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第44話 H社 たまご飛行機 T-4 航空自衛隊60周年記念スペシャル 2機セット  その4

「いらっしゃい」

お店に入ると美紀ちゃんの声が響く。

なんか最近機嫌がいいのか、声がうれしそうに聞こえるのは気のせいだろうか?

そう考えて、まだ報酬のジャンボパフェをご馳走していない事を思い出す。

だから、うれしそうなのかな。

そんな事を思いつつ、店内に入るとカウンターに行く。

「やぁ、美紀ちゃん」

そう言いつつちょいちょいと美紀ちゃんを呼ぶ。

なんかうれしそうにこっちに顔を寄せる美紀ちゃん。

「あのさ、報酬の件だけど……」

こそこそと話す必要はないのかもしれないが、ついそんな感じで話してしまうが、その言葉だけで美紀ちゃんの顔にさらにうれしそうな笑顔が広がる。

そんなに楽しみなのか。

なら、早目がいいかな。

そんな事を思いつつ希望の日を聞くことにした。

「いつがいい?」

僕の問いに、待ってましたとばかりに美紀ちゃんが答える。

「明日はどうですか?」

あ、ちょうどいいな。

そんな事を思いつつ、返事を返す。

「明日は仕事は休みだし、一日空いてるよ」

少し考え込む美紀ちゃん。

そして結論が出たのか、彼女らしからぬ言いにくそうに上目遣いで聞いてきた。

「実は買い物もしたいんですけど……」

その言葉にどうやら買い物の足が欲しいらしいと気が付いた僕は、「いいよ。付き合うよ」と返事をする。

そして、少しおどけて言う。

「つぐみさんには内緒だぞ」

「はいっ。楽しみです」

実に嬉しそうで何よりだ。

その後、集合の場所や時間等の打ち合わせをしたあと、美紀ちゃんに聞く。

「そういや、つぐみさんは?」

一瞬、寂しそうな感じに見えたが、すぐにいつもの笑顔で「ちょっと買い物に行っててもうすぐ帰ってきます」と返事をくれた。

「じゃあ、つぐみさんが来るまで店内で待っているかな。あ、さっきの件はくれぐれもつぐみさんには……」

「もちろん、内緒ですね。二人の秘密ですっ」

二人して笑いあった後、僕は店内を見て回る事にした。


いけない、いけない。

少し遅くなってしまった。

慌ててお店に戻ると彼が待っていた。

「やぁ、お帰り、つぐみさん」

「はい。只今帰りました」

そういった後、二人して真っ赤になって黙り込む。

なんか夫婦みたいだと思ってしまったのは私だけではないらしい。

「何やってんだかなぁ……」

拗ねたような美紀ちゃんの声が聞こえ、私達は苦笑する。

これではいつもと変わらないじゃないの。

「あの、すみません。取ってきますね」

私は買い物の荷物を奥に運び込んだ後、作り上げたたまご飛行機を持ってくる。

彼も箱を用意していて待っていてくれた。

「じゃあ、どっちから見せようか?」

「そうですねぇ……」

そこで沈黙。

「はぁ。同時に見せ合えばいいじゃん」

美紀ちゃんが呆れ顔でそんな私達のやり取りを見てそう言う。

「そうだね」

「ええ」

お互いに笑いあって、同時に見せ合うことにした。

美紀ちゃん、ありがとね。

「じゃあ、いっせの~」

「「せいっ」」

カウンターにそれぞれ作ったたまご飛行機を出し合う。

「へぇ。これって原型のプラモ同じだよね?」

美紀ちゃんが驚きの声でそう聞いてくるので「そうだよ。デカールが違うだけで、それ以外は同じものだよ」と説明する。

まぁ、確かにそう思っても仕方ないのかもしれない。

私も驚いているし、彼も驚いているようだ。

なぜなら、二つは同じものと思えない出来上がり方をしていたのだ。

