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第13話 魔王




廃墟の城を過ぎて、馬車は僕にとって未知の領域に入ってきた。

魔王の城が近づいてきているせいか、道中で魔物に襲われる頻度が上がってきた。そのたびに、ゴラムが剣を振るい、リリアが攻撃補助魔法を唱え、ハックが攻撃魔法で攻撃し、僕は、敵の思考を読んで戦いに貢献した。

鬱屈とした荒れ地が延々と続き、人の住む町や村も存在しない。

さすがに、体力も精神力も弱ってくる。そんな時だった。町が見えてきた。

僕らは、物資の補給と体を休めるため、町によることにした。


「こんな所に町があるなんて。」

リリアが不思議そうに見まわす。

「どうやら、魔族の町のようだぜ。人間が見当たらない。」

ゴラムが言う通りだ。見かけるのは魔族ばかりで、人間がいない。魔王の治める土地だというのを嫌でも実感する。

「とりあえず、宿屋を探そう。」

僕は、周囲を見ながら宿屋を探す。看板に使われている文字を見る限り、魔族の言葉が使われているようだ。僕はスキルを発動した。


宿屋を見つけ、交渉する。人間である僕らを見て、あまりいい顔はしなかったが、とりあえず宿は確保できた。物資の調達は、ゴブリンのゴラムに任せて、僕らは宿屋で一旦、休息を取った。

調達からゴラムが帰ってきた。

「ここの連中は、魔王を尊敬しているな。話をすれば、二言目には魔王様って言いだす。」

「魔族にとっては、いい王様ってことか。」

「でもよ。人間にちょっかいを出す輩のこともよく思ってないみたいだぜ。」

「魔族は人間と仲良くしたいと思ってるってことか。」

「人間に悪事を働く魔族は一部らしい。魔王もそれをよく思ってないみたいだ。」

「人間にも悪い奴はいるからな。魔族も人間も一緒ってことか。」

僕は、納得した。であれば、魔王とは交渉の余地があるということだ。


僕は、みんなに提案してみた。

「魔王や魔族は人間と敵対する意思はない。ということは、交渉の余地があるということだ。」

「確かにそうね。」

リリアがうなずく。

「だから、まずは、僕のスキルで魔王と交渉しようと思う。」

「交渉が決裂したらどうするんじゃ?」

ハックが聞いてくる。

「交渉が決裂したときは、リリア、封印魔法を頼む。」

「わかったわ。」

「リリアの出番が無いことを祈るよ。」

魔王がどんな奴かわからない以上、交渉が通じるかも判らない。でも人間との争いを好まないというのも確かだろう。僕の交渉力が全てのカギを握っているということだ。頑張らなくては。


宿屋で一日休み、体力も回復した僕らは、再び魔王の城に向かって動き出した。町の向こう側が霞んで見えなくなっている。そこを超えたところに魔王の城があるはずだ。町の反対側のゲートをくぐり、先に向かう。

霧で見通しが悪いので、慎重に進む。すると、数時間後、突然目の前に、巨大な黒い影が現れた。異様な雰囲気でそびえ立つそれこそが、


魔王の城だった。


その巨大な黒い城は、こちらを威圧してくるような存在感があった。

僕らは、城に向かって馬車を走らせる。大きな城門は開いていて、そのまま通ることが出来た。城門をくぐると、城までは直線の一本道が続いている。

城の前は、広場になっていて、真ん中に噴水があり、周りの生け垣は奇麗に整えられていた。馬車から下りた僕らは、巨大な城に圧倒されながら、玄関に向かった。





玄関の前に立つと、扉が勝手に開き、まるで招かれているように感じた。城の中は、薄暗くはあるが、外観からは想像できないほど綺麗で、一見、高貴な王宮のようだ。目の前の大階段を上った先に扉がある。

