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第48話 デート?! その4

仕事の電話で席を離れている間に何があったのかはわからないが、その後の美紀ちゃんはいつもの美紀ちゃんに戻っていた。

うーん、何があったんだろう。

気にはなったが、いろいろ聞くのもなんなので聞かないことにした。

美紀ちゃんもいつもの通りに戻ったし、徹君も告白できたしということで、結果オーライになってるし、それに下手に聞いてひどい事になったら、まさに藪をつついて蛇を出すになりかねない。

そういうわけで、徹君が告白し、美紀ちゃんが、まずは友達からとしてという返事をしたという事実だけがわかれば良しと言うことにする。

結果、それがよかったのか、その後一時間ほど話し込み、せっかくだからと夕飯をご馳走する事にした。

「僕もいいんですか?」

徹君がまるでまぶしいものを見るような目で僕を見ている。

「ああ。構わないよ。でも家には連絡しておいてくれよ」

「もちろんです。すぐに電話してきます」

そう言って、ダッシュでスマホを持って店の外に駆け出していく。

「ああ、そうだ。美紀ちゃんも連絡しておいたら?」

「ふふっ。私はメールを使ってもう送りました」

なるほど。

メールならわざわざ外に出なくてもちょっとで終わる。

便利だな。

でもなぁ……。

人の声聞かないとわかんないものがあるからなぁ。

そんな事を思っていると、美紀ちゃんがじーっとこっちを見る。

「な、何?」

「いや、どこのお店に行くのかなと…」

「そうだな。食い放題のお店を考えてるけど、いいとこ知ってる?」

まるで僕の言葉を待っていたかのように美紀ちゃんが即答する。

「いいとこ知ってます。任して」

「ならお願いしょうかな」

そして、徹君が戻ってくると、喫茶店を出て美紀ちゃんの案内でお勧めの店に出発した。


その店は、全国展開する有名なチェーン店ではなく、どこにでもあるような焼肉屋だった。

「ここでいいの?」

僕が聞くと、美紀ちゃんはニタリと笑って言った。

「ええ。ここです」

「普通の焼肉屋みたいだけど」

僕がそう言うと、徹君もうなずいている。

「ふっふっふ……、ここは、結構大きな肉専門店が直営するお店なんですよ。まぁ、まぁ、中に入って、入って」

急かされるように中に入ると、美紀ちゃんと同じ年齢の女の子が出てくる。

「いらっしゃいませっ」

すると美紀ちゃんが手を上げて挨拶する。

「志保っ。食べに来たわよっ」

「ああっ。美紀じゃないっ。いらっしゃい~っ」

二人で手を取り合ってキャッキャッ言ってじゃれあってる。

「ここ、美紀ちゃんの知り合いのお店なのかい?」

「うんっ。私の親友のお父さんが経営するお店なの。あ、紹介するね。こっちは、私の中学からの親友で佐伯志保」

紹介された女性が頭を下げる。

「佐伯志保といいます。ここのお店で働いてます。えっと、もしかして美穂の彼氏さんですか?」

そう言いつつ、こっちを伺う。

「はははっ。残念。彼氏候補はこっちだよ」

そう言って、今の志保ちゃんの言葉を聞いてしょぼくれた徹君を指差す。

「えーっ。こっちですかっ」

信じられないものを見たって感じで、志保ちゃんが美紀ちゃんを見る。

「美紀っ。いつから年下に宗教変えしたのよっ。年上好きのファザコンのあんたがっ」

その言葉に僕は苦笑し、徹君はがっくりダメージを受けている。

よしよし。がんばれ、徹君。応援するぞ。

「うるさいなっ。いいじゃん。それにね、まだ彼氏じゃないっ。今は友達からなのっ」

その美紀ちゃんの言葉に、志保ちゃんはニタリと笑みを浮かべる。

「ふふんっ。それなら、私がこの子誘惑してもいいのよね」

「い、いいわよっ。やれるものならやってみなさいよ」

なんかやけっぱちでそんなことを言う美紀ちゃん。

「じゃあ、遠慮なく」

そう言うと、志保ちゃんは、目を細めて右手の人差し指で徹君の顎を撫でて口説く。

「ねぇ。こんな手間のかかる女なんか捨てて、私のモノにならない?」

まぁ、かなり色っぽい感じで、なかなか刺激的だ。

その行動に美紀ちゃんが固まっている。

まさか本当にするとは思わなかったようだ。

「な、な、な、な……」

多分、何やってるのよと言いたいのだろうが、口が回っていない。

しかし、その言葉を言う前に徹君は、頭を下げた。

「すみません。すごくうれしいですけど、僕は美紀さん一筋だから」

躊躇なく、実に健気な言葉だった。

「おおおーっ。これはいい物件だよ、美紀っ。手放すなよぉ」

「うるさいっ」

そう言っている美紀ちゃんだったが、その表情はうれしそうだった。

その後、志保ちゃんに案内されて、テーブルにつくと何枚かの皿と箸、それにお冷が出される。

「えっと、メニューは?」

僕がそう聞くと、志保ちゃんは壁を指さす。

そこには、「1時間食い放題 1980円」と飲み物の価格が張り出されている。

「うちは、1時間食い放題と飲み物関係しかメニューないんですよ」

「えっと、ご飯関係は?」

「ああ、それも食い放題価格に入ってます」

