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第15話 病院 その2

「ごめん……」

それが息を切らしながら言った彼の第一声だった。

そして頭を下げる。

「えっ、待って」

どうしたらそうなるのだろうか。

彼はまったく悪くない。

悪いのは自分のわがままで彼の心を傷つけた私で、あなたは被害者なのに‥…。

「いいえ、私が悪いの」

「いや、僕が悪いんだ」

ほぼ同時にそう言いあい、私達は互いに顔を見あわせて動きが止まってしまう。

なぜ?という顔を彼はしていたが、彼からしてみたら私も多分同じように見えたに違いない。

ふう……。

南雲さんは私達二人を交互に見たあと、呆れた顔でため息を吐き出すと頭をガシガシとかく。

「屋上にでも行って2人でしっかり話し合ってこい。ここじゃ他の人に迷惑だ」

そう言って私と彼を病室から追い出す。

その際、「あ~、聞いてられんわ」とちいさくつぶやいたのは聞かなかったことにしておこう。

ともかく、このままでは何も進展がないのは事実だし、私は点滴のステンドを引きながら彼と一緒に屋上に向かったのだった。

空は雲一つないいい天気ではあったが、私たちにとっては雨時々曇りといった状態で二人して黙ったままである。

何か喋ろうとするとタイミング悪く相手もということになってしまったりで、すでに10分が経過してしまっていた。

しかし、これはこれで時間稼ぎにはなったと思う。

おかげで何を喋るべきか考えられた。

まずはどういうことなのか理由を話そう。

それはすごく怖い事でもある。

自分の過去、それも許婚のことを話すのだ。

ある意味、それは本当ならしたくない事だし、過去に葬り去って忘れてしまいたい事だ。

しかし、もうこうなってしまったら、話すしかない…。

それに、どうもお互いが自分が悪いという一点張りで、それがために話が進まなくなっている。

だから、まずそれを取り除こう。

そう思って口を開く。

「あのね。まずはどっちが悪いとかそういうのは抜きにして、理由を言わない?多分、このままじゃ平行線で話が進まないし……」

私の提案に、彼は頷く。

「そうだね。そうしょうか。だから僕から話すよ」

多分、同じ事を考えていたのだろう。

彼はそう答えて、自分から話すといい始める。

しかし、それだけは譲れない。

「いいえ。私から話すべきなの。こんな事になってしまったのは、私の責任だし」

私はきっぱりとそう言い切る。

私の表情を覗き込み、私の決心をうかがうようなそぶりを見せるものの、私の決心が固いのがわかったのか彼はため息を一つ漏らすと「わかった」と承諾してくれる。

「ありがとう」

そう答えると照れたような笑いを浮かべるが、まだ少しぎこちないのはまだ彼の心の中で、揺れているためだろうと思う。

「まずは立ったままだときついでしょ。あそこにベンチがあるから……」

彼がそう言って自然と私の手を握るとエスコートしょうとして動きが止まる。

多分、余計な事をしてしまったかも、なんて思っているのかもしれない。

しかし、そんな事はない。

だって手を握ってくれるだけでこんなにもドキドキしてしまうのだから余計な事なんかないわけで。

だから私は、「ありがとう」と返して微笑み、ベンチへ連れて行ってくれるように言ったのだった。


「大丈夫かな……」

美紀は狭い病室の中をまるで檻に入れられて落ち着かないライオンのようにうろうろする。

それを横目で見つつも、「何とかなるんじゃないか」と気のない返事を南雲が返す。

「気にならないの?南雲さんっ」

その態度に、美紀が食ってかかるが、南雲はそれをのらりくらりとかわす。

「気になるもならないも、後は本人達しだいって事だからな」

「でもっ」

「でもって言われてもなぁ……」

そう答えつつもそれでは美紀は納得しないと思ったのだろう。

真剣な表情を浮かべて言う。

「あのな。こういう場合、第三者が入り込んでうまくいったためしはないんだよ。それは理解できるだろう?」

その言葉に、頷きつつもなんか納得出来ないという表情。

ある程度の状況把握と話を知っているだけに、それはそれでわかるのだがいい加減にしないと駄目だと思う。

だから、南雲はまた一つため息を吐いて美紀をしっかりと見つめて話す。

「いい加減、つぐみちゃんを信用しろよ」

その言葉は魔法の言葉だ。

それを言われれば、何も反論できなくなる。

今度は美紀が深いため息を吐き出すとじろりと南雲を見返す。

「わかったわよ」

そういった後、少し間を空けて……。

「でも、それってすごくずるくない?」

そう言い返す。

それぐらい言い返さないと腹の虫がおさまらないわけだ。

それがわかっているか、南雲は苦笑して、「ああ、俺もそう思ったよ」と言った。

「わかっててやってるとはそれはかなり悪質だ」と文句を言いつつも、少しは落ち着いたのだろう。

ベッドに腰掛けると、

「うまくいくといいな……」

そう美紀は呟いたのだった。

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