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第3話 旅立ち

僕は、ハックにグリズリーと戦った時のことを話した。

「戦っている時に、魔物の考えてることが見えたんです。」

「魔物の考えが分かったのか?それは興味深いな。」

「僕のスキルは、翻訳ですよね?言葉を持たない魔物の考えていることが見えると言うのは、一体、何なんでしょう?」

「恐らく、ケンタのスキルが進化したのか、それとも、元々、その能力も備わっていたのか。」

「元々、備わっていた?」

「魔物は言葉を持たない。だから、言葉の代わりに、相手の考えが読めるのではないか?」

「なるほど。それなら、無用な戦いを避けられるし、もし、戦闘になっても、相手の先の行動が分かって便利だな。」

「ケンタは、人間と魔物の架け橋にもなれるかも知れないな。」

「人間と魔物の架け橋・・・。人魔共存か。」

「そう言えば、その翻訳スキルも役に立っているようじゃな。古代人の末裔やゴブリンと仲間になるとは。」

「正直、戦闘ではあまり役に立たないけどね。」

「さっきも言った通り、戦いが全てでは無い。話し合いで解決することも大事じゃ。」

ハックの言う通りだ。僕は、そもそも、相互理解でこの世界に平和をもたらすために転生したのだ。


僕とハックの話が続いている間、

ゴラムは、旅に備えて1人で剣の稽古をしている。

リリアは、旅に着ていく服か何か裁縫をしているみたいだ。


「僕は、首都エルドに行こうと思う。古代遺跡のこととか、調べたいことが山ほどあるんだ。王立図書館に行きたい。」

「首都までの旅は過酷じゃぞ。そうじゃ、わしも一緒に行くとしよう。」

「ハックも一緒に?良いのか?」

「もちろんじゃ。そもそも、ケンタを巻き込んだのはわしじゃしな。責任を取らんといかん。」

「ハックが仲間になってくれると、頼もしいし、とても助かるよ。」

「じゃあ、決まりじゃな。」


こうして、魔法使いハックが仲間になった。



「そうと決まれば、早速、明日、ここを出発しよう。」

「え、明日?」

僕は慌てて、ゴラムとリリアを呼んだ。

僕とハックとの話の内容を説明する。

「わかった!ハック。よろしく頼む。」

「ハックさん、よろしくお願いします!」

「ゴラム、リリア。首都までの旅は長い。何ヶ月、いや、何年掛かるか分からない。それでも、一緒に行ってくれるか?」

「もちろんだ。」

「私も広い世界を知りたいわ。」

「2人の気持ちは、分かったよ。みんなで一緒に首都エルドまで行こう。」



首都エルドまでの長い旅が、いよいよここから始まる。


少しくたびれたゴラムの馬車に手を入れて、4人が乗っても大丈夫なように補強した。馬車を引く馬は、シバという名前で長距離の移動にも耐えられそうなガタイの良いゴラム自慢の馬だ。この馬なら、長旅の仲間として申し分ない。最低限の食料や飲み水を積んで出発だ。


途中、ミルド村に寄って、足りない物資を積み込む。村人たちともしばらくお別れだ。ゴラムが村人と別れの挨拶をしている。僕も酒場の主人や世話になった人たちに挨拶をして、出発した。


「これで、ミルド村ともしばらくお別れだな。」

ゴラムが感慨深げに言う。

道は、何処までも真っ直ぐに伸びている。その遥か先には白い雪をかぶった険しい山々が連なっている。草原の途中の分かれ道を進むと深い森の中にリリアの集落がある。僕らは、集落に立ち寄った。

リリアは、集落の人たちと笑ったり泣いたりしながら、別れを惜しんでいた。

「里のみんなは、きっと大丈夫だよね。ミルド村の人たちもいるし。」

リリアも後ろ髪を引かれる思いだろう。

「リリア、心配ないよ。ミルドの人たちはみんな良い人だし。」

僕は、リリアを元気づけようと出来るだけ明るく言った。

「さあ、行きましょう!エルドに向かって出発!」

リリアが涙を拭いながら明るく言った。

「よし、出発じゃ!」

ハックが手綱を持った。


ここから、いよいよ、本当の旅が始まるんだ。僕は身の引き締まる思いだった。



首都エルドまでは、馬車でも、2〜3ヶ月は掛かる。道は、もちろん舗装なんかされてない。石がゴロゴロしたガタガタの道だ。快適には程遠い。すぐにお尻が痛くなる。道の周りは、ただ何もない草原が広がっている。たまに小さな林があるくらいだ。あまりにも何もなくて退屈で暇を持て余す程だ。


「何もおこらないね。」

僕が欠伸を噛み殺しながら言うと、

「何も起きないのはいいことじゃ。いちいち魔物の相手などしてられんからの。」

ハックの言う通りだ、魔物が出ないに越したことはない。

「俺の腕が鈍っちまうな。」

ゴラムは戦いたくてウズウズしているみたいだ。

リリアは、この馬車の揺れでもぐっすり眠っている。こんな揺れで眠れるなんて羨ましい。

「こういう冒険って、魔物と闘いながら進むものだと思ってたんだけどね。」

「ケンタの世界ではそうだったかも知れないが、この国では、平原に魔物はそうそう出ないよ。」

まあ、ゴラムのいうこともわかる。ゲームみたいに頻繁に魔物が出たら、実際生活が成り立たないだろう。

「次の村まではどれくらいかかるかな?」

「うーん、あと2~3日ってとこかな?」

案外遠い。異世界の旅って、こんなに退屈なのか。僕は少し寝ることにした。




「ケンタ!ケンタ!おい!起きろ!」

何だよ。もう着いたのか?