そう考えると、1時間1980円はなかなかリーズナブルな価格ではないだろうか。

「なら、食い放題3人分に、ウーロン茶か。徹君は?」

「僕も未成年なのでウーロン茶を」

「美紀ちゃんは?」

「私もウーロン茶で」

そう確認し、志保ちゃんに最終オーダーを伝える。

「食い放題、3人分にウーロン茶3つね」

オーダーを受けた志保ちゃんはうれしそうにオーダーを確認すると奥に戻っていった。

「なかなか元気な人みたいだね」

僕がそう言うと、美紀ちゃんは、「失敗だったかな」と呟いている。

「いやいや。いい人だと思うよ。まぁ、好奇心ありすぎな気がしないでもないけどね」

僕のその言葉に、苦笑する美紀ちゃん。

徹君はというと今から始まる戦いの準備に余念がなかった。

要は、皿を配ったり、たれや味塩や薬味を準備したりといったことだが……。

そして5分もしないうちに、テーブルの上には小型の細長い四角い七輪が用意され、いろんな肉と野菜が盛り付けられた大皿が三皿と大盛りのご飯が三つ。

それにウーロン茶が三つ並べられる。

七輪の中には、程よい感じに炭火が起こされており、熱気がすごい。

また、肉も肉屋直営店ということで、なかなかいい肉を使っているのがわかる。

「肉や野菜の追加は早めに言ってくださいね。もちろん、ご飯もおかわりOKですから遠慮しないで言ってください。では、只今から一時間となります。どうぞごゆっくり」

準備が終わるとそう言って、志保ちゃんは下がり、焼肉という名の戦いが始まった。


そして、結果からいうと……。

ごはんおかわりして 肉追加で僕はギブアップ。

美紀ちゃんは、お代わりする必要もなく、出された分でおなかいっぱいであった。

そして、徹君は……。

「えっと、すみません。その肉、食べないならもらっていいですか?」

実にご飯3杯で肉2回追加。

でさらに僕が食べ切れなかった肉を食べつくし、その上、デザートまで食べるという大食漢ぶりを披露した。

いや、若いってすごいな。

美紀ちゃんも呆れ返っていたが、徹君曰く、これくらいは彼の友達なら普通らしい。

その後は、まずは徹君を家の近くまで送った。

徹君は、「ご馳走様でした」と僕に言って頭を下げた後、美紀ちゃんに「メールします」と言っていた。

どうやら、メールアドレス交換はやったらしい。

なかなかいい感じでがんばっているようだ。

そして遅くなってしまったから、結局美紀ちゃんを模型店の前まで送っていった。

まぁ、行きのときの様に拒否もなかったし、問題ないんだろうと僕は思っていた。

しかし、それは甘かったというべきだろう。

模型店の駐車場で車を止めて美紀ちゃんが降りた後、つぐみさんに挨拶だけでもしておこうかなと思って車からでた僕は、近づいてきた美紀ちゃんに抱きしめられていた。

ちなみに、念のために弁解しておくが、僕からは抱きしめていない。

「今日のお礼です」

そう囁きながらちらちらとお店のほうを見る美紀ちゃん。

まさかと思い、僕もお店のほうを見ると、カウンターに呆気に取られた表情のつぐみさんがいるのが見えた。

すーっと冷や汗が流れる。

しっかりとつぐみさんがこっちを見ているのを確認した後、くすくす笑いながら美紀ちゃんが離れる。

「後は、がんばってくださいね」

それだけ言うと、美紀ちゃんはお店の中に入っていく。

おいっ……。ちょっと待てっ。

僕も慌てて美紀ちゃんの後を追うようにお店に入る。

もちろん、今の状況を弁解するためだ。

そして、僕は入口で蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。

そこには…般若の仮面をつけたつぐみさんがいた。

「どういうことですかっ!!」

「い、いやっ、これはっ……」

慌てふためく僕を尻目に、しれっとした表情の美紀ちゃん。

そして、「つぐねぇ、ごめんね。今日、彼、借りてたよ」なんて言うもんだから、事態は悪化するのみで、爆弾を爆発させた美紀ちゃん本人はそのままさっさと二階に非難してしまう。

取り残される僕とつぐみさん。

ぎろりと鋭い視線が僕に向けられる。

まさに修羅場である。

ともかく、弁解しなければっ。

必死になって弁解して今日の事を全部説明する。

最初こそ怒り心頭だったつぐみさんだったが、僕の説明を最後まで聞くと呆れかえっていた。

「もう、あの子はっ……」

そう言ってため息を吐き出すとつぐみさんは二階を見上げている。

僕にはどういう理由かわからないが、つぐみさんにはなぜ彼女がこういう行動を取ったのかわかったらしい。

そして、視線を僕に戻すとちょいちょいと近くに来るように呼ぶ。

何がなんだか、わからないまま、言われるままにつぐみさんの近くに来るといきなり抱きつかれた。

慌てて、僕はつぐみさんを抱きしめ返す。

「今度から私以外の女性と出かけるときは報告してくださいよ」

彼女が耳元で囁く。

「それが妹である美紀ちゃんでもです」

その言葉に僕は慌てて頷き返す。

「よろしい」

つぐみさんはそう言うと、僕の頬にキスをしたのだった。

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