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第16話 宴の後、そして、魔神




「おい!ゴブリンが何をしている!」

突然、大きな声が聞こえた。

声のする方を見ると、ゴラムが誰かと揉めているようだ。

「俺は、ただ食事を取っていただけだ。」

「今、王妃のドレスを汚したではないか!」

どうやら、イストリア国の王妃と従者のようだ。

僕とハックはすぐにその場に向かった。

「どうされましたか?」

「このゴブリンが、王妃様のドレスを汚したのだ。汚らわしいゴブリンめ。」

「ゴラムは私たちの友人です。ドレスのことは申し訳ございません。不注意とはいえ、綺麗なドレスを汚してしまった。お詫びいたします。」

僕は、精一杯の誠意を見せた。

「気を付けてくれたまえよ。」

なんとか、この場は収まったようだ。

「ゴラム、君を悪者にしてしまって申し訳ない。」

「大丈夫だ、ケンタ。慣れてるさ。」

魔物に対しての偏見は強いようだ。イストリアの従者は、まだこちらを睨んでいる。


「皆さん!静粛に。これからエルドランド国王よりお話がございます。」

ハンス大臣が話すと、来賓たちがエルドランド国王の近くに集まった。

「ケンタ、ゴラム、リリア、ハック、こちらに。」

大臣に促されて、僕らはアンヌ王女の隣に並んだ。

「皆様もご存知の通り、我がエルドランド王国と、魔王ミカエルは、和平協定を結び、お互いにその存在を脅かさないことを約束した。」

国王が事の成り行きを話し出した。

「その和平に尽力してくれたのが、ここにいるケンタ、ゴラム、リリア、ハックの4人だ。彼らには感謝している。」

来賓から拍手が起こる。なんだか悪い気はしない。

「しかし、魔王ミカエルに反対するものが魔物の中にもいるようなのだ。その一部の魔物が我が国や皆様の国で争いを起こしている。この件については、私も魔王ミカエルも心を痛めておる。」

「魔王ミカエルもグルじゃないのか?」

イストリア国王が口を挟む。もっともな意見だ。

「イストリア国王、わが友よ。私は、魔王ミカエルと直接会って話をした。魔王は、争いを望んでなどいない。魔王は信用できると私は思う。」

来賓がざわついている。魔王を信用しろと言っても、すぐには難しいだろう。

「魔王を信用しろと言っても、簡単ではないことは判る。しかし、私を信じてほしい。」

「では、今、人間を襲っている魔物たちはなんなのだ。」

イストリア国王が疑問を投げかける。

「魔王ミカエル曰く、『魔物を統べる者』がいるらしい。我々は、その正体を探ろうとしている。」

話が核心に入ってきた。来賓たちも黙って聞いている。

「魔王にとっても、我々や皆さんにとっても、『魔物を統べる者』は共通の敵であり、脅威だ。ここは、ぜひ、協力してもらいたい。」

「エルドランド国王よ。わかった。イストリアは、協力を約束しよう。」

来賓から拍手が起こる。

「ありがとう。皆さん。私の話は以上だ。宴に戻られよ。」

来賓たちは、テーブルに戻っていった。

エルドランド国王のお陰で、僕らのことが各国に知られることになった。

これで、動きやすくなる。


テーブルに戻ると、ミカが退屈そうにしていた。

「わらわは、腹いっぱいで、もう飽きたぞ。」

「ミカは食べ過ぎよ。」

お目付け役のリリアも呆れている。

「エルドランド国王のお陰で、各国に僕らのことが広まったし、『魔物を統べる者』が共通の敵として認識された。これで、僕らも動きやすくなる。」

「なるほど。」

ミカがうなづく。

「ミカは引き続き情報を集めてほしい。その情報を元にして、僕らが実際に動く。」

「わかった。」

「くれぐれも、派手なことはしないでくれよ。魔王に対して不信感を持つ人は多い。」

「もちろんだ。わらわも余計なトラブルは避けたいからな。」





「皆さん、静粛に!」

ハンス大臣だ。

「宴もたけなわではございますが、国王陛下よりご挨拶がございます。」

国王と王女が立ち上がる。

「皆様、本日は、我がエルドランド国の晩さん会にお越しいただきありがとうございました。楽しんで頂けたでしょうか?今後も我が国と皆様方の国の友好関係が続くことを祈っております。それでは、これにて本日の宴はお開きといたします。ありがとう。」