「寝ぼけてないで、起きてよ!」

リリアまで、何だよ。仕方ない起きるか。。。


ガタン!!

馬車が激しく揺れた。

僕は、慌てて飛び起きた。

何だ、何が起きたんだ?


「やっと起きたか。ケンタ。魔物が出たのじゃ。手伝え!」

ハックが僕の方を見て叫ぶ。

ゴラムとリリアの前には、虎のような長い牙を持った生き物がいた。

「サーバルタイガーだ!ケンタ!心を読んでくれ!」

サーバルタイガーは2頭いる。右側の奴の思考が、僕の頭の中に飛び込んできた。

「右のヤツ!ゴラムに飛び掛かってくるぞ!」

「よし!」

ゴラムが剣を構えると、右側のサーバルタイガーが飛び掛かってきた。

タイミングよく、ゴラムが剣で切りつける。

ギャン!

サーバルタイガーをやっつけた。


すると、もう一頭の思考が頭に流れ込んできた。

「今度はハックの方に行くぞ!」

「任せるのじゃ!炎よ、出でよ。ファイア!」

ハックの魔法がさく裂した。

グワーッ!!

サーバルタイガーは燃え上がり、まっ黒焦げになった。

「みんな、怪我はない?」

今回、リリアの出番は無さそうだ。

「ケンタ!ありがとう。流石だな。」

「僕は、あいつらの動きをそのまま伝えただけだよ。」

「そのお陰で、速く対処出来たのじゃ。助かったぞ。」

「ゴラム、ハック。ありがとう。」

僕も、みんなの役に立てたのだろうか?少し不安になる。


サーバルタイガーの肉は旨いらしい。2頭のサーバルタイガーをゴラムがその場で捌いて、馬車に積んだ。こういうのも、本やゲームでは無い体験だ。

サーバルタイガーの生肉は、流石に血生臭い。体に臭いが染みつきそうだ。

「よし、行こう。」

陽が落ちてきたので、僕らはしばらく先で野宿することにした。



早速、サーバルタイガーの串焼きを食べてみる。思っていたよりも柔らかくて、噛み切れないほどではない。塩味だけでも十分に美味しい肉だ。

お腹が満たされると眠くなってくる。


「ケンタ。あなたの国の話を聞かせて。」

リリアが話しかけてきた。僕の元の世界の話に興味津々のようだ。

「エルドランドよりは、文明が発達していて、魔物はいない。魔法もないけど、科学が発達していて、それで、いろいろなことが出来るんだ。」

「かがくは、魔法のようなものなの?」

「まあ、似たようなものかな?火をおこしたり、電気という雷を作ったり、電気の力で、自動車っていう馬車を動かしたり、火を起こして料理をしたり、重い物を運んだり、いろんな便利なことが出来るんだ。」

「すごい国なのね。ケンタがいたところは。古代文明よりも進んでいるかも知れないね。」

「そうだなあ。でも、この世界も素敵だと思うよ。僕の国では、電気の力で夜も昼のように明るくて、星なんか見えないし。」

「夜も昼みたいに明るいなんて、想像できないわ。」

「僕は、エルドランドの夜空の方が好きだな。こんなに沢山の星が見える。」

「そうね。星空の綺麗さではエルドランドの勝ちね。」

リリアが、星空を見上げる。

僕も、星空を見上げていた。

シーンと静まり返った夜。虫の声も獣の声も聞こえない。僕らの息遣いだけが聞こえていた。

リリアの手が僕の手に触れた。

リリアが僕の手を握ってくる。僕は自然と握り返した。

胸の音が高鳴る。

「ケンタ?」

「な、なに?」

声が裏返ってしまった。

「私、この時間がずっと続くといいなって思う。」

「そ、そう?」

「古代人の末裔ってだけで、集落に閉じこもっていた私に、広い世界を教えてくれてありがとう。」

「こちらこそ、この世界のことを教えてくれて、ありがとう。」

それから、僕らは、しばらく黙って星空を見ていた。




翌日。


昼を過ぎたころから急に黒い雲が表れ始め、激しい雨になった。向こう側は晴れているようなので、近くの森で雨宿りすることにした。枝ぶりの大きな木の下で、しばらく休息をとる。ここまで馬車を引いてきたシバも相当疲れているはずだ。

雨が強くなってきた。馬車の幌が激しく波打つ。こういう時に魔物が襲ってくるかもしれない。僕とゴラムは警戒を続けていた。


僕は、ふと気になったことをゴラムに聞いてみた。

「ゴラムは、なんで戦士になったんだい?」

「そうだなぁ。ガキの頃から戦士になりたいとは思ってたな。ゴブリンに戦士は無理だってバカにされたりもした。」

「相当、頑張ったんだな。」

「いい師匠に恵まれてね。種族関係なく接してくれる親切な人だった。」

「師匠は人間だったのかい?」

「いや、ドワーフだ。ガルムっていってな。名前が似てるから親近感があった。」

「ドワーフのガルムか。有名人なのか?」

「ドラゴンを倒したことがあるって噂はあったな。腕は確かだったよ。」

「ドラゴンを倒すなんて凄い人だったんだね。」

「そのガルムの下で10年近く修行した。それから、武者修行の旅に出たんだ。それで、ミルドの村にたどり着いたってわけ。」

「武者修行か。なんでゴラムが強い戦士なのが分かった気がするよ。」

「戦うゴブリンってのも格好いいだろう?」

「そうだね。」

ゴラムと話しているうちに、雨が止んできた。

そろそろ出発できそうだ。



雨が上がり、日が差してきた。

僕らは、森から出発した。近くの町まではあともう少しだ。

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