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第12話 岩山のゴーレム




2日後。

僕らは、南の岩山に向けて出発した。

馬車で草原を2日ほど進むと、ゴツゴツとした岩山が見えてきた。

灰色の石で出来た岩山は、雨の浸食で長い年月をかけて削られていったような、丸みを帯びた石の山がいくつも立っている。一部は、削れて切り立った崖のようになっていた。

馬車は、岩山の中にある道を奥へ奥へと進んでいく。その岩山の間の道を進むと、突き当りにたどり着いた。そこには、岩の壁に人が彫ったらしき神様をかたどった彫刻があって、ギリシャの神殿のような入口が中央に口を開けていた。

「何かの儀式をしていた場所のようじゃな。」

ハックが神殿を見上げて言った。

「この中に、賢者の楯があるのか。」

ゴラムも神殿のあまりの荘厳さに圧倒されているようだ。

「みんな、行こう。」

僕は、鼓舞するように言った。


馬車を入り口に停めて、僕らは神殿の中に向かった。

中は、ヒンヤリとしていて、寒いくらいだ。

誰もいないのに、左右の燭台に炎がついていく。

通路はずっと奥まで続いているようだ。

僕らはゆっくりと歩みを進めた。

左右の壁には、彫刻が施されていて、まるでエジプトのピラミッドの中のようだ。

「ここは、おそらく歴代の王の墓か、葬儀が行われた場所じゃろうな。」

ハックが言った。

言われてみれば、そんな雰囲気の場所だ。

しばらく奥に進むと、急に広い場所に出た。天井も高い。ここが儀式を行った部屋だろうか?

目の前の壁には、巨大な岩が人の形に彫られていて。今にもこちらに出てきそうだ。


すると、壁の巨人が動いたように見えた。

「壁が動いた?」

僕が呟くと、壁から腕が伸びてきた。

「ウワーっ!」

間一髪、僕らは、腕をかわした。

ドーン!!

腕は床に大きな穴を開けて、元の場所に戻った。

壁の巨人の股の間に、扉が見えた。あそこが出口だろう。

僕らは、アイコンタクトをして、みんなで扉に向かって走り出した。

が、壁の巨人が動いた。

ドドーン!!

両足を閉じて、扉を隠してしまった。これでは進むことが出来ない。

「あの巨人を倒すしかなさそうだな。」

僕は呟いた。

「そうだな。ここは俺に任せてくれ。」

ゴラムがそういうと、巨人に向かって走った。

「ウォー!これでも喰らえ!」

ゴラムが、巨人の右足に斬りつける。

「やった!手応えあり!」

巨人の右足の切れ目がみるみるうちに修復されていく。

「なんだと!」

「ゴラム、こいつはゴーレムじゃ!体を切ってもすぐに修復される!」

壁に埋まっていたゴーレムが壁から離れて動き出した。

天井まで届きそうな高さ。もの凄い威圧感だ。

「右腕が来るぞ!」

僕はゴーレムの思考を読んだ。

「よし!」

ゴラムが軽々とかわすと、右腕に飛び乗って、右手を切断した。

ブォー!

ゴーレムは切断された右手をすぐに修復する。これではキリがない。

僕はゴラムの思考を読みながら、弱点を探っていた。

「強化せよ!リインフォース!」

リリアが攻撃補助魔法をかける。

「水よ、出でよ!フロード!」

ハックが水魔法で攻撃する。

「ウリャー!」

ゴラムが、ゴーレムの巨体を斬り刻む。しかし、ゴーレムの体は、すぐに復活してしまう。僕は必死に弱点を探る。

「氷よ、出でよ。ブリザード!」

ハックの魔法で、ゴーレムが凍った。チャンスだ。

「粉々になれ!ウォー!」

ゴラムの一撃がゴーレムに炸裂する。ゴーレムの全身にひびが入り、粉々に砕け散った。

「やったぞ!」

ゴラムが勝利の雄たけびを上げる。

「やったな!」

僕らもゴラムに駆け寄り、喜びを分かち合っていた、その時。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ。

飛び散った岩の欠片が、集まり始めた。あっという間に、元の姿に戻っていく。

「そんな!うそでしょ?」

リリアが叫ぶ。

ゴーレムは何事も無かったかのように、元の姿に戻っていた。

「くそっ。奴の弱点はどこなんだ?」

僕は再び意識を集中して、ゴーレムの弱点を探る。

「左右のパンチが来るぞ!」

「うわっ。」

バキッ。

ハックが直撃を受けた!リリアが駆け寄って回復魔法をかける。

「ハック、大丈夫?回復せよ!ヒール!」

マズイ。早く弱点を探らないと。

ゴラムがゴーレムを斬りつけるが、すぐに回復してしまう。このままでは、こちらの体力が削られるだけだ。僕は、ゴーレムの意識のさらに奥を探ろうとした。

意識の中で土を掻き分け、ゴーレムの意識の中心を探す。すると手応えがあった。これだ!

