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第7話 H社 クリエーターワークス F-8E クルセイダー SK専用機

「おおおっ、かっこいですね」

目の前に出された模型を見て思わずうなる。

僕の目の前には、前回南雲さんが買っていった『1/48 F-8E クルセイダー SK専用機』が完成して、透明のプラスチックケースに入れて飾ってある。

その出来は、雑誌なんかで見るプロモデラーが作るモデルのように完成度は高く、すごいとしか言いようがないほどの作品だ。

「へっへっへ……」

得意そうな表情を見せる南雲さん。

「うわー。また腕上げましたね、南雲さん」

店長も真剣な表情でじっくりと鑑賞している。

確かにすごい作品だ。でも疑問があった。

「でも、これって……」

そう思わず言ってしまう。

「うん?何だ?」

僕の言葉に、怪訝そうな表情で聞き返す南雲さん。

口に出しかけた以上、言わなければ失礼だし、聞いてみたいとも思った。

だから続きを続ける。

「主人公の機体のカラー、こんな砂漠迷彩じゃないですよね?」

そうなのだ。

実際にマンガやアニメで主人公が乗っていた機体のカラーは、アメリカ海軍で使用されていたグレーの艦上戦闘機のカラーリングだった。

しかし、南雲さんの作品は、今僕が作っているドラケンのような砂漠迷彩が施されている。

それに、シャークマウスでもないし……。

「ああ、それか……」

南雲さんは何でもないといった感じで答えを教えてくれる。

「なぁに、舞台は砂漠のど真ん中だろう?それに主人公は生き残るために必死で戦ってきているって設定だ。なら、砂漠迷彩にしてでもおかしくないだろう?」

そう言われ、僕はマンガのストーリーを思い出す。

親友に裏切られ、恋人のところに戻るために必死になって生きる主人公。

それを考えるなら、少しでも生き残る確率が上がるためなら何でもするだろう。

「それとも、お前は原作とまったく同じしか駄目ってタイプか?」

その言葉に僕は否定をする。

そういえば、僕も昔模型を作ってたころは、もし自分がA-88にいたならこんな戦闘機に乗っていたかも、なんて思いながらオリジナルカラーで仕上げた戦闘機をいくつも作ったっけ……。

僕の表情を見て、南雲さんはニタリと笑う。

「お前もオリジナルカラーで塗って遊んだって口だろう?」

どうやら僕の考えは、丸わかりのようだ。

「ええ。恥ずかしながら、もしA-88にいたらって考えて塗装した事あります」

そんな僕の答えに笑いながら南雲さんはバンバンと背中を叩いた。

それ無茶苦茶痛いっす。

そんな僕にお構いなく南雲さんは楽しそうな笑顔を浮かべる。

「恥ずかしがる事はねぇ。俺だってやった事あるからな」

その表情には同類を見つけたという喜びに満ちていた。

「えっ?南雲さんもですか?」

「おうよ。俺様専用機ってのも作ったぜ。それにさ、プラモデルなんてのはな、自分が作りたいように作ってなんぼなんだからよ。だから、実際の機体にそっくりに作ってもいいし、自分だけのオリジナルカラーや改造だってしてもいい。つまり好きに何でもしていいってことなんだぜ」

