ベッドに飛び乗ると顔をベッドに埋める。
あー、やっちゃった。
彼の前で思いっきり正和さんをひっぱたくわ、怒鳴りつけるわで見せたくない自分を見せてしまった。
でも、彼が殴られるかもしれないと思った瞬間、声を上げて身体が勝手に動いていた。
あれは間違いなく場に酔っていたんだと思う。
彼が正和さん相手にはっきりと言い切った「私は私自身のものだ」と言う事。
そしてその後の彼のアウトロー映画の主役のような台詞に表情。
それをさせた原因が自分であるという事。
好意持っている相手が私の為に……。
そのあまりにも信じられないほどの幸せに、私は深く深く酔ってしまってた。
だから、誰が見てるかもわからない駐車場で彼に抱きつき、頬とはいえ私からキスをしてしまった。
そう、キスを……。
一気にカーッと身体が熱くなる。
「きゃーっ」
頭を抱えてベッドの上でのた打ち回ってしまった。
「うるさいよ、つぐねぇ」
美紀ちゃんの言葉で我に返ったが、言われなかったら力尽きるまでのた打ち回っていたかもしれない。
しかし、すーっと冷めて今度は不安が頭をよぎる。
彼、あれで引かないだろうか。
女性からああいう事をするのは駄目だっていう人いるらしいし……。
でも、彼、すごくかっこよかったし……。
ああしても仕方ないよね。なんて自分で自分を弁護する。
ともかくだ。
これで少しは関係が変わってくるのかも…と期待せずにはいられなかった。
と、前の晩は夜遅くまで寝れずにそんな事を思ってたんだけど、翌日普通にお店に彼が来た時は拍子抜けした。
あまりにも普段どおりだったのだ。
いつもの会話、いつもの態度、いつもの表情。
昨日の私がした事はなんだったのかとさえ考えてしまっていたが、会計の時、それは思い違いだとわかった。
会計を済ませておつりを渡す時、彼の指と私の指が触れたときだった。
びくんっ。
彼の身体が少しだが反応し、なんだろうと思って彼を見た。
彼は真っ赤だった。
「じ、じゃあ、また……」
彼は慌ててそう言うと、おつりを受け取り帰って行った。
それでわかってしまった。
彼も昨日の事を意識していたのだ。
それがわかった瞬間、私もカーッと血が上ってしまっていた。
そして理解した。
二人とも意識しすぎて頭に血が上ってしまった状況は駄目だと思って我慢してたんだ。
だからあえて平常の振りをしていたのだと。
そしておかしくなった。
美紀ちゃんが以前言っていた「それだけ意識しているならいい加減付き合っちゃえばいいのに」と言う言葉を思い出す。
私は、それもいいかもしれないと一瞬思ったが、考え直した。
こういう相手を思いやる行為って、付き合う前だからできるのではないかと。
だって付き合い始めたら、我慢しなくていいんだから。
そんな事を考えたいたら、後ろから美紀ちゃんに「いい加減付き合えばいいのに……」とまた言われる。
だから、私はしたり顔でこう答えた。
「ふふふっ。恋の駆け引きを楽しんでるのよ」
しかし、私の答えに美紀ちゃんの反応は芳しくない。
「駆け引きというより、ただ翻弄されてるみたいな感じたけどね」
その容赦のない言葉に、私は返す言葉が見つからず黙り込むしかなった。
しかし、彼との至福の時間の後は試練が待っていた。
秋穂さんがお店に来たのだが、あの出来事をしっかり知っているではないか。
その上、美紀ちゃんにはキスシーンは見られているし、その話も秋穂さんに知られてしまった。
どうやら、あのシーンを見ていたからの「翻弄されている」発言があったようだ。
うむむ。なんて事だ。
最悪である。
なんとかしなくては。
また変な噂が広がってしまう。
よし。すぐに口止めをしなければ。
そう思って、まず南雲さんに電話をする。
秋穂さんから聞いたんだけど……。
そう言っただけでどの件かわかったのだろう。
すまん、と言われた。
で、どうやら南雲さんは、奥さんの秋穂さんにしかあの件は話してないらしい。
しっかりと口止めをしておく。
もし破ったらと脅しも入れて。
なんか南雲さんの声が震えているような気がしたが気にしないこととした。
で、次に秋穂さんである。
しかし、遅かった。
「あら、ごめーん。知り合いの何人かに話しちゃった。てへぺろ」
絶対に悪意を感じる。
でもこれ以上の情報拡散は許してはならない。
口止めをお願いし、手を打っていく。
そして、なんとかこれ以上情報が漏れないようにした後に、最も知られたくない人物に知られてしまった事を後日知る事になる。
南雲さんと美紀ちゃんの馬鹿っ。
もう言わないって言ったのにっ。