目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第67話 H社 1/48 三菱F-2B

「最近は何作ってんだ?」

南雲さんが棚を物色しながらそう聞いてきた。

「最近は、何種類かたまご飛行機とか作りましたね」

そう僕が言うと、南雲さんの視線は、飛行機コーナーの棚から店内に新設されたたまご飛行機コーナーに移る。

そこには何種類ものたまご飛行機の箱が並び、その上には「かわいいデフォルメ改造マニュアルとデフォルメデカール」セットプレゼント中」とかわいい文字と絵でポップが描かれてあった。

また、その下には、「別売りでプレゼント用ボックスとリボン発売中」と追加ポップもある。

ちなみに、ポップは以前の営業していた時に身につけた技術で僕が描いたものだ。

我ながらかわいく出来たと思う。

つぐみさんや美紀ちゃんも喜んでいたし、聞いた話だとお客さんの評判もいいみたいだ。

「もしかして、あれ、お前の仕業か?」

さすがに目ざといな。

そう思いながら、「わかりますか?」と苦笑して頷く。

「やっぱりか」

南雲さんはそんな僕を見て笑う。

「面白いやつだとは思ったけどな。あんなことが出来るとは思ってもみなかったよ。しかし、あれはなかなかいいアイデアだな」

「いえ。作ったのは僕ですけど、ああいう展開にしたのはつぐみさんですよ」

「でも、それの基本を用意し、ポップまで描いて売り上げに貢献したのはお前だろうが」

「まぁ、そういわれれば……」

そんなことを二人で話していたら、熱心に何個かのキットを見ていた小学生高学年ぐらいの男の子がどうやら決めたらしく、一つを選んでカウンターにもって行く姿が見えた。

つぐみさんがニコニコして商品を受け取り、価格を言う。

そして、「改造マニュアルとデカールのセットはいりますか」と聞くと、男の子は恥ずかしそうに頷き、「プレゼント用の箱も……」と注げる。

「はい。何色になさいますか?」

しばらく考えた後、男の子は黄色でと言って笑う。

興味があったのだろう。

「どうして黄色なの?」

つぐみさんがそう聞くと、男の子は幸せの色だからと言う。

その表情は、相手の幸せを祈っているかのように見えたのだろう。

「そっか。相手の人が幸せになれるといいね。がんばってね」

つぐみさんは微笑みながらそう言うと価格を告げて袋詰めを始める。

その様子をワクワクした表情で見る男の子。

多分、好きな女の子にでも作ってプレゼントするんだろう。

そして、お金を払って袋を受け取ると大切なもののように袋を持ってお店から出て行った。

「ほんと、あんなに小さな子供がうれしそうにプラモデル買っていく様子を見るのは久しぶりだよ」

南雲さんは目を細めて、懐かしいものでも見るように見ている。

多分、自分が小さいころでも思い出しているのだろうか。

確かに昔は男の子の娯楽にはプラモデルを作るという選択があった。

それは数少ない男の子の娯楽のなかでは王道と言うべきものだった。

Gプラブームとかもあり、当時の男の子の娯楽のスタンダードな選択の一つだった。

しかし、今、娯楽は多様化し、プラモデルはその数多くの選択肢の小さな一つとなってしまっている。

そして、ブームのキャラ系プラモデルは大型量販店で叩き売られている。

小さな模型店では出せないような安い価格で……。

昔とはまったく違う現状で、二度と見られないと思っていた情景を見ることが出来た。

だからこそ、南雲さんの言葉にはしみじみと昔を懐かしむ重みがあった。

しかし、僕としては、ただ単にたまご飛行機のブームで終わりにはさせたくない。

「まだまだですよ。このお店でしかできない事をもっともっとつぐみさんと一緒にやっていきたいと思ってますよ」

僕はそう強く言うと、男の子を見送って店の入口を見ていた南雲さんが僕の方に視線を向けた。

その表情は、さっきたまご飛行機を買っていった男の子のようにわくわくした表情だ。

「ふっ。すっかりこの店の営業担当って感じだな。実に頼もしい限りだ。俺や同好会の力が必要なら、すぐに言うんだぞ。喜んで力を貸すからな」

その頼りがいのある言葉に僕は頷き、「よろしくお願いします」と頭を下げた。

「ああ。任せろ」

南雲さんはそう言うと、1/32 P-40K ウォーホークのキットの箱を手に取るとカウンターに歩いていった。

多分、今度の発表会用のキットなんだろう。

それで思い出す。

いかん。僕もそろそろ作り始めないと。

この前の新作見本市で購入した海外メーカーのキットがいくつかあるものの、今はそれよりも国内メーカーのものが作りたい心境だ。

ざっと飛行機コーナーを見て周る。

最近は、本当にたまご飛行機のデフォルメばかり作ってたからなぁ。

たまにはリアルでがっしりとしたものも作りたい。

そんな事を思っていたら、ふと目に入ったキットがあった。

以前、徹くんのたまご飛行機の色を決める時に目に入ったキットだ。

『H社 1/48 三菱F-2B』

単座のA型もあるが、複座のB型の方を選択してみる。

色は、この前つぐみさんが教えてくれた航空自衛隊洋上迷彩色セットだ。

そういえば、H社は、ミサイルなんかは最低限しか入ってなくて、別売りだった事を思い出す。

えっと、あったあった。

『H社 1/48 航空自衛隊ウェポンセットA』

こっちもチョイスする。

それらを持ってカウンターに行くと、つぐみさんがニコニコと微笑んでいた。

「今度は三菱F-2ですか?」

「ええ。そういえば、この前、たまご飛行機で作ったんですよね」

以前、たまご飛行機の三菱F-2をつぐみさんが作ったとき、たっぷりと解説をしてもらった記憶がある。

「懐かしいですね」

ふと思い出すような表情をするつぐみさん。

確か、あれは…仮の告白をしたころだっけ…。

あの時は、こんな風に付き合いたいとは思ったけど、前途多難ではるか先のことのように思えたんだよな。

それが、今じゃ……。

ふと気がつくとつぐみさんが僕を見ていた。

僕も見つめなおす。

しかし、二人で笑う。

「このままだと、また美紀ちゃんに怒られちゃうね」

「そうですね」

「じゃあ、また今度、一緒に出かけませんか?」

その僕の言葉に、つぐみさんはうれしそうに頷いたのだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?