「なんか、うらやましいなぁ……」
私はため息とともにそんな言葉を呟いていた。
最初こそ、私を睨みつけるつぐみねぇや、譲り合っているような場面なんかがあったものの、今ではすっかり意気投合して楽しそうに製作を始めている。
その様子は昨日までとは異なり、意識しまくったりとか、デレデレだったりとかいった風ではなく、お互いに自然に楽しそうに話しながらだった。
それはある意味、互いのことが分かり合っている夫婦のような風格さえあった。
やればできるじゃん。
口を尖らせて、横目でそんな光景を見る。
互いの事はまだ知らない事ばかりだろうが、模型製作を通して向き合えば、こんなにも分かり合えている。
やっぱりつぐねぇと彼は波長が合うのだろう。
そうつくづく感じさせられる場面だった。
ずきりと心の奥が痛い。
なんでだろう。
二人が幸せというのはとてもうれしい事なのに。
それを誤魔化すため、別の事を考える事とにした。
「あ~、あ~、私も彼氏、欲しいなぁ。がんばって作ってみるかな」
そう呟いて、自分の変化に驚く。
以前の自分なら絶対にそんな事は思わなかっただろう。
許婚に振り回され、ボロボロになったつぐねぇの姿かまぶたに焼き付いて離れなかったからだ。
あんな風になるなら、恋愛なんてしなくていい。
彼氏もいらないし、結婚なんてしたくもない。
そう思っていたはずだったんだけど、今のつぐねぇと彼の姿を見ていると、ああ、これがちゃんとした恋愛なんだと思ってしまう。
他の人から見たら、恋愛なんていろんな形があると言われると思うが、私は、あの恋愛の形がすごくいいと思ってしまった。
今まで、どうでもいいと思っていたことが、やってみてもいいかと思えるほどに。
だから、まずは私は理想の彼氏を想像してみる。
そうだなぁ……。
やっぱり私より年上がいいなぁ。
理想としては南雲さんは離れすぎだから彼ぐらいがちょうどいい感じかな。
そんでもって優しいけれどしっかり私の事を考えてくれるような人がいい。
そういえば、彼もつぐねぇの事を大切に考えてるみたいだし、なによりつぐねぇを受け止めるやさしさがいいなぁ。
あと、決め手としては、会話してて疲れなくて楽しい人がいい。
やっぱり会話してて楽しくないと詰まんないもんねぇ。
その点、最近の男の子はダメね。
話してても面白くないもん。
南雲さんや、彼みたいに冗談交じりでもうまく受け止めて、言葉のキャッチボール出来る人がいいなぁ。
それに何より私と同年代ぐらいの男性は、目がギラギラしてて飢えてますって感じがしてもう駄目。
嫌悪さえ感じてしまう。
やっぱり余裕がある年上の男性だよねぇ。
そこまで考えて、私はふと気が付く。
私の彼氏の理想像に彼がぴったりハマってしまうことに。
いやいや。
そんな訳ないわよ。
そう考えてもう一度考え直してみる。
あれ?
嘘でしょう?
すーっと血の気が引いていく。
私、もしかしてつぐねぇの好きな人を好きになってしまってない?!
そして理解する。
つぐねぇと彼が仲良くしている時に、胸の奥から沸いてくる痛みの意味が……。
つぐねぇが取られちゃうから、イライラしてるわけじゃない。
彼が私以外の女性と仲良くしているのが嫌でイライラしているんだと。
こんなにリラックスして楽しんだのはいつごろぶりだろうか。
ふとそんな事を考える。
ああ、そうか。
おじいちゃんにたまご飛行機作製を薦められて、一緒に作った時の感覚に似ている。
あの時も、今みたいにリラックスして楽しめたっけ。
懐かしさと同時にうれしさと充実感に満たされる。
ふふふっ。またこんな風に彼と出来たらいいな。
そんな事を考えてしまう。
そして、彼もそう感じてくれたらいいなとも。
しかし、時間は止まってはくれない。
あっという間の一時間だった。
そして、残りは各自で行い、二日後の夕方に見せ合おうということで、その日の作業は終わった。
「じゃあ、またね、つぐみさん」
彼はそう言って、自分の分のキットを箱に入れると帰って行った。
名残惜しい。
それが今の気持ちだ。
うふふふ……。
自然と笑いが漏れる。
「楽しそうだね、つぐねぇ」
美紀ちゃんがそんな事を聞いてくる。
「うん。楽しかった。美紀ちゃん、ありがとうね」
私がそう言った瞬間、気のせいだろうか、美紀ちゃんの顔が少し引きつったように見えた。
「どうしたの?」
その言葉に美紀ちゃんは、慌てて「なんでもないよ」と言う。
そして、いつもの笑顔でおどけて言う。
「楽しめたのならそれはよかった。だってさ、最初、つぐねぇ、私のこと睨んでたじゃん。あれ怖かったからねぇ」
「だって、あれは騙されたと思ったもの。でも、結果よければ全てよしっていう事にしとくわ」
私の言葉に、くすくすくす笑いつつ、「それでチャラにしておいてね」とか言う美紀ちゃん。
どうやら、さっきのは私のみ間違いだったようだ。
だから、私は気にも留めなかった。