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第9話 宇宙軍士官は密談する


「やっぱ、ネットの情報は信憑性に欠けるなぁ」


 アルト達は庁舎内の喫食できるフリースペースのテーブルを一脚占拠した。まだ昼前ながら既にちらほらと人の姿が散見される。


「イエスマスター、ネットの性質上どうしても虚偽や偏向情報フェイクニュースが多いのは否めません」

「それに真偽を確かめたくてもソースも限られているしなぁ」


 携帯食をかじりながら談笑する美男美女、特に絶世の美女であるシスは目立つ。秘密の会議のはずがかなり注目を集めていた。が、アルトは全く意に介さない。


 自分達の周囲に目に見えない防音フィールドを形成していたからだ。そうでなくともアルト達が使う銀河連合共通語はこの時代の人間には理解できない。


「なるべく論文や官報も目を通したのですが……」

「無理ないさ。通例や慣例みたいなのはネットには掲載されないからね」


 天文学的とも言える膨大なネット情報をアリアドネのメインフレームの力を借りてシスは片っ端から調査している。それでも紙媒体がまだまだ主流の社会においては十分な情報は収集できなかった。


「それだけにスキルや魔法を実測できるのはラッキーだったな」

「イエスマスター、ネット上の動画だけでは分析するには情報が不足していました」


 動画でスキルや魔法を調査していたが、どうにも不審な点が多かった。


「動画から計測される威力が弱すぎるんだよね?」

「イエスユイ、あの程度の力で倒せるのなら、この時代の兵器でも十分通用するはずです」

「スキルや魔法より威力のある実弾があまり効果がないのは気になるな」


 モンスターがスキルや魔法でしか倒せないのなら、アルト達の持つ武器も通用しない可能性がある。ここはきちんと調査しなければならない。


「それからモンスターの死骸を解剖した論文もあったのですが……」


 筋肉や皮膚の強度や構造上、近代兵器を防げるものではなかった。どうして弾丸が貫通しないのかが判然としない。


「実際、迷宮氾濫スタンビードと呼ばれる現象でモンスターがダンジョン外へと溢れ出した時、通常兵器で討伐が可能だったそうです」

「つまり、モンスターが通常兵器無双できるのはダンジョン内だけってわけか」

「なんかさっきのスキルや魔法の話みたいだよね」


 ユイの指摘にアルトは頷いた。アルトも同じ事を思っていたのだ。


「やっぱり似ているな」

「うん、ボクらが戦っているエネミーにそっくりだよ」

「ダンジョンという相違点はありますが、通常兵器が通用しないところや解剖所見などにも共通性が見られます」


 そして、それはスキルや魔法にも当てはまる。


「エネミーも肉体構造上、あり得ないスピードやパワーを発揮していた」

「他にもエネミーの攻撃には科学的に解明できない現象が見られます」


 人類と数百年の時を争っているエネミーだが、死ぬまで戦うので捕獲できた例は殆どない。そのせいでエネミーの研究はアルト達の時代でも未だに進んでいない。


「シスの言う通りスキルや魔法というのは奴らの能力に類似しているね」


 アルトにはエネミーとの戦闘経験がある。ダンジョン攻略の動画での冒険者の使うスキルや魔法と呼ばれる不可思議な現象はエネミーとの戦闘でも見られた。


「シスはダンジョンにエネミーが関わっていると思うかい?」

「その可能性が高いと思われます」


 こちらをご覧下さい、とシスが言うとアルトの前にモニターが浮かび上がった。


 ——『ナノモニター』


 網膜にナノマシンが映像を投影する技術である。つまり、空中に浮かんでいる映像はアルトにしか見えていない。と言うより、実際にはそこにモニターは存在しないのだ。


 ちなみにナノマシンの情報共有を使用すれば、複数の人で同じ空中に同じ映像を共有する事もできる。


「実はエネミーから解放された惑星で、同じようなダンジョンの報告が上がっております」


 地球のダンジョン攻略動画で見たのと類似した迷宮門ダンジョンゲートが次々とアルトの前に提示される。


「初耳だけど?」

「ここ最近の報告ですし、まだ調査中で情報が開示されていなかったのです」


 アルトは映像と付随するデータを読んでいく。見比べてみれば現在地球に発生しているダンジョンとの類似点が多い。


「これはエネミーが裏にいるのは確定かな?」

「だけど変じゃない?」


 同じようにデータを見ていたユイが首を傾げた。


「この地球ではダンジョンは今から二十年以上前に発生したんだよね?」

「彼らが私達より時間軸を二十年以上前まで遡行していたなら矛盾はしません」

「うん、でもさエネミーなら戦艦一隻の戦力で十分この時代の地球を殲滅できるじゃない?」


 確かにそうだとアルトは頷いた。ユイの指摘は正鵠を射ている。今回のタイムスリップがエネミーの企みだとすれば、その狙いは地球人類の滅亡としか考えられない。


 この時代の地球の科学技術ではエネミーに対抗するのは無理だ。一方的な虐殺が可能である。


「ダンジョンから大量の資源が得られるようになって人類の技術水準は予定より進んでいません」


 資源枯渇宣言が人類に大いなる飛躍を齎し、太陽系から飛び出す後押しになったのは歴史上の事実。


「このままいけばエネミーとの邂逅時に人類は成す術もなく滅ぼされるでしょう」

「エネミーがそんな回りくどい事する?」


 だが、エネミーなら直接過去の人類を攻撃するように思える。


「あいつらどちらかが全滅するまで戦闘を止めない脳筋だからなぁ」

「ですがマスター、我々はエネミーの文化を良く理解しておりません。過去の人類と争えない彼らなりの基準があるとは考えられませんか?」

「まあ、今ここであーだこーだと議論しても埒があかないさ」


 エネミーに関しては今のところ情報が少な過ぎる。推測しようにも判断材料が不足していた。


「どうせ補給や資金調達の為にダンジョンへ潜る必要があったんだ。エネミー絡みかどうかもその時に調査すればいいんじゃないかな?」


 アルトは近所にお使いにでも行くかのような気軽な様子だった。


「どうあってもダンジョンは避けて通れないのですね」


 しかし、それに対してシスは不安が拭いきれなかった。


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