「それでは、皆さん、お疲れ様でした」
「「「「「おつかれさまでした」」」」」
南雲さんの声に、会員たちの声が重なる。
そして、解散する前に僕も前に出た。
もちろん、つぐみさんも一緒だ。
「解散の前に、一言いいてすか?」
そう言うと全員の視線が僕達に集まる。
「今回、初めての事であり、途中からの参加となってしまいどうなるかわかりませんでしたが、皆さんのご協力のおかけで何とかなりました。みなさん、本当にありがとうございました」
僕とつぐみさんは頭を下げる。
そして頭を上げたと同時に、南雲さんが封筒を手に持ってにやりと笑って言った。
「この後の打ち上げだが、星野模型店さんと有限会社佐藤さんから軍資金をいただいた。なんと合計で六万もあるぞ。みんな感謝するように」
その言葉に会員たちが一気に盛り上がる。
ちなみに有限会社佐藤っていうのは、佐藤さんの会社だ。
従業員6名の小さな会社だが、そのツテの広さは北は北海道、南は沖縄まで幅広い。
だから、欲しいものを頼めばある程度融通は利かせてくれる。
ひとしきり盛り上がった後、南雲さんは手を上げて鎮まるようにジェスチャーをする。
それにあわせて会場が静かになった。
全員が何が起こるのか、ワクワクしているのが感じられる。
実は僕もワクワクしているうちの一人だ。
何が飛び出すんだろう。
そう思っていたら……。
「今回、実は相乗効果で、展示会のチケットが2倍近く捌けた。そこでだ、俺としては次回もまた星野模型店さんや有限会社佐藤さんと一緒にやりたいと思うが、みんなはどうだろうか?」
まさか、そんな話をするとは聞いていなかった僕は慌てた。
今回は偶々訳あり品があってそれをどうにかしたいということがあったから参加しただけで、今回限りのつもりだったのだ。
それなのに、まさかこんな事になるとは。
困って何も言い出せない僕の代わりに声を上げたのは佐藤さんだった。
「うちとしては、探せば今回のような訳あり品を定期的に手に入れる事は可能です。それに訳あり品だけでなく、特価品と言う感じのものも提供できます。ですから、有限会社佐藤といたしましては、その提案に賛成いたします」
その言葉とともに会員が更に一斉に盛り上がった。
それはまるでコンサート会場のように。
その様子に満足そうな表情を見せた佐藤さんは僕の方を見てにやりと笑う。
それで気がついた。
これはプロレスなのだ。
多分、今回の売り上げに驚いた佐藤さんが、南雲さんに定期的にこういうのをやったらどうかと話をしたに違いない。
そして、南雲さんも今回のような相乗効果が望めるならもちろんとなったのだろう。
そして、企画を立ち上げた僕を何とかして巻き込みたくてこんな茶番をやったのだ。
いや、茶番と言うよりショーといったほうがいいだろうか。
会員を観客とした盛り上げて、盛り上げて僕を逃げられなくする為の。
しまったなぁ……。
悔しいと思う反面、うれしさが湧き上がってくる。
どうすればいいんだろう。
それでも僕は迷う。
しかし、すーっとつぐみさんの左手が僕の右手を握り締める。
それに驚いてつぐみさんの方を向くと、そこには笑顔があった。
そして頷く。
それだけだったが、それが踏み切れなかった僕を後押ししてくれた。
さっきつぐみさんが僕に言った言葉を思い出す。
「私の大好きな貴方なら、出来るに決まっているじゃありませんか」
この言葉は、僕の「ああいう光景を作り続けたい」という言葉から出た言葉だ。
僕なら出来る、彼女はそういった。
何が出来る?
家族が楽しく模型を楽しむ光景。
それは突き詰めれば、模型を通していろんな人に喜びや楽しみ、それにつながりを与える事だ。
そうだ。これは始まりなんだ。
みんなの視線が、僕に集まっているのがわかる。
大きく息を吐き、吸い込む。
そしてゆっくりと、はっきりと言った。
「皆さんがよろしければ、また次回も参加させていただきます。よろしくお願いいたします」
頭を深々と下げる。
それと同時に拍手喝采が沸き起こる。
そして、その大きさの分だけ責任がのしかかってくる。
しかし、負けてたまるか。
僕は頭を上げると視界に入るのは、会員達の笑顔。
傍にはうれしそうに拍手するつぐみさん。
それに、してやったりという顔の佐藤さんに、親指を立ててニヤリと笑う南雲さん。
今回は、完全に二人に負けた。
でもすごくうれしい負けだった。
そして、南雲さんが叫ぶ。
「それでは各自撤収作業を始める。さっさと終わらせるぞ。それと打ち上げの会場はいつものところだ。時間は19時スタートだ。各自遅れるなよ」
「「「「「「おーーっ」」」」」
全員の掛け声とともに、撤収作業が始まった。
各自慣れているのか、実にスムーズに進んでいる。
僕も星野模型店の分の撤収作業を行ったが、残っている商品は少なくてあっという間に終わってしまった。
「よし。これで終わったかな」
「そうですね。全部確認終わったと思います」
つぐみさんと荷物の確認をしていたら、後ろから声をかけられた。
南雲さんと佐藤さんだった。
「お前達も打ち上げは参加するんだろう?」
「ええ。荷物をお店に置いたら、一次会だけですけど参加させてもらいます」
「そうか。よかったよ。今回の大成功の立役者だからな、お前は」
「そうですよ。おかげでうちも儲けさせてもらいましたよ」
二人は上機嫌だ。
しかし、なんかその様子に少しぐらいは文句をいってもいいような気になった。
だから、苦笑して言う。
「二人してハメましたね?」
その僕の言葉に、佐藤さんが笑う。
「こんな美味しい話を一回だけで終わらせるのはもったいないですよ」
「そうだぞ。だから、二人でハメさせてもらったぞ」
笑いつつもそう言い返されて、僕はギブアップのジェスチャーをしつつ言葉を返す。
「まさにプロレス並みの鮮やかなショー仕立てに、反論できる雰囲気じゃありませんでしたからね。さすがというかなんというか」
「そうだろう。そうだろう」
そう言いつつ、うれしそうな南雲さん。
「それに……」
佐藤さんがそこで言葉を停めて、つぐみさんを見てニヤリと笑う。
そして、佐藤さんの視線を受けたつぐみさんも悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
なんだ?
どういうことだ?
「実は、つぐみさんも協力してくれましたからね」
その言葉が終わると同時に「ごめんなさいね」とかわいく謝るつぐみさん。
するってーと、知らないのは僕と会員のみってことか?
思いっきりため息を吐き出すと僕は呟くように言った。
「そりゃ、断るの無理だわ」
僕の言葉と同時に、僕以外の三人が笑い出し、それに釣られるかのように僕も笑っていたのだった。