる。ケンタのスキルのことじゃな。長くなるから、しばらくゆっくりして行けばいい。」

ハックは、やはり何かを知っている。


僕らは、ハックの家にしばらく滞在することにした。


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