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第62話 H社 たまご飛行機シリーズ ゼロファイター 零戦 その4

今日は、前回から2日後の第二回目の製作日だ。

「これでいいですか?」

そう言って徹くんが見せてくれた主翼と尾翼のパーツの加工は、ほぼ満点と言っていいほどの出来だった。

「すごいな。しっかり出来ているじゃないか」

「いやぁ、改造マニュアルがわかりやすかったんで」

そう言って頭をかく徹くん。

「しかし、借りていったヤスリって鉄製のやつだろう?これはかなり細かな耐水か紙ヤスリじゃないとここまで出来ないと思うんだけど」

そう言うと、徹くんは苦笑して何枚かの耐水や紙ヤスリを出す。

「家で削っていたのを親父に見つかって。それでいろいろアドバイスとヤスリもらったんですよ。『なつかしいなぁ。俺も昔作ってたんだぞ。もっとも車とかバイクだったけどな』とか言ってたっけ」

「そうか。やっぱり、それぐらいの人はプラモデル触った事のある人多いからなぁ。当時はスーパーカーブームとかいろいろあったみたいだし」

「へぇ。そうなんですか?」

「おっと。そんな事を喋ってる暇はなかったっけ。じゃあ、早速本体に接着して……」

事前に本体のメイン部分を作っておいたので、それに翼を接着する。

ふむふむ。いい感じだ。

というか、本体も丁寧にヤスリがけしてあるな。

「よしっ。それじゃ、エンジンとか、エンジンカウルとかプロペラとかを先に塗装しょうか」

そこまで言って思い出す。

「そういえば、聞き忘れたけど、本体は何色で塗りたいんだい?」

そう聞くと、すぐに徹くんは、青色でと答えた。

なぜ、青色なんだろう。

そう思っていると、差し入れだろうか。

冷えた麦茶を持って作業室に入ってきたつぐみさんがうれしそうに「青い鳥ですね」と言ってくる。

それで僕もわかった。

メーテルリンクの青い鳥。

幸せを呼び込む青い鳥。

それを徹くんは意識したようだ。

「ええ。わかりますか?」

そう言う徹くんにつぐみさんはくすりと笑い、「オチも含めてという事でいいのかしら?」と聞いてくる。

その言葉に頭をかいて照れる徹くん。

確か、メーテルリンクの青い鳥のオチは、幸せの青い鳥を探して旅に出たけど、結局は青い鳥は自分たちの家にいたって感じのオチだったような…。

それで納得した。

要するに、幸せはすぐ傍にありますよって自分をアピールしたいらしい。

なかなか洒落た事を考えるものだ。

だが、もっとも美紀ちゃんがそれら気が付くといいんだけどね。

「青か……。」

そう呟いて作業室の窓から店内を見る。

向こう側には、飛行機の模型のコーナーがある。

一色で塗ってもいいけど、それだと味気ないかも。

そんな事を思っていたら、目に入ったのは「三菱F-2」の文字。

慌てて、作業室から出て、飛行機コーナーに行く。

そして、徹くんを呼ぶ。

「この色なんかどうだい?」

見せたのは、H社の1/48三菱F-2Bの箱だ。

そこには、濃い目の青と水色っぽい青のツートンカラーの海上迷彩の飛行機のイラストが描いてある。

「一色だと、単調だからさ。濃い目の青と水色っぽい青を使ってみたらどうだろう」

そう言うと、徹くんは「いいですね。なんかかっこいい」と言ってくれる。

そのやり取りを見ていたつぐみさんが、「三菱F-2は、平成のゼロ戦といわれている名機ですよ。なんか面白いですね」と言ってくすくす笑っている。

確かに、昔の零戦を現在の自衛隊で使用されている平成のゼロ戦と呼ばれている三菱F-2のカラーリングで仕上げるなんて面白いと思う。

ただ、三菱F-2の海上迷彩は、初心者には難易度が高いので、もっと簡単な塗りわけ方法にしたほうがいいだろう。

「これの塗り方を真似るのは初心者には大変だから、上側を濃い目の青。下側を水色っぽい青で塗り分けたらどうかな?」

そう提案すると、「それでお願いします」と言う返事が帰って来た。

徹くん的にも、あれは難易度高すぎると思っていたらしい。

