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第14話 魔族と人間




「国王陛下!転生者ケンタとその一行が参りました!」

王の間の扉が開く。

玉座に座るエルドランド国王が見える。

僕らは、国王の前まで歩み出た。


「ケンタとその仲間たちよ。この度は、魔王の城への遠征、ご苦労であった。」

「ありがとうございます。陛下。」

僕は頭を下げた。

「ところで、ケンタよ。人数が一人増えているようだが?」

!!ついにこの時が来た。僕は恐る恐る口を開いた。

「はい。こちらに居りますのは、魔王ミカエルでございます。」

シャキン!

周囲の護衛の兵に緊張が走る。無数の刃がこちらに向けられた。

「皆の者!槍を下ろせ!」

国王が一喝すると、兵たちは槍を戻して元の場所に戻った。

「魔王ミカエル殿。大変失礼した。私はエルドランドの国王。エルと呼んでくれ。」

国王の顔は緊張しているが、魔王ミカエルの方をじっと睨んでいる。

「わらわは、魔王ミカエル。ミカと呼んでくれ。」

「ミカ。魔族と人間の間には大きな溝があった。誤解や偏見があったと思う。これまでの非礼を許してほしい。」

「エルよ。わらわは怒ってはいない。静かに暮らしたいだけだ。過去のことは互いに水に流そう。」

「ミカから、そのように言ってもらえるとは有り難い。ケンタが持参した誓約書に私もサインをした。今後は、人間と魔族、手を取り合っていこうではないか。」

「手を取り合うつもりは無いが、お互いに干渉せず。ほっておいてもらいたい。封印は、もうこりごりじゃ。」

「わかった。魔王の城とその周りの地域は不可侵領域にしよう。」

「エルよ。そうしてもらえると、わらわも助かる。」

トップ会談の交渉は成立したようだ。僕はほっとした。

「それでは、国王陛下、これで失礼します。」

僕は、話をまとめて帰ろうとした。が、国王に呼び止められた。

「ケンタよ。まだ話は終わっておらぬ。」

「人間を襲う魔物が国の各地におる。その件について、ミカは関わっていないのか?」

「エルよ。わらわは魔物を人間にけしかけたりはしない。それは、わらわの知らぬことだ。ただ、人間に反感を持つ魔物たちを統べる者がいるという噂は聞いたことがある。」

「魔物を統べる者か。厄介だな。」

「わらわにとっても、問題じゃ。何かあれば協力は惜しまないぞ。」

「ミカよ。ありがとう。私の方でも探ってみよう。今後は情報交換は密にしていこうぞ。」

「ところでエルよ。そういうことなら、わらわは、しばらくこの王宮に滞在したいのだが、それは構わぬか?」

「ここにか?わかった。部屋を準備させよう。」

ミカが王宮に滞在!?それは・・・大丈夫なのか?

「ケンタは心配しているようだが、頭の角を隠せば問題なかろう。」

確かに、角が無ければ、普通の女の子にしか見えないけど・・・

「うむ。問題なかろう。必要なものがあれば言ってくれ。用意させる。」

「エルよ。いろいろありがとう。たすかるよ。」

「それでは、今後のことは、またおいおい話し合おう。」

「国王陛下、ありがとうございました。失礼します。」


こうして、エルドランド国王と魔王ミカエルの初会談は滞りなく?終わった。


エルドランド国王が魔王ミカエルの為に用意した部屋は、城のはずれにあった。一人で過ごすには十分すぎる広さだ。魔王ミカエルは、とりあえず、表向きは、隣国から来たミカ姫ということになった。

