「今日はつまらなかったかな?」
僕は思わずそう聞いてしまった。
買い物が終わり、今は間宮館で席に座って注文を終えたところだ。
僕はコーヒー、彼女はもちろんジャンボパフェだ。
「いいえ、そんな事は……ないです」
美紀ちゃんの反応は芳しくない。
今日はずっとこんな感じなのだ。
普段の彼女とは思えないほど会話は弾まないし、何か緊張しているかのようだ。
つぐみさんと違う意味で言葉に迷う。
うーん……。
どうすればいいんだろう。
困ったなぁ。
そんなときだった。
「あっ。こんにちわ」
そう声をかけられたのは。
どうしょう。
こんなに緊張してしまうなんて……。
変に思われちゃってるよ。
だけど、普段のように会話が出来ない。
思考が回らない。
それにまるで周りに怯える小動物のように周りが気になり怖い。
なんで?
つぐねぇみたいにはならずに、なぜこんなにも違う反応をしてしまうんだろうか。
出かける前は、あんなにドキドキしたのに。
いや、ドキドキはしている。
しかし、恋心でドキドキではなく、それは怯えてというのが正しい気かする。
相手に失礼があったらどうしょう。
かっこ悪いところを見せたらどうしょう。
幻滅されたらどうしょう。
そんなことばかりが頭の中をよぎり、そればかり考えてしまっている。
そんなときだった。
「あっ。こんにちわ」
一人の男の子が彼に声をかけてきた。
スポーツ刈りでがっちりとした体格。その反対に顔はどちらかというと優しげでニコニコしている感じの男の子。
多分、私より若いだろう。
服装もイメージに合う活動しやすいような柄の付いたシャツにジーパンだ。
そして男の子も視線がこっちに向く。
目と目が合った。
一気に男の子の顔が真っ赤になる。
「も、もしかして、星野美紀さん……ですかっ」
その言葉に、知り合いだったかなと思い、記憶を確認していく。
しかし、該当者はいない。
うーん。
だれだっけ。
そんな事を思っていると、彼が私に男の子を紹介してくれる。
「僕の知り合いで、間島徹くん。今日はどうしたんだい?」
「いえ。家にいると受験だ、なんだでうるさいので、こっちに逃げてきました」
あははは……と笑いながら、そういう男の子。
受験と言う事は、高校三年生。
やっぱり、思ったとおり私より年下だ。
そして、男の子の視線がこっちに向く。
「ま、真島徹です。始めまして。いや。僕的には始めましてじゃないですね…」
真っ赤になりつつ、そういう男の子、いえ、徹くん。
そして、少し遅れて彼の意味深な言葉に気が付いた。
えっ?!始めましてじゃない?
「えっと……どこかで会った事ありましたっけ?」
思わずそう聞き返す。
私の言葉に、あわわ……と慌てる徹君だが、真っ赤になりつつ説明をしてくれる。
どうやら以前知らないおばあちゃんを手助けしていたところをみていたらしい。
それに、学校に行く時になんどもみかけていたそうだ。
まぁ、そうなると私が知らないだけで、徹君的には始めましてという感じじゃないわねぇ。
私は苦笑する。
しかし、助かったっ。
徹君のおかげで、なんか場を落ち着かせることが出来そう。
このまま気まずいままでせっかくのデート終わらせたくない。
そんな気持ちが強くなってしまっていたし、彼との知り合いならしばらくここにいてもらってもいいかなと言う軽い気持ちで「一緒にお話でもどう?」と相席を聞いてみる。
彼は少し驚いた表情をしたが、すぐににこりと笑い、「美紀ちゃんがせっかくそう言ってくれたんだ。少し話でもしたらどうだい?」と徹君に言ってくれる。
「い、いいっすか?すごくうれしいです。あ、ありがとう」
そう言うと、徹君は彼の隣に座った。
ぎこちない動きだが、どうやら緊張しているみたいだ。
そして、私をちらちらと見ては真っ赤になっている。
なんか初々しい感じで、まるでつぐねぇのようだ。
そして魔がさしたのだろう。
徹君ぐらいの年の子にとって私はどう見られているのかなとか思ってしまう。
普段なら気にもしない事なのだが、せっかく着飾ったのだ。
ちょっとぐらい聞いてみてもいいかもしれないと思って聞いてみた。
「ねぇ、徹君でいいわよね?」
「はいっ、いいですっす」
「君ぐらいの年の子から見たら私はどうかな?」
私の言葉に、徹君は私の方を見て耳まで真っ赤にしてたどたどしく答える。
「す、すごく、き、きれいで……。あっ。もちろん、普段も美人なんだけど……。今日は特に……きれいです。天使みたいっす」
なんかすごくうれしい。
年下の子とはいえ、こういう風に褒められるのはなかなか気持ちがいい。
南雲さんや彼も「きれいだよ」とか「かわいいよ」とか言ってくれるけど、スマートすぎてここまで気持ちよさが高ぶらない気がする。
しかし、彼の場合は必死な感じがしてこっちもドキドキしてしまうような感覚だ。
そこで私は気が付いた。
えーっと……、あれ?
頬の辺りが熱いんですけど。
そんな私を、彼はニコニコしながら見ている。
「美紀ちゃん、真っ赤になってるよ。ねぇ、徹くん」
彼の言葉に、徹君は頷く。
「えっ?ええええっ……。嘘っ」
「嘘なもんか。ほら……」
そして手渡されたのは、渋い感じの小さな折り畳みの手鏡。
そこには、真っ赤になって焦っている私の顔が合った。
「えっと、これはっ、ですねぇ……」
慌てる私が何か言おうとした時、注文のジャンボパフェがどーんときた。
その圧倒的物理量と色取り取りの鮮やかな色彩が引き際極まっている一品だ。
ああ、助かった。
これで気を何とか落ち着かせる事ができる。
そういや、追求が来ないなぁと思ったら、男性二人は、私の目の前に置かれたジャンボパフェに目を奪われていた。
「すごいな……」
「すごい量っす……」
そして、パフェを見た後、男性陣の視線が私に向いた。
その目線は、これ食べるの?と聞いていたような気がしたので、私は「いただきます」と言って、その場を誤魔化すかのようにパフェを食べ始めたのだった。