「じゃあ、これ使ったらどうですか?」

つぐみさんが、すぐに塗料セットの箱を出す。

「航空自衛隊機洋上迷彩色」と書かれていて、先端のグレーと、濃い目の青、水色っぽい青の三色がセットになったものだ。

「ああ、これいいな」

「いいですね」

僕と徹くんはそれぞれそう口にすると、つぐみさんがにこりと笑って言う。

「お買い上げありがとうございます」

その言葉に、僕も徹くんも笑ってしまう。

なかなか、商売上手じゃないか。

徹くんも笑いつつも納得したのかそれを持ってカウンターに歩いていく。

「じゃあ、僕は塗装の準備をしておくよ。筆とかはどうする?」

「あ、3本セットの安いやつと薄め液の小さいのを一緒に買う予定です」

それだと、全部で千円超えると思うんだが大丈夫だろうか?

そう聞くと、「それぐらいなら大丈夫です。それに自分のお金を出して完成させたいんです」と返された。

まぁ、本人が大丈夫だというんならいいだろう。

そう思って、使うつもりだった自前の筆と薄め液を片付ける。

塗料は買ってもらうが、薄め液や筆ぐらいは貸してもいいかなと思っていたが、それは本人の気持ちが許さないようだ。

塗料を買ってきた徹くんは、そのまま塗料を塗ろうとしていたので慌てて止める。

なんか、昔の模型を始めたばかりの僕のような事をしているなぁ。

小さいころは、薄めるなんて事は考えてなくて、薄め液=筆を洗う為っていう考えだったからなぁ。

なんて思いながら説明する。

「塗料は、少し薄めて塗るほうがいいよ。筆塗りだとこの塗料はラッカー系だから、希釈率の比率は、塗料1に対してうすめ液1~1.5ぐらいかな」

そして塗料皿を用意して、こっちに大体の割合でいいので入れるように指示する。

そして、空になって中をきれいにしたビンを一つ取り出すと、そのビンの8割程度に薄め液を入れるように言う。

「これ、何にするんですか?」

「筆を洗う時の用にね。薄め液のビンをそのまま使ったら、希釈使えないだろう?」

「ああ。そうですね。でもいいんですか?」

徹くんが少し心配そうに聞いてくる。

「何がだい?」

「いえ、ビンなんですけど……」

どうやらビンの事を気にしているらしい。

僕は笑いつつ「これは使い切った塗料のビンをきれいに洗って配合して色作ったりしたときの保存用に用意しているやつだから、心配しなくていいよ。家に帰ったらいくつもあるしね」と言うと、徹くんは少しほっとした表情を浮かべている。

気を使い過ぎだって。

本当に。

「それじゃあ、まずは水色っぽい青から塗っていこうか」

そう言うと、徹くんは塗料を薄めて塗り始めた。


塗装を始めて1時間が経過した。

大きな塗りミスもなく、乾きの早いラッカー系というのが幸いし、大体の塗装が完了した。

本体だけでなく、車輪周りも塗装が終わっている。

「いい感じじゃないか」

「ありがとうございます」

徹くんは、そう言いつつも実にうれしそうだ。

「じゃあ、次のときに細かい塗装とデカールで仕上げようか」

「はいっ。でも、これどうしましょうか?」

確かにまた完全に乾いていない部分もある為、持って帰る事は無理だ。

「心配しなくても、きちんとキープしておきますよ」

つぐみさんがそう言ってガッツポーズをかわいくとる。

「そうだね。持って帰るまでになるころには美紀ちゃんも帰って来てるだろうし」

「でも、もし見られたら……」

心配そうな表情を見せる徹くん。

どうやら、美紀ちゃんには秘密にして驚かせたいらしい。

「大丈夫ですよ。美紀ちゃん、工作室には入らないし」

「なら安心だな。それよりいいのか?そろそろ美紀ちゃん帰ってくるぞ」

僕がそう言うと、徹くんは「後お願いします」と言って慌てて帰って行く。

もっとも、つぐみさんの話では、メールや電話のやり取りは毎日のようにやっているらしいけどね。

まぁ、がんばれ。

僕もつぐみさんも応援しているからな。

そんな事を思いつつ、徹くんの後姿を二人で見送っていた。

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