「よう、ナンパやろー」
突然、声をかけられアルトが振り返ると、そこには数人のガラの悪い男達がいた。だが、特にアルトは驚かない。さっきから男達がこちらを窺っていたのは気配で察していたからだ。
「ん、何か用?」
シスとユイの折檻から解放されラッキーとアルトはにこやかに応じた。しかし、とぼけた態度でありながらも、アルトはさっと自然な動きで男達とシス、ユイの間に入る。
何故ならシスやユイ達
見るからに悪人ヅラで友好的とは程遠い態度で近づくる男達。シスやユイに危害を加える可能性を考慮してアルトが警戒するのは当然であろう。
「てめぇ、俺の愛華とずいぶん親しげだったじゃねぇか」
果たして一人の男がアルトの胸ぐらを掴み凄んできた。
「俺の?」
胸ぐらを掴まれたぐらいではアルトは動じなかった。だが、この男が愛華の恋人なのだろうかと上から下まで観察した。
スカルプリントのタンクトップ、パンツには意味もなく吊るされたチャーンがじゃらじゃら鳴り、頬や腕などに刺青が施されている。他の男達も似たり寄ったりのスタイルだ。
まあ、とにかく気の弱い人なら顔を背けて視線を合わせないようにする、そんなガラの悪い連中である。
《マスター、左の二の腕にある刺青に『愛華♡らぶ』と掘られています》
《ふーん、それじゃあホントに愛華さんの彼氏なのか》
《そうかもしれません》
《プッ、二人ともボケ過ぎ》
シスが律儀に刺青を翻訳し、アルトは訝しみながらも納得し、ユイがくっくっくと笑いを噛み殺した。
「愛華は俺の女だ。ルーキーが手ェ出してんじゃねぇぞ、ゴラ゙ァ!」
かなり威圧的な男で愛華も趣味が悪いなとアルトは思うが、まあ
「それはすまん。今度の活動を円滑にする為、友好関係を築きたかっただけなんだ」
だが、仕事とはいえ恋人が他の男と親しそうに話していたら面白くないのは同じ男としてアルトにも理解できる。誤解させて悪かったとアルトは素直に謝った。
「謝って済むと思ってんのかアァン!」
「誠意見せろやゴラァ!」
「オラオラ、慰謝料払いな」
愛華♡らぶ男の仲間達も威嚇を始めたが、アルトには脅威に感じない。ただ、この程度で慰謝料を要求されて戸惑うばかりだ。
《これって慰謝料を請求される案件なの?》
《マスター、この国の法律を確認しましたが、この状況で慰謝料を払う根拠は乏しいかと思われます》
《ホント二人ともボケボケ。こんな連中さっさと畳んでしまえば良いんだよ》
《いや、暴力的解決は愛華さんの心証を悪くし、今後の活動に支障をきたすかもしれない》
《そうですユイ、彼女の恋人とトラブルになるのは得策ではありません》
《アルトもシスもこの男がホントに愛華の彼氏だって信じてるの?》
難癖をつけているだけの男達の意図を未だに理解できていない二人にユイは呆れた。
《違うなら何で絡んできたんだ?》
《こんな男達の目的なんて決まってるじゃん。この連中はボクとシス……》
説明しようとしたところで男達に囲まれユイはナノパシーを中断し、アルトも剣呑な雰囲気に弛んだ気持ちを引き締めた。
「へっへっへ、よく見りゃマブい女連れてんじゃん」
「こぉんなイイ女はべらせておいて愛華さんにまで手ぇ出そうとしやがってふてぇヤローだ」
「こりゃギルティ確定だな」
下卑た笑いを浮かべシスとユイに舌舐めずりする男達に、アルトもさすがに事態を理解した。
「なぁねぇちゃん達、こんな冴えねぇヤローよりも俺達のチームに来ねぇか?」
「そうそう、俺らつぇぜぇ」
「組むならぜってぇ俺らが良いって」
「くくくっ、イイ思いもさせてやれるしな」
イヤらしい目つきでシスとユイを舐め回すように見る男達に、シスもユイも不愉快そうに眉根を寄せた。
さて、どうしたものか。
アルトは少し思案した。
ずっと注意深く観察して戦力を分析していたが、どうにも男達から脅威を感じない。これはユイの提案通り暴力での解決も視野に入れても良いものかと悩む。
《シス、こいつらの戦力ってどれくらいだと思う?》
《先程から彼らの行動をずっとサーチしていた結果を数値化いたします》
アルトの視界の隅に小さなモニターが浮かび数字が映し出された。ナノモニターである。これは当然アルトにしか見えていない。
そのモニター上に男達の様々なパラメータが数字化され、アルトの数値と比較されていく。
《何これ、圧倒的に弱いじゃん》
数字の差が数十倍は違う。これなら男達がこの十倍の人数であっても負ける気がしない。
《彼らはまだ駆け出し冒険者なのかもしれません》
《ふーん、とは言えスキルや魔法もあるから油断はできないよね》
モンスターに限らず冒険者も不可思議な能力を持っている。シスの出した戦力はあくまでも男達の表面上の能力から計算されたものでしかない。
警戒する必要はあるだろう。
「へっ、ブルってダンマリかよ」
「なっさけねぇ男だなぁオイ」
ナノパシーで談合し沈黙していたアルトを自分達の都合よく解釈し、男達はバカにするようにせせら笑う。
「痛い目見ねぇうちに女を置いてさっさと消えなボウズ」
愛華♡らぶ男が恐喝してきたが、やはりどうしても強者のオーラを感じない。
「俺達はこれから一緒に迷宮ライセンス試験を受ける仲間だからお構いなく」
「ふんっ、初心者どころかまだ資格さえ持ってねぇのかよ」
男はニヤッと笑った。
「それなら俺らがテメェを試験してやんよ」