来賓の拍手が起こり、エルドランド国王とアンヌ王女は退席した。

他の来賓たちも、宿泊する部屋に向かう。明日も外交交渉が行われるはずだ。

僕らは、ひとまず、ミカの部屋で休むことにした。


ミカの部屋に行くと、すでにアンヌ王女がいた。

「ミカ!やっと帰ってきた。もう、疲れたよー。」

アンヌはベットに倒れこんだ。

「サウザン王子はずっと話してるし。お食事もあまり出来なかった。」

「アンヌは、王女なのだから、仕方あるまい。」

ミカは魔王だけど、案外まともなことを言うな。

「アンヌ、疲れたでしょう?ゆっくり休んで。」

リリアが優しく声をかける。護衛のキャスもうなづいている。

「ホント、あんな型式ばった宴はコリゴリだね。」

ゴラムも疲れただろう。あんなトラブルもあったし。

「それにしても、情報収集は、あまり成果が無かったのう。ケンタよ。」

「それでも、エルドランド国王のおかげで、今後の活動はしやすくなったよ。」

ハックのいう通り、情報収集は出来なかったけど、前進はあった。僕らが各国に行くときにも行きやすくなったのは確かだ。

「今後の方針を決めないとだな。」

僕らは、しばらく、これからのことについて話し合った。





まずは東のイストリア国がいいだろう。僕が直接イストリア国王と話をしたというのもあるし、この世界で2番目の大国ということもある。なにかと情報は集まるはずだ。僕らは、イストリア国に調査に行くために段取りをつけ始めた。政治的な手回しはハックに任せて、僕やゴラムは食料や水の確保だ。


旅支度を進めていた僕らを、エンドランド国王が呼び出した。


「ケンタよ。忙しいところ、呼び立てして申し訳ない。」

「いえ、国王陛下。どう言ったお話でしょうか?」

「イストリア国に行く前に、ケンタたちの耳に入れておきたい情報を掴んだのだ。」

「どんな情報でしょうか?」

「『魔物を統べる者』の正体についての情報だ。」

執事が、古めかしい書物を国王の手元に持ってきた。

「この書物によれば、『魔物を統べる者』とは、人間ではない。魔物の神『魔神』だ。」

「魔神。ですか。」

「うむ。その魔神は、闇に覆われた深淵の国を治めているそうだ。」

「深淵の国、、、それは、どこにあるんですか?」

リリアが聞いた。

「それは、私にもわからない。ただ、この書物には、そう書いてある。」

「その魔神を探せば良いんですね?」

「ケンタよ。その通りだ。この書物によると、魔神は、人間に紛れているらしい。わかったのはここまでだ。」

「国王陛下、ありがとうございます。私たちは、魔神を探すため、これから、世界を旅してまわります。」

「うむ。頼れるのはケンタたちだけだ。よろしく頼むぞ。」

「わかりました。陛下、失礼します。」

僕らは、王の間を出て、ミカの部屋に戻った。


「魔神か。人間に紛れているってのは、厄介だな。」

僕は、ため息をついた。

「イストリア国で、何か手がかりが見つかれば良いけどな。」

ゴラムも不安そうな顔をしている。

「ミカは、魔神について何か知ってる?」

リリアがミカに聞いた。

「わらわは知らん。ただ・・・」

「ただ?」

「いにしえの魔王は、魔神を配下に従えていたというのは、聞いたことがある。」

「いにしえの魔王か。」

「とにかく、動いて調べるしかなかろう。」

ハックの意見に、皆うなづいた。


「すみません!」

突然、キャスが話し出した。

「私も、その旅のお供をさせてください!」

「キャス、お城の警備は大丈夫なのか?」

「隊長には、許可を頂いています。」

仲間が増えるのは心強い。

「キャス、わかった。一緒に行こう。」

「ありがとうございます!」

こうして、キャスが仲間に加わることになった。


ミカとキャスを仲間に加えた僕らは、エルドランド国王から、新しい馬車を用意してもらった。荷物を積んでも数人は人が乗れる大きさの頑丈な馬車だ。


「よし、イストリア国に向けて、出発じゃ!」

ハックが手綱を持ち、僕らは出発した。

エルドランドの東側は、草原が広がっている。途中、いくつかの町や村を通ったが、魔物について、特に目立った動きは無かった。

首都エルドを出発して10日ほど。やっと国境までたどり着いた。


僕らは、エルドランド国王の紹介状を持っている。これがあれば、国境も問題なく超えられるはずだ。国境警備の衛兵に紹介状を見せると、ノーチェックで国境を通過できた。


ついに、新たな国、イストリア国に僕らは足を踏み入れたのである。






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