やっぱり止めようかな。
ふとそんな事を思ってしまう。
つぐねぇと彼のあの仲のよい様子を見てしまうと自分が割り込む隙間などないのがわかる。
見せつけられてしまった。
本当なら、そういうことはないのだが、そう思ってしまうほどに互いに惹かれ合っているのがわかる。
だからこそ、約束はしたものの、買い物とビッグパフェの報酬を受け取るのを止めた方がいいと思ってしまうのだ。
しかし、そんな事を思う私がいる反面、それでも彼と一緒にいたいという思いも強く、それも出来ないでいる。
「あー、どうしょう……」
頭を抱えて、ベッドの上を転げ回る。
もっともそれでいい考えが浮かぶはずもなく、刻一刻と約束の時間が近づいてくる。
ここはやっぱり……。
いやでも……。
堂々巡りの繰り返し。
しかし、そこまで迷っているというのに着ていく服などのは準備万端なのはなんでだろう。
あー、違う違う。
今はそんな事を感がるんじゃなくて……。
いっそのこと、花びら占いみたいな事でもしょうかしら。
そんな感じで変なところでぐるぐる思考が空回りしていると、「美紀ちゃーんっ、今日お出かけするんじゃないの?時間大丈夫?」というつぐねぇの声。
はっと我に返って時計を見ると、そろそろ着替えないと間に合わない時間だった。
結局結論が出ないまま、私は選んだ服を着て、化粧をして、万全の戦闘準備完了で待合場所に向ってしまったのだった。
「おい、美紀ちゃん、すごくめかしこんでいたけど、デートか?」
ちょうどお店にいた南雲さんが驚いた表情で、出かけた美紀ちゃんを見て私に声をかけてくる。
「どうなんでしょうね」
私のあやふやな答えに南雲さんは鳩が豆鉄砲くらったような顔をして聞き返してきた。
「おいおい。いいのかい?」
その問いの意味がわからず、私は思わず聞き返す。
「何がです?」
「美紀ちゃんのお相手が気にならないのかってことだよ」
心配そうな顔で聞いてきた南雲さんとは反対に、少し考えたもののすぐに結論が出て、私は笑顔で答える。
「多分、大丈夫です。美紀ちゃんがあれだけ気合を入れて会いに行く相手です。変な人じゃないでしょう」
「でもよぉ……」
「それに、私は美紀ちゃんを信じてますからね」
その言葉に、南雲ははぁとため息を吐く。
「それってずるくないか?」
「ずるいですよ」
そう言ってにこりと笑った後、私は言葉を続けた。
「私達は姉妹ですしね。身内が信じなかったら、誰が信じるんですか?」
待ち合わせ場所は、美紀ちゃんが短大に行く時に利用するバス停だった。
「お店の前でいいけど」って言うとはっきり拒絶されたのはやはりつぐみさんにばれるのは恥ずかしかったからだろうか。
それとも別の理由だろうか。
ともかく、待ち合わせ時間10分前に到着すると、もう美紀ちゃんは待っていた。
普段は見ないようなふわふわのスカートにあっさりとした感じの上着。
それでいて耳にはイヤリングをつけて、化粧もきっちりとしていて髪は少し上に結い上げてある。
今までのイメージが活動的だとすれば、今日の美紀ちゃんはエレガントな大人の女性と言う感じだ。
「すごくかっこいいね」
車を止めて降りると、美紀ちゃんに近づいてそう言った。
その言葉に、美紀ちゃんは少し驚いた表情。
まさかそんな風に言われるとは思っていなかったようだ。
「いや、普段もかわいいんだけど、今日は気合が入ってきりりっと言う感じで、かわいいというよりはかっこいいって感じたからね」
そう説明すると納得いったのだろう。
少し、頬を染めて「ありがとうございます」と言われる。
うーん、なんかやりにくいなぁ。
普段なら、「何言ってるのよ」とか言うんだけどなぁ。
言葉の続けにくさを感じて何を言うか迷ってしまう。
まるで美紀ちゃんではなく、知らない別の人と会話をしているようだ。
そう思ったが、ふと気が付いた。
「そういえば、普段は二人ともタイプが違うからあまリ感じないけどさ、こうしてみるとやっぱり姉妹だな。、こういう風に着飾ると余計に二人とも似てるなぁって感じるよ」
その言葉で少し驚いた後、がっかりした表情になる美紀ちゃん。
あれれ?
つぐみさんの事を話すと普段なら食いつきがいいんだけど今日はどうしたんだろう?
いかん、いかん。
落ち込ませてしまったようだ。
うーん。
仕方ない。
ここで話し続けるのもなんだ。
さっさと車に乗って行こうか。
車の中での会話で盛り上げていくか。
僕はそう思って「ここで話し続けるのもなんだし、車の中で移動しながら話さないか」と言う。
すると、「ええ。お願いします」と美紀ちゃんは返事をして、二人で車に乗り込んだのだった。