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第41話 H社 たまご飛行機 T-4 航空自衛隊60周年記念スペシャル 2機セット  その1

「何やってんだかなぁ……」

わたしは呆れ顔でそう言った。

彼は申し訳なさそうに頭をかいている。

「あれじゃ、付き合う前よりひどいじゃないの」

「ごめん、美紀ちゃん」

私の言葉に、彼は謝ってばかりだ。

しかし、私だって好きで言っているわけじゃない。

ただあまりにも歯がゆすぎて見てられなかった。

前回のお出かけからつぐねぇと彼は付き合い始めたようだが、その結果がひどいのだ。

ベタベタするとかならまだ許せる。

それ見て、『リア充爆発しろ』とか言ってからかって憂さ晴らしも出来る。

しかしだ……。

付き合う前より、意識しすぎで何も出来ないで見詰め合うだけってのはなんなのよっ!!

二人だけの空間作るのも許そう。

今まで大変だったから、少しは幸せの気持ち味わいたいのもわかる。

だけど……。

だけどね。

見詰め合ったまま、真っ赤になって固まって時間が過ぎていくあの、そうあの独特の雰囲気はなんなのよ。

この前なんか、どれくらい間が持つか様子を見てたら、1時間近くそのままって。

もう、中学生の初心なカップルよりひどいじゃないのっ。

「もうっ。駐車場で抱き合うほどの仲なんでしょうがっ!!」

我慢できずにポロリと言ってしまう。

その言葉に、申し訳なさそうにしていた彼の表情が驚きへと変わった。

「あ、あ、あれ、み、見てたの?」

おろおろしだす彼に、ちょいちょいとカウンターの近くに来るようにジェスチャーをする。

驚いた表情のまま彼が傍に来ると、すーっとそこから駐車場の方を指差す。

「あー……。丸見えだ……」

彼はそれだけ呟くようにいうと、がっくりと肩を落とす。

「もう。もう少ししっかりしてください。つくねぇの事、大好きなんでしょう?」

「も、もちろんだ。つぐみさんの事は大好きだ」

はっきりと言い切る彼。

なのに……。

「ならなんでああなるのよ」

私の言葉に歯切れ悪そうに彼が言う。

「いや、何を話したらいいのか、どう接したらいいのかわかんなくなっちゃって……」

私は頭を抱える。

そんなところからですか。

あなた達、いくつなんですかっ。

20代の付き合いだしたカップルじゃないんですかっ。

なんだか私、中学生の恋愛相談受けてるみたいな心境になってしまった。

いや、今時なら、小学生だってもっとまともなお付き合いするだろう。

しかしだ。

このままではこっちも困る。

実際、南雲さんからもどうにかしてくれと私の方に連絡が来ている。

まぁ、秋穂さんは現状を楽しんでいるようだが、当人を姉に持つわが身としては、なんとかして欲しい。

うーん。どうしょう。

そう思って何気なく周りを見回す。

そして、ふと1つの模型で目が留まった。

そうよ。

一緒に過ごす時間があればもっとうまくいくんじゃないかしら。

それも、隔離された空間で。

ただし、私達の監視できる場所でだが。

そう考えると、なかなかいい考えのように思えてきた。

よし。そうしますかっ。

「もう仕方ないなぁ。まず確認するけど、時間は取れるわよね」

「ああ、仕事帰りでよければ1時間程度は……」

「ふむふむ。それと今、急いで作る模型なんてないわよね?」

「急ぎはないなぁ。遣り掛けのはあるけど、急いで完成させる必要性はないし」

そう確認すると、私は決めた。

これを実行するしかない。

「よく聞きなさいよっ。いい、この美紀様がナイスでベストでいいアイデアを教えてあげるから、敬い諂いなさいよっ」

彼にそう言うとえっへんと胸を張る。

「おおおっ。神様、仏様、美紀様っ」

拝むような格好をしつつ、そう言う彼。

なんか彼もノリノリである。

あ、なんか楽しいわ、これ。

南雲さんとの会話も楽しいけど、彼との会話もすごく楽しい。

はっ……。

いかんいかん。

そういう場合じゃなかったわ。

我に返ると私はその模型を取って彼の前に出した。

その模型は、それほど大きくないサイズでカラーイラストで2つの飛行機と女の子の絵が描いてある。

そして、


『たまご飛行機 T-4 航空自衛隊60周年記念スペシャル 2機セット』


と、商品名が付いていた。

「これ、H社の限定たまご飛行機だよね」

「そうよ。これを使うのよ」

しばらく考え込む彼に、呆れつつもとんとんとんと商品名の一部を指先で叩く。

『2機セット』

それを見て、やっと彼は理解したのだろう。

表情が明るくなる。

「やっとわかったかっ」

「ああ。なるほど」

「今度機会を用意するから、つぐねぇと作業室で1機ずつ一緒に作ってみたら?これだったら、つぐねぇも問題なく飛びつくだろうし、何話していいかなんて考え込むこともないでしょう?だからいいんじゃないかな」

一緒にって所を強調して言う。

それを聞いて彼が私に両手を合わせて拝むような格好をした。

「ありがとう。美紀ちゃん……」

そんな彼の様子に、私はノリノリで答える。

「うまくいったら、間宮館でジャンボパフェよろしく!」

間宮館とは近所の喫茶店で、この前、つぐねぇが修羅場を演じた場所でもある。

ちなみにジャンボパフェとは、通常の3倍以上の量を持つパフェで、女の子の憧れであると同時に体重計の強敵でもある。

まぁ、私の場合は、身体動かすし、問題ないけどね。

ちなみに値段は3000円近い。

「わかったっ。うまくいくなら、安いもんだ」

「ふふふっ。商談成立ね。あ、あとこれの代金もよろしく~♪」

そう言って出した模型を指差す。

「ああ。払うよ。もちろんだっ」

彼はそう言うと財布を取り出した。

ふふふっ。

これで二人の問題はなんとかなるメドも立ったし。

店の売り上げは上がったし。

私もジャンボパフェを食べられるし。

『三者三徳』とはまさにこのことよね。

私はそう心の中で思ったのだった。

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