「あそこが魔王の間じゃ。」

ハックが言う。いよいよだ。この時、僕は緊張でスキルを発動するのを忘れていた。

大階段を一歩ずつ上がっていく。一番上まで上がると、魔王の間の扉が開いた。僕らは、魔王の間に入っていく。目の前の玉座には大きな黒い影のようなもやのような何かがいる。あれが魔王か。


と、突然何かが降ってきた!咄嗟に僕らはそれをかわす。

黒い刃のようなものが、僕らの前に突き立っていた。危なかった。


僕は魔王に向かっていった。

「お前が魔王か?」

「dflkhd;fgfdf:;あ?」

・・・ん?言葉がわからない。しまった!スキルを発動していなかった。僕は慌ててスキルを発動した。

「魔王!僕らは交渉をしに来た。戦うつもりはない。」

「お前たちは勇者か?」

「違う。」

「ならば、交渉は無い。帰るが良い。」

リリアにアイコンタクトして封印魔法の準備をさせる。

「魔王よ。僕の話を聞いてくれないか?」

「!?お前、この世界の者では無いな。」

「そうだ。僕は別の世界から、エルドランドに転生してきたケンタだ。」

「お前が転生者・・・。私を封印するつもりか。」

「いや、封印は出来ればしたくない。話し合いで解決しよう。」


魔王の黒い影が、だんだん小さくなっていく。

すると、玉座に現れたのは、リリアよりも小さな少女だった。

魔王が女の子?