そして、魔王との和平交渉を仲立ちした僕らは、城への出入りが自由に出来るようになった。


「わらわの城に比べたら少し窮屈だが、贅沢は言えんの。」

「ミカ、おねがいだから問題は起こさないでくれよ。」

「わらわは、約束は守る。ここの方が何かと話もしやすいであろう?」

「そうだな。とりあえずは、魔物たちの怪しい動きを把握しないといけないし、ここには頻繁に来ることになりそうだ。」

「とりあえず、わらわの部下には情報収集を指示してある。お前たちは、しばらく待っておるといい。」

「わかった。何かあればすぐに言ってくれ。」


魔物を統べるものの正体を探るべく、僕らは動き出した。


それから数日後、


トントン。

扉をノックする音がした。

眠い目を擦りながら、僕は体を起こし、

「どうぞ。」と言った。

ドアが開くと、そこには、なんとアンヌがいた。

アンヌは、エルドランド国王の一人娘であり、僕らの友達だ。

また、勝手にお城を出てきたようだ。

「アンヌ。こんなところに来ちゃダメじゃないか!」

「ケンタ、一緒に来て。お願いがあるの。」

「お願いって?なに?」

「いいから、一緒にお城に来て。」

騒ぎを聞きつけた、ゴラム・ハック・リリアも起きてきた。

僕らは、アンヌと城に向かった。


「私、新しくお城に来たお姫様と仲良くなりたいの。」

「ミカエ・・・ミカ姫とかい?」

「ケンタたちは姫と知り合いでしょ?私を紹介してほしいなって。」

「それくらいなら、お安い御用だけど。」

そうか、アンヌには友達がいない。見た目はミカもアンヌも同じくらいの年頃だ。友達になりたいと思うのも当然か。

「アンヌ、ミカ姫は、その、ちょっと変わってるから、驚かないでくれよ。」

「大丈夫。私はどんな子でも仲良くできる自信があるから。」

ぼくらは、ミカの部屋の前まで来た。


ドタン!ウワーッ!やめてくださいー!!

扉の向こうから不穏な音が聞こえてくる。

僕は恐る恐るドアを開けた。

すると、


ドーン!

部屋の中から人が吹っ飛んできた。

僕は間一髪で身をかわした。

廊下には、大柄の女性が気を失ってのびている。衛兵だろうか?

