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第68話 FM社 1/12? 第二次世界大戦 ソビエト陸軍女兵士 シュパーギンPPsh1941サブマシンガン その2

「どうした?暗い顔して」

星野模型店の展示品を食い入るように見ていたら後ろから声をかけられた。

「あ、どうも。梶山さん」

僕がそう言うと、梶山さんが僕の横に来て食い入るように見ていた展示物を見る。

それはフィギュアだった。

アニメやゲームのキャラクターだけでなく、T社の1/35フィギュアや1/48フィギュアが塗装されて並んでいる。

「おいおい。最近はこっちの方もやり始めたのか?」

面白そうな表情をして、僕の様子を伺う。

僕はため息をついて言葉を返す。

「いや、悟さんから課題をもらったんだけど、なかなか苦戦してて」

僕の言葉に面白そうだなって感じの笑顔で僕を見ている梶山さん。

「ほほう。どんなフィギュアだ?」

「ミリタリーものなんですけど、Tさんデザインの1/12ぐらいのデフォルメ歩兵のフィギュア知ってます?」

少し考えた後、思いついたのだろう。

「ああ、もしかしてあれか、FM社の……」

「ええ。それです。フィギュアの塗り方の課題と言うことで今少しずつ作ってはいるんですよ」

「ああ、あれな。あれ、確か20年位前か?古いからバリとか歪みあって大変だろう?」

その言葉に苦笑して答える。

「ええ。バリと合いが悪い部分が多かったですね。まぁ、それは何とかなりそうなんでいいんですけどね。問題は……」

「問題は?」

「塗装のコツなんですよ。どうしてもうまく出来なくて」

苦笑してそういう僕を見て、梶山さんは少し腕を組むと考え込んだ。

そして、僕の方を見て聞いてくる。

「お前さんはどういう風に塗りたいんだ?」

「どういう風にって?」

僕がそう聞き返すと、苦笑して展示されているフィギュアを指差しつつ再度聞いてくる。

「こういうアニメ風に仕上げたいのか、それともこっちのミリタリー風に仕上げたいのかって聞いてるんだよ」

そう言われ、指を指したフィギュアを見比べる。

「どっちがいいんでしょうかねぇ……」

僕の言葉に梶山さんは「そこからかっ」と言って苦笑する。

しかし、すぐに「しかし、Tさんのデザインなら迷うのもわかるけどな。確かにどっちの塗り方でも合いそうだからなぁ……」と言葉を続けた。

「そうなんですよね」

僕はそう返事をして聞いてみる。

「梶山さんは、どんな感じで塗ってるんですか?」

その僕の言葉に、「どっちの方のだ?」と返事がかえってくる。

「えっ?」

「だから、どっちの方だ?」

ミリタリーのフィギュアは、多分梶山さんだとわかっていた。

しかし……

今の問いかけを考えてみると、もしかして……。

僕はもしかしたらと思って聞いてみる。

「あの、もしかしてこのアニメのキャラのフィギュアも梶山さんが作ったやつですか?」

「そうだが?」

当たり前のように言う梶山さん。

「えっ、こういうの作るんですか?」

「ああ、気分転換にな」

「し、知らなかった……」

僕がそう言うと、がははははっと笑って「言ってないからな」とダメ押しをする梶山さん。

まさか、こういうのも作るとは思っていなかった。

「まぁ、本格的じゃないけどな。それはそうと、結局、だからどっちの塗装のコツを知りたいんだ?」

僕はきっぱりと言い切った。

「両方教えてください」

僕の言葉に、梶山さんは少しきょとんとした後、爆笑していた。


「まずは、こっちのアニメフィギュアの塗り方だが、こういうものかあってな」

そう言って見せてくれたのは、フィギュア用のカラーセットだ。

「へぇ。こういうのあるんですね」

「でも、まぁ、今回は多分使わないと思うぞ」

「何でです?」

「これをうまく使おうと思ったら、エアブラシがあったほうがいいからな。赤っぽい色を全体的に塗ってから肌色を調節しながら塗っていくんだ。筆ではなかなか無理だろう」