「ハック。知ってたのか?」

僕はハックに問い質した。

「いや、わしは知らん。魔王と会ってすぐに戦闘になったからの。あんな小娘だったとは・・・。」

「誰が小娘じゃ!わらわは魔王じゃぞ!」

魔王が怒った。でも迫力がない。

「魔王。僕らは戦いに来たわけでも、封印しに来たわけでもない。話し合わないか?」

女の子相手なら、行ける気がしてきた。

「わらわは、魔王ミカエル。ケンタと申したな。そちらの話を聞こう。」

「僕らの望みは、魔族との友好関係です。お互いに干渉しないこと。攻撃をしないこと。それだけです。」

「わらわは、今までエルドランドを攻撃したことは無いぞ。お前たちが勝手に来て、わらわを封印していくのだ。こっちの方が迷惑している。」

「魔物に襲われている人たちもいるようなのですが。」

「それは、わらわに歯向かう奴らが勝手にしたこと。わらわは関係ない。」

「わかりました。では、こちらの希望は叶えていただけますか?」

「今の状況が守られるのであれば、わらわは問題ない。封印も無しじゃ。」

「では、交渉成立ということで宜しいですね?魔王ミカエル。」

「よいじゃろう。転生者ケンタよ。」

「では、この書類にサインを。」

僕は、用意しておいた和平文書を出した。魔王ミカエルのサインを貰って交渉成立だ。

「魔王ミカエル。ありがとうございます。エルドランド国王もお喜びだと思います。」

「エルドランド国王か、あいつとは因縁があるから、またゆっくりと話がしたいな。」

・・・その時は、僕が仲介しなきゃだな。


「ところで、転生者ケンタよ。」

「はい。なんでしょう。」

「お前の出身は、日本か?」

思わぬ言葉が魔王ミカエルから出て驚いた。

「は、はい。そうですが、なぜそれを知っているのですか?」

「わらわは、これまで何度も封印されてきたが、ただ、閉じ込められているだけだと思うか?」

「そう思っていました。違うのですか?」

「封印とは、異世界転移なのだ。わらわはこの世界で封印されると異世界に飛ばされる。」

「異世界転移・・・。」

「その異世界が日本だったんじゃ。ちなみに戻る方法はわからん。時間がたつと勝手に封印が解けて、この世界に戻ってくる。」

「では、封印魔法は、転移魔法だったということですか。」

「そうじゃな。ただ、ケンタが元の世界に戻る方法はわからん。自分で探せ。」

「そうですか。わかりました。」

「そういうことじゃから、これからは、気軽に遊びに来たらよいぞ。」

まさか、魔王ミカエルが日本を知っているとは。

「それから、わらわのことはミカと呼ぶがよい。魔王様という呼び名は好かん。」

「では、ミカ。僕たちはこれで。」


ふと気づくと、ゴラムとリリアとハックが呆気にとられて、ポカンとしている。

「ゴラム!リリア!ハック!帰るぞ!」

3人とも正気に戻ったようだ。慌てて歩き出す。


「ケンタ!待て!」

ミカに呼び止められた。

「なんだ?」

振り返ると、ミカが玉座を降りてこちらに向かってきた。

「わらわも一緒に行こう。」

「えっ!?」

「わらわが直接エルドランド王とあった方が話が早いだろう?」

それはそうだけど・・・急展開過ぎる。

「よし、わらわは決めたぞ。さあ、行こう。」

勝手に話が決まってしまった。

こうして、魔王ミカエルが仲間に加わった。


「ケンタ!正気か?魔王と一緒にエルドに戻るなんて。」

ゴラムが真っ青な顔で聞いてくる。

「魔族に敵対する意思がないことを伝えるには手っ取り早いだろ?」

僕は、もう腹を決めた。ミカを信じてみるしかない。

「女の子でも魔王だよ?信用して大丈夫なの?」

リリアの心配もわかるけど、もう決めたことだ。

「わしは、ミカエルに殺されるかも知れんの。」

ハックは、過去に封印した因縁があるから、複雑だろう。

「とにかく。ミカをエルドランド国王に会わせる。もし何かあれば、僕が責任を取る。」

僕は3人を無理やり説得した。


魔王ミカエルを加えた僕ら5人は、馬車で首都エルドに向かった。


僕はミカに気になることを聞いてみた。

「ミカ。君は魔王だけど、全ての魔物が従っているわけではないのか?」

「魔王も万能じゃない。反感を持つ者もいる。そういう輩は、人を襲う。」

「そういう魔物たちが集まって何か大きなことをするとかは考えられないか?」

「それほどの力を持った魔物はいないんじゃないか?少なくとも、前回封印されたときには、いなかったな。ただ・・・」

「ただ?」

「最近、魔物を統率する者が現れたらしい。何を企んでいるのかは知らんが。」

「魔物を統率する者か・・・そいつを探る必要があるな。」

「まあ、わらわの足元にも及ばないだろうがな。」


「ミカは封印された時はどうなるの?」

リリアが話に入ってきた。

「封印された瞬間に異世界に飛ばされる。そこは、魔法も無い、魔物もいない世界で、わらわも魔法やスキルは使えなくなる。ケンタなら知ってるだろう?」

「日本か。生活はどうしてるんだ?」

「まあ、何とかなっている。人に頼るのは屈辱的だが、仕方ない。いつ封印が解けるかわからんしな。」

日本でのことは、あまり話したくないようだ。

「じゃあ、転生した先でも、魔王やってるんじゃないんだね。」

リリアは、安心したような表情で言った。

封印魔法は、エルドランドと日本を繋ぐ『転移魔法』だった。その原理はまだわからない。でも解明できれば、元の世界に戻れるはずだ。


そして、数日後。

エルドの街が近づいてきた。

魔王ミカエルを連れている僕らは、緊張していた。

どんな風に街の人たちに迎えられるのだろう。

石を投げられたりするかもしれない。

不安な気持ちで街の門の前にやってきた。

衛兵が荷台をチェックする。

魔王ミカエルが乗っているが、そのまま通された。

なんだか拍子抜けだけど、そのまま王宮に向かった。

出発の時に比べると、静かな雰囲気だ。いつも通りの日常風景。

王宮につくと、馬車を止めた。

僕らは、馬車を降り、王宮の中に入る。


「ミカ。暴れたりしないでくれよ。」

僕は釘を刺した。

「わらわは魔王だぞ。そんなことはしない。」

大丈夫だろうか。僕の心配をよそに、ついに王の間の前についてしまった。






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