そこで茶目っ気のある表情を見せてニタリと笑う。

「だからこそ、プラモデルってのはな、規制の完成品と違って、その作っている人の色が出るんだろうな」

そう言ってガラス棚に並んでいる作品を指差す。

「ほれ、同じプラモデルなのに作る人によって個性が出てるだろう?」

その言葉に、僕は頷く。

確かにその通りだ。

規制の完成品は、些細な差はあれど基本全部一緒だ。

しかし、プラモデルは、まったく同じキットであっても作る人によって違ってくるのが当たり前だ。

それどころか、同じ人でも作った時期によってさえも違ってくる。

その個性があるからこそ、見ているだけでも楽しいのかもしれない。

僕らの会話をニコニコと楽しそうに聞いていた店長だったが、ふと思い出したように南雲さんに声をかけた。

「そういえば、南雲さん。今度の展示会はこれ出すんですか?」

その言葉に、南雲さんは首を横に振った。

「いいや。こいつは展示会用じゃねぇよ。あくまで遊びで作ったもんだ」

そう言うと、飛行機のコーナーに行き、1つの箱を持ってくる。

その箱には、『1/32 Fock-Wuff Fw190D-9』と書かれている。

「展覧会用はこいつを出すつもりだ」

「へぇ。かなり手を入れるつもりなんですね」

店長が箱を見て関心したように頷いている。

「まぁな…」

南雲さんはそこまで言い、よくわかっていない僕の方を見た。

「そうだ。再来週の日曜日は暇か?」

僕は急に聞かれてよくわからないまま思わず答える。

「ええ。時間はありますけど……」

「そうか……」

南雲さんは今度は店長の方を向いた。

「店長は、時間作れる?」

指を唇に当てて考え込む店長。

整った顔のバランスを崩すのが目的のような大きな黒縁の眼鏡が少し下がる。

「まぁ、できない事はないですねぇ……」

そんな事を言いつつ僕の方を見る。

店長に向いていた南雲さんの視線が今度は僕の方に向けられた。

二人の視線を受けて二人を交互に見る。

何なんだ?

そんな僕に南雲さんは手を叩くとポケットから何から取り出した。

「よし。これをやるから見に来い」

僕に手渡されたのは二枚のチケット。

そのチケットには、『模型同好会 雲海堂模型展示会』と大きく書かれている。

「これって……」

チケットと南雲さんの顔を交互に何度も見る。

「おう。今、話に出てた展示会のチケットだ。見に来いよ」

「あ、ありがとうございます。絶対に行きます」

そう答えて考える。

でも、なんでチケットが二枚?

そしてさっきの会話の流れを考える。

「よし。じゃあ、店長と二人で見に来いよ。絶対だ。待ってるからな」

南雲さんがそう言ってニタリと笑う。

後半の口調はからかうような含みがあった。

「で、でも、店長はお店が……」

そんな僕の言葉に、店長はこっちを向いてにこりと笑顔を浮かべる。

「大丈夫です。お店は1日くらいなら代わりの人に頼めますし」

そこまで言って覗き込むように顔を近づける。

どきりと心臓が高鳴った気がした。

「それとも迷惑ですか?」

彼女の笑顔が困ったような表情に変化していく。

だから僕は慌てて言う。

「め、迷惑だなんて、と、とんでもないっ。喜んでっ!」

多分、語尾は声が裏返ってしまったかもしれない。

だが、僕の言葉を聞いて少しほっとした表情を見せる店長。

その顔に少し見とれてしまう。

だが、すぐに現実に戻された。

「よしっ。なら決定だ。二人で来るのを待ってるからな」

そう言って、模型といくつかの塗料を買って南雲さんは笑いつつ帰っていった。

「えっと、時間とかどうしましょうか?」

店長が少し下をちらちら見ながら聞いてくる。

ああ、かわいい……。

い、いかんいかん。

「そ、そうですね。一応、何時からだったら大丈夫ですか?」

「えっと、その日は夕方に頼んでいた商品が来る予定なので、16時くらいには戻らないと駄目ですね」

「そうですか……」

少し考える。

チケットを見て時間を確認する。

会場は十時から十七時までとなっている。

「なら、10時ぐらいに出て少し早めにお昼食べて、差し入れもって昼過ぎに行きませんか?それなら3時間近くは見れると思いますし……」

そう言ってみて、初めて気がついた。

これって食事誘ってるじゃないか!!

展示会見に行くだけのはずなのに、何言ってんだ、僕はっ!!

頭を抱えたくなったが、言った言葉はもう戻せない。

焦って、今のはなしでって言おうとする前に店長の言葉が返ってきた。

「いいですね。お昼、一緒に食べていきましょう。そういえばリーズナブルなわりに美味しい定食を出す店があるらしいんです。残念な事に、私、車運転できないので行けないんですよね。場所が郊外の方だから……」

そう言ってちらりと僕を見る。

その視線を受けて、今のなしとか言えませんよ、ええ。

だから、ええ、わかっております。

「わかりました。お昼はそこに食べに行きましょう。では十時にここに迎えに来ていいですか?」

「はいっ。お願いしますね」

いい笑顔である。

本当にいい笑顔である。

だから、こう答えるしかない。

「お任せください」


そういうわけで、少し先になるが店長と、いやプライベートだからつぐみさんの方がいいのかな。ともかくデートすることになったのだった。

えーいっ。がんばらねば!!


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