部屋の中を覗くと、ミカがいた。


「ミカ、何してるんだ?」

「おう、ケンタか、あの衛兵が無礼を働いたものだからつい。」

「お城で暴れたらダメだって言っただろ?」

「すまん。ケンタ。もうしない。」

ミカは反省している様子だ。

リリアは衛兵の女性の介抱をしている。大丈夫そうだ。

とりあえず、僕らとアンヌは部屋に入った。





「・・・というわけで、アンヌ王女がミカ姫と友達になりたいと言ってるんだ。ミカ、彼女と友達になってくれるかい?」

「わらわは、良いぞ。」

「ミカ姫、ありがとう。これからは、ミカって呼んでいい?」

「もちろんだ。わらわは、アンヌと呼ぼう。」

何とか、仲を取り持つことが出来た。


「で、さっきの騒ぎは何なんだ?」

僕はミカに聞いた。

「その衛兵が、ずっと扉の外で暇そうにしてたから、遊んでやったのだ。」

「遊びで吹っ飛ばしたのか?」

「わらわの護衛に付くのなら、それなりに強いやつかと思ってな。体も鈍っていたし。」

そんなことで、人をぶっ飛ばさないでほしい。。。

リリアが口を挟む。

「ミカ姫は、強いんだから、普通の人に攻撃したらだめだよ。」

「・・・むう。リリア、わかった。反省しておる。」

ミカはリリアに対しては妙に素直だ。

それにしても、衛兵が女性というのは珍しいな。武器を持っていないようだったが・・・。

「リリア、衛兵さんは、大丈夫そうかい?」

「うん。私の回復魔法でほとんど全快まで回復できた。」

ドアの横に立っている衛兵に向かって僕は謝罪した。

「衛兵さん、僕の友人が申し訳ないことをした。お詫びするよ。」

「私は、仕事をしたまでです。お心遣いありがとうございます。」

見た目は、綺麗なお姉さんタイプだけど、来賓の衛兵を任されるということは、かなり強いんだろう。茶色のロングヘアーでスタイルも良い。大人の色気がある。

「衛兵さん、名前は?」

「キャサリン・ブラウンです。」

「じゃあ、これからは、キャスで良いかな?」

「はい!ありがとうございます!」

キャスは武器を使わない格闘家タイプの戦士で、子供のころから王宮の衛兵に憧れていたそうだ。頼もしい味方ができた。


一応、アンヌには釘を刺しておかないといけないな。

「アンヌ、くれぐれもミカ姫と一緒に脱走したりしないでくれよ。」

「わかったわ。ケンタ。約束する。」

「俺たちもたまには会いに来るからな。」

ゴラムが笑っていった。

「うん、ゴラムおじちゃんも遊びに来て。」


僕らがミカエルやアンヌたちと話しているころ、

その裏では、『魔物を統べるもの』が密かに動き始めていた。


それから、僕らは毎日のように王宮に行くようになった。ミカが問題を起こさないか心配なのもあるが、情報収集の為というのが、一番大きな理由だ。

国王の側近のハンス大臣ともだいぶ打ち解けてきた(出会いは最悪だったけど)。ミカとアンヌも仲良くなったようで、元気に城の中を走り回っている。


そんなある日。

「アンヌ様!アンヌ王女様!」

また、執事がアンヌを探し回っている。

「全く、困ったものだ。そろそろ落ち着いて欲しいのだが。」

「執事さん、大変ですね。」

僕は同情して言った。

「ケンタ様。あなたからもアンヌ様に言ってください。王女としての自覚を持つように。」

「アンヌは、まだ子供だからな。いずれ自覚するんじゃないかな?」

「そんな悠長なことは言ってられませぬ!他国から来賓を招いて晩さん会があるのですから。」

「晩さん会?他国からお客がくるんですか?」

「そうです。エルドランドの周辺の国々の王族を招いて晩さん会を年一回開催するのです。」

「それは、大変だ。」

「昨年の晩さん会も大変でした。アンヌ様が大暴れして・・・。」

執事さんの気持ちは察して余りある。あの王女を抑えるのは大変だろう。

「僕からもアンヌに言っておきますよ。」

「ケンタ様。よろしくお願いします。」

「任せてください。」

晩さん会か、情報収集には絶好の機会だな。

僕は、ハックを通じて国王に晩さん会に出席できるようお願いした。


そのころ、アンヌはミカと一緒にいた。護衛のキャスも一緒だ。

「ミカ、誰もいない?」

「うむ。大丈夫そうじゃ。」

「よし、行くわよ。私についてきて。」

そういうと、アンヌは城壁に向かって走り出した。

城壁に立てかけられた板を外すと、人が一人通れるくらいの穴が開いている。

「さあ、城下町に出発!」

とアンヌが言ったその時。

「アンヌ!どこに行くの?」

背後から声が聞こえた。リリアだった。

「アンヌ!ミカ!勝手に外に出たらダメだって言われてるでしょ?」

「こ、これは違うのだ!わらわはアンヌと散歩をしていて・・・。」

「ミカ!あなた、アンヌと城下に行くつもりだったでしょ!」

「ごめんなさい!リリア!私が悪いの!」

「まったく、キャスが付いていながら、こんなことに。」

「リリア様、申し訳ございません。」

キャスが申し訳なさそうに頭を下げる。

「さあ、3人とも。戻りますよ。」

「はい。。。」


3人は、リリアと一緒にミカの部屋に戻った。

「アンヌ様!いらっしゃいましたか!」

執事がほっとした表情でやってきた。

「執事さん、城壁に穴が開いてました。後で塞いでおいてください。」

リリアが執事に言うと、執事はお辞儀をして去っていった。

そこに、僕と大臣が通りかかった。

「リリア。アンヌとミカも、ちょうどよかった。」

「何?」

「3日後に晩さん会があるんだ。それに、みんな出席する。」

「晩さん会?楽しそう。」

「各国の王族を招待する晩さん会だから、くれぐれも失礼の無いようにしないと。特に、アンヌ。」

「はい。。。」

アンヌは申し訳なさそうにしている。

「リリア、僕らも出席するから、後でゴラムとハックと一緒に衣装合わせに行こう。」

「わかったわ。」

「では、よろしく頼む。」

ハンス大臣は行ってしまった。


それから、晩さん会に向けての準備が始まり、あっという間に3日が経った。



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