まず、私の作ったたまご飛行機のT-4は、資料を調べて少しリアルっぽくスジ彫りを追加し、昔の支援戦闘機三菱F-1っぽく緑色とカーキのツートンカラーで仕上げてある。

彼もそれに気が付いたようで、「これって三菱F-1の迷彩パターン?」と聞いてくる。

「ええ。T-4の前の練習機はT-2なので、どうせ緑系の塗装パターンにするなら三菱F-1の塗装パターン面白いかなと思って…」

「なるほど。だから少しスジ彫りなんかで情報量を増やしてリアルよりにしてるんだね」

彼はこっちの考えている事を汲み取ってくれたらしい。

なんかすごくうれしい。

「はい、そうなんです」

そして、視線を彼の作ったT-4に向ける。

そこには、よりデフォルメ色を強くしたT-4があった。

多分、翼や出ているぶぶんはより小さくしたのだろう。

より丸っこい感じを強調するようにいろいろ手を入れてある。

その上、それに合わせるかのように、淡い感じのクリーム色を中心に尾翼の部分にパステルカラーの虹の様な塗装が施されている。

「これ、かわいい……」

美紀ちゃんがそんな声を呟く。

いやわかります。

私だってそう思ったもの。

こういう風に作ってくるとは思わなかった。

てっきり私と同じリアル風に仕上げてくると思ってたんだけど、予想外だった。

まるで女の子が作ったみたいな。

まぁ、失礼かもしれないけど、そう思ってしまう。

これはかわいい。

かわいすぎる。

だからか、私は無意識のうちにぼそりと口から言葉が漏れた。

「これ、欲しいな……」

その言葉に、美紀ちゃんが「え?」みたいな言葉を発し、唖然として私を見ていた。

まぁ、今までそんな事を思ってても口にした事はないから、多分驚いたのだろう。

彼は、私の発言に満足そうにニコニコしている。

そして、「よかったら、つぐみさんのと交換しませんか?」と言ってくれた。

「えっ?いいの?」

思わず聞き返すと、彼は照れながら言う。

「だって、つぐみさんにもらって欲しいなぁとか思って作ったんだ」

その言葉には照れだけでなく、そう思っていたという彼の心を感じることが出来た。

だから、私は、彼の手を取って「うん。すごくうれしい。ありがとう」と返事をする。

彼は照れながらも「そう言ってくれるとがんばったかいがあるよ。僕もつぐみさんの作ったのをもらえてうれしい」と言ってくれる。

「大事にするね」

私はそういいつつ、彼の作ったたまご飛行機を大事に手に取る。

ちょこりんとした感じで私の手の中にあるたまご飛行機。

それは彼が丁寧にそして愛情籠めてつくった、彼の分身であり、子供みたいなものだ。

「絶対に大事にするね」

私は再度そう言って彼から私のモノになったたまご飛行機を愛おしく見る。

「僕も大事にするね」

彼が私の作った子を見てそう言ってくれる。

彼のその言葉に、私はなんかすごく照れてしまうけどうれしくて、そして暖かい気持ちになった。

彼もそうなのだろうか。

実に愛おしそうに私の作った子を見ていてくれている。

だから、そうなってくれるといいなと思う。

しかし、そうはならなかった人がいた。

美紀ちゃんである。

「あ~っ、もう、いい加減そろそろ帰ってきてよ~。二人の世界展開したまま置き去りにされてしまう私の気持ちを理解しろっ」

魂の叫びのような声に、私達は我に返る。

確かに、私達は幸せだけど、それに巻き込まれてしまった第三者はたまったものではないだろう。

実際に、友人のラブラブ空間に飲み込まれて、肩身を狭い思いで終わるのを待っていた経験がある私としては、美紀ちゃんの気持ちはよくわかる。

だから、二人して美紀ちゃんに謝るのだった。

ごめんね、美紀ちゃん。

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