「ああ、そうですね。エアブラシないからそれは無理かも……」

僕がそう言うと、だろう?って感じで梶山さんの表情が変わる。

「だから、俺としては、こっちをお勧めしたい。基本ミリタリーもののフィギュア塗りなんだが、別にこういう風にアニメやゲームのフィギュア塗っても問題ないしな」

まぁ、確かにどう作るかは作る人しだいなのは、プラモデルのいいところではある。

「まずは、全体的に暗い色から塗り、乾いたら、次の明るい色って感じで塗っていくんだ」

「ええ。そうしてみたんだけど、うまくいかなくて」

梶山さんは少し考え込んだ後、聞いてくる。

「もしかして、筆にたっぷりと塗料のってないか?」

そう聞かれ、その時の筆先の状態を思い出す

「そう言われれば、そうかも……」

「なら、軽くティッシュで拭いて余分な塗料とか取ってから塗ってみればいいと思うぞ。ほら、金属肌を出したりする時に、シルバーとかをつけた筆をテッシュで何回か叩くだろう?あの要領だ。もっともやりすぎだと駄目だけどな。加減が大事だ。それで段々と明るい色にしていくんだ。それにだ、一般販売の肌の色だけだと味気ないからな。実際にいろいろ混ぜて肌だけでも何種類か用意して塗り分けていくといい。」

なるほど。

今日さっそく試してみるか。

「ありがとうございます。さっそく試してみたいと思います」

僕はそう言って、早速試す為に家に戻ることにした。

買うつもりで籠に入れていた塗料をカウンターにもって行く。

「つぐみさん。これ清算お願いします」

「はいっ。えっとですね……」

値段を告げられ、お金を払う。

そして袋にいれられた塗料を渡される。

「がんばってくださいね」

つぐみさんはそう言って僕の手をぎゅっと握る。

僕も軽く握り返す。

本当はキスでもしたいところだが、さすがに人前では出来ないし、また美紀ちゃんに駄目出しを食らってしまう。

だから、これで我慢だ我慢。

「ありがとう。また明日ね」

僕はそう言うと手を振ってお店を出たのだった。


梶山さんが、カウンターにやってくる。

「今度出るT社の新作の装甲車、まだ予約きく?」

「ええ。まだ大丈夫ですよ」

「なら、それを2つお願いしていいかい?」

「はい。わかりました」

私はそう返事をして予約帳に記入する。

そんな私を見ながら、梶山さんは思い出したかのように言う。

「そういや、あいつと付き合ってるんだって?」

その言葉に私は「ええ。まぁ……」と当たり障りのないように言う。

しかし、私は少し動揺している。

人の恋愛には興味のない梶山さんが聞いてきたのだ。

驚くと同時に、なぜ聞いてきたのか興味があった。

「どうして聞かれるんですか?」

まさかそう聞かれるとは思っていなかったのだろう。

「ああ、ごめんよ」

「いえ。怒ってるわけじゃないんです。ただ、普段は梶山さん、こういう話はほとんどしないから」

私がそう言うと梶山さんは苦笑した。

「いや、まぁ、本当なら他人の色恋なんてのはどうでもいいんだけどよ、ここは俺の行きつけのお気に入りの店だからな。その店に影響が出ないか心配してたんだけど……」

そう言いつつ、たまご飛行機のコーナーを見る。

どうやら、あのコーナーが出来たのは、彼の仕業だと知っているようだ。

「まぁ、いい影響が出てるみたいだからな。これからもあいつにはがんばって欲しいもんだ」

梶山さんはそう言うと、予約の代金を払って笑いながらお店を出て行った。

「ありがとうございました」

私はカウンターでそう声をかけて頭を下げた。

そして、店内に目を移す。

そして、うれしくなった。

彼のしたことが認められて。

お店の事を心配してもらって。

そして、星野模型店がお気に入りの場所だと言ってもらって。

だから、私もがんばらないと。

そう決心したのだった。

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