「ゴラム!ゴーレムの頭を狙え!頭の中にゴーレムの核がある。それを壊すんだ!」

「よし、わかった!うぉおおおおお!」

ゴラムの剣が、ゴーレムの頭を細かく切り刻む。すると、赤い宝石のような塊が出てきた。

「ゴラム!その赤いのが核だ!」

「これでも喰らえ!!」

赤い石に向かって、ゴラムが剣を振り下ろした。石にひびが入り、真っ二つに割れた。


ヴォァーーーー!

ゴーレムが断末魔の声を上げる。

すると、頭から首、胸、両腕、腰、両足と、上から体が砂粒になり風に舞うように消えていった。

最後に残された、赤い石も、粉々に砕け散った。


「今度こそ、勝ったぞ!」

ゴラムが勝利の雄たけびを上げる。

「流石、ゴラムじゃ!」

「強敵だったね。」

僕らは、今度こそ本当の勝利の喜びを分かち合った。


ゴーレムの消えた後には、奥に繋がる扉がある。

僕らは、その扉を開けた。

扉の向こうは、小部屋になっていて、祭壇のような所に立派な楯が飾られていた。

「これが賢者の楯か。」

僕は、楯を手に取った。

見た目は重厚感があるが、持ってみると、そこまで重くない。実戦でも使えそうだ。

これで、賢者の石、賢者の杖、賢者の盾の3つのアイテムが手に入った。目指すは魔王の城だ。


僕らはエルドの街に戻った。


エルドの街には、僕らが賢者の楯を手に入れたという話がすでに伝わっていて、僕らはまるで勇者が凱旋したかのような大歓迎を受けた。人々は、魔王を倒せるかもしれないという期待感でお祭り騒ぎだ。

ひとまず、宿屋に戻って体を休めることにした。

宿屋の窓からは、魔王を倒す勇者が現れたという喜びに満ちた表情の人々がたくさん見える。

魔王とは、どんな姿をしているんだろう?倒さなければならない相手なんだろうか?僕のスキルで話し合いで解決出来ないだろうか?いろいろな事が頭をよぎる。


トントン。


ドアをノックする音がした。誰だろう?

「ケンタ、いる?」

リリアだ。

「開いてるよ。どうぞ入って。」

「ケンタ、街中大騒ぎだね。」

リリアが僕の隣に座った。

「僕らにみんな期待してるんだよ。」

「私たち、魔王と戦うんだね。」

「ゴラムとハックが居れば大丈夫。リリア、封印魔法は?」

「うん、頭に入ってる。大丈夫だと思う。」

「なんだか、リリアに負担をかけちゃって、申し訳ないな。」

「もう覚悟は出来てるよ。」

「リリアは、強いな。」

「そんなことない。ケンタが一緒にいるから、私も強くなれるの。」

「そうか、ありがとう。」

「今は、心と体を休めて。」

「そうだね。」

それから、しばらく二人で街の景色を眺めていた。


リリアと話して、不安な気持ちは落ち着いたけど、やっぱり、何か引っかかる。僕のスキルは古代から脈々と続くスキルだ。何か意味があって、僕がこのスキルを獲得したはずだ。魔王とは、本当に封印すべき存在なのだろうか?ドリアードと樹海村の人々のように、ボタンの掛け違いがあったんじゃないか?とにかく、魔王に会ってみないとわからない。

僕の覚悟も決まった。


翌日。

僕らは、エルドランド王に呼び出された。


「ケンタ、ハック、ゴラム、リリア。よくぞ参られた。」

「国王陛下。お目にかかれて光栄です。」

僕らは深々と頭を下げた。

「ついに、3つの道具を手に入れたな。」

「国王陛下のおかげです。」

「魔王との戦いは、熾烈を極めるであろう。お主たちの武運を祈っておる。」

「ありがとうございます。」


「ハックよ。」

「なんじゃ。エル。」

「ケンタ達の助けになってくれ。」

「もちろんじゃ。」

「すべてが終わった時には、旧友同士、酒を酌み交わそう。」

「エル。楽しみにしておるぞ。」


僕らの謁見は終わった。


それから数日。

僕らは魔王討伐の準備を進めた。

魔王の城は、廃墟の城から、さらに北に行った辺境の地に立っている。

長旅になるのは間違いない。

エルドの街にも、当分戻って来れないだろう。

出発の前日、僕らはエルフの酒場で最後の晩餐を楽しんだ。


そして、出発の朝が来た。


宿屋の前には、溢れるくらいの見送りの人たちが集まっていた。

僕らは、馬車に乗り込み、ハックが鞭を持つ。


宿からエルドの街の北門まで、切れ目なく人垣が続いている。

僕らは、改めてみんなの期待を一身に背負っているのだと実感した。


北門に着くと、衛兵が僕らに敬礼をして道を開けてくれた。

いよいよ、魔王の城への旅が始まる。






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