「アルトさん!」
愛華がほっと安堵した表情でアルトとユイを出迎えた。出口ゲートでずっと待っていたらしい。そんな愛華のいじらしさにアルトの顔が緩む。
「ただいま戻りました」
「愛華、たっだいまー」
優しく微笑むアルトと元気に手を挙げるユイにどうやら大した怪我は無さそうだと愛華は安心から笑顔になった。
「お二人ともご無事で何よりです」
それは毒島と対峙していた時の凛々しい顔つきと違って、パッと花が咲くような笑顔がとても可愛い。
「イテッ!」
「アルトさん?」
思わず鼻の下が伸びそうになったアルトをジト目のユイが後ろからつねった。思わず悲鳴を上げたアルトに愛華が怪訝そうに小首を傾げる。
「あっ、いえ、その……こちらでお待ちにならずとも、後でちゃんと窓口にお伺いしましたよ?」
「とても心配だったもので」
アルトの無事な姿を見るまで愛華は顔面蒼白で祈るように両手を握っていた。
今回アルト達に与えられた依頼は二階層に出現したゴブリン
愛華が不安になるのも無理はない。
「アルトさんにこんな無茶な依頼を任せてしまい申し訳ありませんでした」
「愛華さんのせいではありませんよ」
それではどうしてライセンスを取得したばかりのアルト達に無理難題が吹っ掛けられたのか。それは毒島が原因である。
もともと十条達に与えられた依頼だった。ところが彼らはアルトによって冒険者として再起不能。通常なら他の有力な冒険者にお鉢が回る。
「現在、瀬田谷のトップ冒険者が軒並み不在でなかったらこんな事には……」
ところが、とある事情で他のダンジョンから応援要請があり、瀬田谷の有力な冒険者は全国に散らばってしまっていた。
そこで毒島がアルトに仕事を振ってきたのである。
「だから探索課にはここが手薄になるから一度に応援要請を受けるなと言ったんです」
愛華がぷりぷりと怒る。むっと怒る愛華の表情も可愛いなぁとアルトは思ったが、すぐに顔を引き締めた。背後からユイの冷たい視線を感じたからである。
「毒島課長に強制力はなかったんです。アルトさんも断れば良かったのに」
「まあ良いじゃないですか。無事に帰ってこられたんだし」
毒島としては恐らくアルトへの嫌がらせのつもりだったのだろう。アルトに恥をかかせる、あるいは亡き者にしようとまで目論んでいたのかもしれない。
だが、エネミーとの戦争の中を生き抜いてきたアルトにとって、毒島の悪意などそよ風と変わらない。
実際、早急にダンジョンを調査したかったアルトからすれば渡りに船。今回の件でモンスターとの戦闘データも得られたし、ダンジョン内に偵察用ドローンも放ってこられた。これで明日以降のダンジョン探索は今日以上に捗るだろう。
毒島には感謝したいくらいだ。
「おやおや、これはこれはお早いお帰りですね」
「毒島課長」
その毒島がいつもの笑顔で会話に割って入ってきた。嫌悪する毒島の登場に愛華の顔が険しくなる。だが、そんな愛華の態度に気が付かぬはずもないだろうに、毒島は構わず嫌味を口にした。
「ふふ、依頼を達成できませんでしたか。期待していたのにガッカリです」
最初から期待してなどいなかっただろうにとアルトは苦笑いした。
《ボク達が無事でガッカリしたってことかな?》
《なるほど、そんな見方もあるか》
挑発してアルト達に無茶をさせようと毒島は目論んでいるのかもしれない。
「アルトさんは初めてのダンジョンだったんですよ」
アルトと同じ事を思ったらしい。毒島の嫌味にアルトよりも先に愛華が食いついた。
「それなのに三層クラスのモンスターを押し付けるようなマネをして!」
「中堅冒険者を一蹴した期待のルーキーでしたから可能だと思ったのですよ」
毒島はわざとらしくため息を漏らし、やれやれと大仰に肩をすくめた。
「それは期待に添えず申し訳ない。こんな簡単な仕事に時間をかけ過ぎちゃったかな?」
「アルトったら慎重なんだもん」
「まさかゴブリン闘士があんな雑魚だとは思わなかったんだよ」
「まあ、愛華にあれだけ脅されてたしね」
「あなた達は何を言っているのです?」
アルトとユイの会話に違和感を感じて毒島は眉根を寄せた。まるでゴブリン闘士を倒してきたかのような口ぶりではないかと。
「はい愛華、これおみやげ」
そんな毒島の反応にクスクス笑ってユイが大きな黒い石を愛華に渡した。
「こ、これって魔石ですか!?」
手渡された石に愛華は目を見張った。大きい。とても通常のゴブリンのものではないと一目で分かる。
「まさか二人でゴブリン闘士を討伐されたんですか!?」
「こんな短時間でだと。あ、あり得ない!?」
毒島が貸せと愛華から魔石を引ったくった。
「何をするんです、毒島課長!」
「こ、これがゴブリン闘士だとまだ決まったわけじゃない」
「だからこれから査定するんじゃないですか」
「査定は伊武君の管轄じゃないだろう」
毒島は愛華の手を払い魔石を持ち逃げしようとした。否、しようとしたが、できなかった。行く手にヌッと大きな影が現れたからである。
「おいおい、それを言うなら探索課のあんたの管轄でもないだろう」
そして、その影はぬっと大きな手を出し毒島から魔石を奪い取ったのだった。