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第49話 WPD社 1/48 F-5A Sukoshi Tiger

「sukoshi tiger?」

新しく入荷した商品の一つの名前に目が行き、思わず手にとってしまう。

そのキットの白い箱には迷彩塗装された飛行機と

『1/48 F-5A Sukoshi Tiger』

という機体名が書いてある。

あれ?

確か、F-5Aはフリーダムファイターではないだろうか。

不思議に思って箱をよくチェックする。

機体名の間違いではないようだ。

メーカー名も国内メーカーではないらしく知らない名前で、横の注意書きなんかも英語でかかれている。

どうやら海外のメーカーのもののようだ。

何だこれ?

思わず箱を手に考え込んでいると、それを見つけたつぐみさんが聞いてきた。

「どうしたんですか?」

「いや、このキットだけど……」

僕が持っている箱を見て、ああ納得したという顔をするつぐみさん。

「ああ、スコシタイガーですね」

「スコシタイガー?F-5Aって呼称、フリーダムファイターじゃなかったっけ?」

僕の言葉に右手の人差し指を立てて得意そうな笑顔でつぐみさんが説明を始める。

「うーん。A型の事をフリーダムファイターって呼ぶのは間違いないんですけど、この機体は違うんです。実はベトナム戦争でアメリカ軍が評価試験用のF-5飛行隊が臨時編成して対地攻撃に投入した時に使われたのがこの機体で、このF-5はA型なんですけど、空中給油プローブや装甲の追加など、従来のF-5Aとは異なる「特別仕様」だったんです。そして、その時の機体を本来なら「リトル・タイガー」とするんでしょうけど、外国語風の語感にするため「リトル」を日本語の「少し」に変えて「スコシ・タイガー」と命名したそうですよ」

その説明を受けて、興味を引かれる。

「なるほど。面白いね。A/B型はフリーダムファイターで、E/F型はタイガーⅡ。だから、その中間帯に位置するこの機体を「小さな虎」「スコシタイガー」って呼ぶってことか」

「そうですね。人によっては、F-5Cと言う人もいるくらいですから」

「へぇ……」

なかなか面白そうな機体だな。

でも海外メーカーか。

海外メーカーのは作った事ないからなぁ。

ちょっと怖い気もする。

ハズレものにあまり当たりたくないし……。

でも一応確認しておく。

「ねぇ、WPって海外メーカーだよね?」

僕の質問に、よくぞ聞いてくれたとばかりにつぐみさんは大きく頷く。

「ええ。元々は、プラモデルのカスタムパーツを専門に作っている会社です」

「カスタムパーツ?」

「座席や足回り、エンジンなど、普通のメーカーが省略して簡単にしている部分をより現実のものに近く作りこむための部品を売っている会社ですね。レジンがメインですけど、金属製パーツやデカールなんかも出しています。日本のH社やT社のカスタムパーツなんかも出していますよ」

「へぇ。知らなかったよ。そんな会社があるなんて。それに日本のキット対応のやつもあるのか」

基本、キットの箱の中に入っているパーツ以外は、そんなカスタムパーツなんてほとんど見たことないし、使ったこともない。

だから、なんとなくとしかわからない。

それが伝わったのだろう。

「ほら、H社が時々、特別版として金属パーツや精密で違うパーツつけて販売してるでしょ?その特別版についている金属パーツや精密パーツだけを開発して販売しているメーカーって感じですかね」

そう説明されて、やっとだがイメージが出来た。

「なるほど、それはわかりやすい。でも、それだったら、このキットは何?」

自分の手の中には、カスタムパーツだけでなく、きちんと一式作ることが出来るキットがある。

さっきの説明なら、このキットってどういうことなんだろう。

「ふふふっ。このWPって会社のすごいところは、他のメーカーに依頼して基本となるキットを生産してもらい、自分の作ったカスタムパーツを追加して自分のところのブランドで出しているってことですね。ほら見てみてください」

つぐみさんが箱を開けて、中身を見せてくれる。

中には普通のパーツとは別に、カスタムパーツと思われる部品と訓属性の板が追加で入っていた。

「これはレジン製の座席でこっちのは計器用のエッチングか。すごいな……」

その精密な出来に驚くしかない。

また、元々のベースキットも出来がいい。

モールドもシャープだし、パーツ分割も独特で細かく分かれている。

実に面白そうな模型だ。

なんか、作りたくてうずうずしてきた。

「海外メーカー初めてだけど、作ってみょうかな」

「はい。いいと思いますよ。それに……」

少し意味深で言葉を止めるつぐみさん。

「それに?」

聞き返す僕の後ろをすーっと指差します。

なんだ?なんだ?

慌てて後ろを振り向くと、そこにはつぐみさんのおじいさんである星野悟さんがニタニタしながら立っていた。

「わからん事は、私が教えてやろう」

いつの間に……。

思わず唖然としてしまう。

まるで待ってましたといわんばかりのタイミングだ。

「そういうわけなんで……」

苦笑してそう言うつぐみさん。

その微笑みは、まさに「スコシタイガー」に相応しいものだった。


なお、英語のlittleには「少し」という意味と「小さい、可愛い」という2つの意味があり、最後のつぐみさんの場合は…『かわいい虎』と訳すのが正しいですwww


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