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第42話 H社 たまご飛行機 T-4 航空自衛隊60周年記念スペシャル 2機セット  その2

「模型製作指導を希望しているお客様がいるんですって?」

「うん。そうなの。お願いできるかな、つぐねぇ。私じゃ、ちょっとねぇ。」

思わず聞き返す私に、即答で答える美紀ちゃん。

その表情は真剣そのもので、冗談を言っている感じではない。

「でも、私の場合は……」

「大丈夫だよ、つぐねぇ。その人、あそこに飾ってあるたまご飛行機が気に入ってね。たまご飛行機でお願いしたいって言ってたよ」

美紀ちゃんがそう言って指差したのは、私が作って飾ってあるたまご飛行機達。

趣味でちょこちょこ作っている子達だ。

「そっか……。あの子達を見てお願いしたいと思ってくださったんだ」。

この店の為にと始めた模型製作だが、どうしてもスケールモデルは制作意欲がわかなくて困っていた時、おじいちゃんが薦めてくれたのがたまご飛行機だった。

「こいつら、かわいいだろう。そうだな、製作し、塗装し、命を吹き込む。自分の子供と思ったらどうだ?」

そのアドバイスがあったからというわけではないし、ただ単に私に合っていたのかも知れないが、私はたまご飛行機の製作にハマった。

気になりだすと、いろいろ手を加え、形状やカラーにもこだわるようになっていた。

今では新作が出れば必ず個人で購入し、製作するのが当たり前になっている。

その製作した子達を見て、作ってみたい、政策指導をお願いしたいという人がいる。

それはなんだかくすぐったくて、少し誇らしく、そして何よりうれしい事だ。

「いいわ。それでいつ?」

「出来れば、明日の18時過ぎぐらいだって。その時間なら、私、短大から帰ってきているし、店番はするから」

「なら、お受けしますと伝えてね。それとその時の店番お願いするわね」

私は、そう気軽に返事をして、翌日の18時を楽しみにして待つ事にしたのだった。


18時を過ぎて、工作室に入った僕を見たつぐみさんは、呆然としていた。

まさか、僕が来るとは思っていなかったようだ。

確か、美紀ちゃんの話では、たまご飛行機の製作指導を依頼されたと言う話にしてたはずだから、そのお相手がまさか僕とは思わなかったらしい。

そうなるのはわかる気がするんだけど、それにしては呆然としすぎと思う。

まぁ、かわいいからいいんだけどね。

「あ、あの、つぐみさん、大丈夫?」

僕がそう言葉をかけるとやっと我に返ったようで、キッとカウンターにいる美紀ちゃんを睨む。

どうやら騙されたと思ったようだ。

特に自分の大好きなたまご飛行機をダシにされてかなりカチンときたらしい。

いかん、いかん。

これでは姉妹喧嘩になるかもしれない。

慌てた僕は、つぐみさんに歩み寄ると頭を下げた。

「ごめんつぐみさん、僕が頼んだんだ」

その言葉に、つぐみさんは僕のほうに視線を向けると慌てておろおろしている。

「ど、どういうことですか?」

少し頭をかきながら、最近、以前の時のように会話できていないから、美紀ちゃんに知恵を借りた事を説明する。

そして、つぐみさんの目を見てきちんと言う。

「それに、つぐみさんと一緒にたまご飛行機作りたいと思ったのも事実なんだ。だから、準備してきたよ」

そう言ってこの前購入した2機入りのキットを出した。

「それって……」

「ああ、美紀ちゃんの勧めでね。どうせなら、互いに1機ずつ作ってみたらどうだろうって思ったんだよ」

照れながらもはっきりとそう言う。

つぐみさんは真っ赤になりながらも、じっーとキットの箱を見て何か考えていたようだが、すぐに「はい。作りましょう」と言ってくれる。

「なら、つぐみさんはどっち作る?」

「そうですね、あなたはどっちがいいですか?」

「いや、つぐみさんから選んで」

「いえ、あなたから……」

それを何回かした後、互いの顔を見合わせて爆笑する。

何やってんだろうな、僕たち。

「なら、こうしましょう。僕が青色の方を作りますから、つぐみさんは赤い方を作ってください」

「そうですね。そうしましょうか」

作業用のテーブルに向かい合うように座ると中をあけて、1機ずつ分かれている袋を互いに分け合う。

そして部品をチェックし問題がない事を確認する。

そういえば、塗装をどうしょうか?

やっぱりたまご飛行機に関しては、つぐみさんの方が作りなれているから、聞いてみるか。

「そういえば、塗装はどうします?」

「そうですねぇ……」

しばらく考え込むつぐみさん。

そしてにこりと微笑む。

「せっかくだから、オリジナルカラーにしませんか?」

「オリジナルカラー?」

聞き返す僕に、つぐみさんは少し得意な顔で説明を始める。

「2機とも同じグレーだと味気ないじゃないですか。たったら、オリジナルカラーにしてそれぞれ違う色を塗って楽しみましょう」

「なるほど…。それはいいね。でも、注意しないと色によってはせっかくのデカールが目立たなくなる可能性があるな」

少し心配そうな僕の言葉に、つぐみさんは任せてと言う感じで説明を始める。

「補色を考えて塗るといいと思いますよ」

「補色?」

「ええ。反対色、対照色とも言いますが、要はその色の反対の色にする事で、その色を目立たせると言う事です」

そう言って、1枚のボードを取りだす。

そのボードには、円状にいろんな色が塗られていて、カラー見本のようになっていた。

「これはカラーチャートと言って、反対色、対照色の早見できる表と思ったらいいですね。えーっと、これだと青色のデカールを目立たせたいなら、黄色系のカラーリング。赤色のデカールを目立たせたいなら、緑色系がいいみたいですよ」

「へぇ。こんなのあるんだ」

「デザインや、建築関係とかによく使われるみたいですけどね。模型なんかを作る時に参考にするといいですよ」

「確かに、意外と使いそうだな…。でもさ、青に黄色って安直過ぎない?」

僕が聞き返すと、つぐみさんはくすくすと笑いながら言う。

「別に黄色を塗る必要はありませんよ。似たような黄色系統の色だったらいいんじゃありませんか?それに別にリアルに作らなくてもいいんだし」

確かに、作るのはたまご飛行機だ。リアルにする必要性はない。

それに、模型をどう作ろうが、それは作る人の自由だ。

「そうだね。じゃあ、それを参考にいろいろやってみるかな」

僕がそう言うと、悪戯っ子の様に目を輝かせるつぐみさん。

「じゃあ、どんな色に塗るかは、秘密にしませんか?」

その言葉に、僕は頷く。

「いいね。完成して見せあおう」

「はい。わかりました」

こうして僕らは二人でたまご飛行機を作り始めたのだった。

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