間宮館に呼び出された僕は南雲さんの向かいの席に座る。
注文を済ませて、南雲さんの方を向いて聞いた。
「えっと、なんでしょう、用事って……」
その僕の言葉に、ニタリと笑うと聞き返す。
「こっちが聞きたいんだがな。また何か企んでるだろう?」
思わずドキリとしてしまう。
この人は何でいつもいきなりなんだろう。
まるで何もかも見透かしたように聞いてくる。
「何のことですか?」
「いやなぁ、最近のお前の製作してるやつとか、いろんな話を聞いてみてな。あと、それに俺の勘ってやつだ」
確かこの前同好会の製作報告会で出したのは、海外メーカーの『M社 造船シリーズユーボートタイプⅦ』だったはず。
海外メーカーのデフォルメモデルシリーズのやつだ。
それと周りの人の話からそれを察するとは。
本当にこういうことには鼻の利く人だ。
僕は降参のポーズをして苦笑する。
「南雲さんには敵いませんね。もう少し企画が煮詰まったらお話しするつもりだったんだすけどね」
そう言って、何枚かの紙をとめたものを出す。
「まだ企画段階で、佐藤さんとつぐみさん、それに悟さんだけしか知らないんですから漏らさないでくださいよ」
一応、大丈夫だとは思うが釘を刺しておく。
ざっとその紙を見て、南雲さんはニヤリと笑った。
「相変わらず面白い事考えるな。これ、もちろん、俺達も絡ませてくれるんだろう?」
「まぁ、参加人数にもよるんですけどね。一応、同好会の協力でお願いするつもりではありましたが……」
「しかしよ、何で使うキットはこの前出した海外のメーカーのものじゃないんだ?あれ、結構出来良さそうだったし……」
不思議そうに聞いてくる南雲さん。
「まぁ、最初はそれでもいいかなと思ったんですけどね。輸入品と言うのがネックになってまして……」
「輸入品がネック?」
「いや。こっちとしても軌道に乗ったら定期的にやりたいわけですよ。でも、輸入キットだと二つばかり問題があるんですよ」
僕の説明に興味津々な南雲さん。
「価格的なものと数量確保と言うことなんですよ」
それで納得したのだろう。
「ああ、確かに価格はネックだわなぁ。どうしても輸入物は高くなる傾向にあるからな」
「そういうことです。それに海外メーカーだと融通が利きにくくて数の確保や用意に時間がかかったりするんですよ」
「そういうことか。で、国内のこのF社のものを選んだってわけだ」
「それだけじゃないんですよ。このF社のキットの中にはニッパー付きのやつがあってですね。最初似参加する方にはそれを購入してもらって、二回目以降の参加者はニッパーなしのものを提供する事で参加費を下げようと思ってます」
納得した表情の南雲さんだが、気になることがあるのか伺うように僕に聞いてくる。
「なるほど、いいとは思うが肝心のキットの出来はどうなんだ?」
「ちょうどよかった。今日、つぐみさんたちに見せようと思って見本を作ってきたんですよ」
そう言ってバックから箱を出す。
その箱には
『F社 ちびまる艦隊 大和 ニッパー付き』
と商品名とかわいいデフォルメされた大和の絵が描かれている。
その中から、三つ取り出す。
二つは、商品。
もう一つは付属品のニッパーだ。
「こっちが、塗装しないでシールで組んだもの。こっちは塗装して組んだものです。あと、これは付属のニッパーで、実際にこれを使って今回作ってみました」
「ほほう。こいつか……」
じっと観察する南雲さん。
「一部、はめ込みの硬い部分はありましたが、接着しなくても作れますね。ただ、取れやすい部分はあるから、接着推奨でいこうと思います。流し込みの匂いのないやつがいいかなと」
「なるほど。こりゃいいな」
「後、これ用の追加エッチングパーツなんかも低価格で出してるんですよ」
驚いた顔で僕を見る南雲さん。
「意外と馬鹿に出来ないでしょう?」
「確かに。普段はこっち系のやつは注意してなかったからな。俺も一度作ってみるかな」
「ええ。一度、お試しください」
「あと、ニッパーはどうだった?」
その問いに苦笑する。
「まぁ、使う分には問題ないかと。ただ、慣れてきたりいくつか作るなら、ニッパーのいいのを買ってくださいとは言うつもりですけどね」
「そうだな。その方がいいな」
そう言いつつも、じっとキットを見ている南雲さん。
「帰りに買っていったらどうです?秋穂さんあたりは喜ぶんじゃないですか?」
「うむ。そうだな……」
どちらかというと上の空という感じの返事が返ってくる。
あ、こりゃ聞いてないな。
なんとなくそんな感じがしたのだった。
佐藤さんとつぐみさんの前で完成品を見せる。
もちろん、そのまま組んだものと塗装したものとだ。
「あ、かわいいですね」
「ほう、いいんじゃないですか?」
感触としてはいい感じだ。
「一応、今回は、このニッパー付きのキットと接着剤、ヤスリ一つをセットとして参加者に提供しょうと思う。参加費は二千八百円の予定だけど、どう?」
「うーん、二千五百円とか、区切りのいい金額にならないですかねぇ」
つぐみさんがそんなことを言う。
だから突っ込む事にした。
「つぐみさん、模型代だけじゃなくて場所代なんかもかかるから、これより下げるとうちの取り分ゼロどころか赤字になるよ」
そういった瞬間、「はうううっ」と変な声を上げるつぐみさん。
なんかかわいい。
ついでに佐藤さんにもけん制しておこう。
「まぁ、佐藤さんのところの仕入れ値をもっと安くしてくれたら、出来なくもないんですがねぇ」
その瞬間、慌てて首を横に振る佐藤さん。
「勘弁してくれよぉ。百個単位ならともかく、二十~三十じゃ無理だって」
「でしょうね」
「なら聞くなよ」
「いや、佐藤さんはそれを承知でやってくれるかなと」
そう言ってニタリと笑うと、苦笑する佐藤さん。
「それこそ勘弁してくれ」
「じゃあ、参加費は一応これでいいとして、次は宣伝なんですが。南雲さんの模型同好会の方でも色々やってくれるそうです」
「ほう、南雲さん、早速嗅ぎつけましたか」
佐藤さんがうれしそうな顔をする。
どうやらこの二人は気が合うらしく、結構会っているらしい。
というか、今回の企画を匂わせたのは佐藤さんのような気がする。
まぁ、南雲さん本人に話してしまったからもういいんだけどね。
「あ、あと、お店でも宣伝とチケット販売しますね」
つぐみさんが手を上げてそう言う。
「はいお願いします。さてと。後はなにかいい案ありますか?」
僕がそう言うと、佐藤さんは任せろという感じで話した。
「わたしにいい案がありますよ」
でもなんか不安になるのは気のせいだろうか。
前回の時も因縁深い新聞屋が来たしなぁ。
今回もそんなことにならないといいけど。
僕は、そんな事を思ってしまっていた。