「あれ?F社ってウォーターラインシリーズから撤退したんじゃなかったっけ?」
艦船のコーナーを見ていた僕はあることに気がついた。
ウォーターラインシリーズとは入っていなくても、1/700のサイズの洋上モデルがいくつもF社から出ている。
さらに値段をある程度あわせるためだろうか。
同形艦の駆逐艦二隻セットや同じ艦の二セット入り(年代による違い一緒に作って並べられるように)とかある。
またエッチングパーツ入りの豪華版も出てたりする。
僕の声につぐみさんがカウンターからこっちに来た。
「ええ、F社は撤退してますよ。でも、せっかく金型があるのに出さないのはもったいないじゃないですか。それに最近は、PT社も同スケールで洋上モデル出してますし。だからウオーターラインシリーズは、現在三社で展開してますけど、同スケールですから以前よりも色々種類がそろってて楽しいと思いますよ」
「確かに。ジオラマ作るためのアイテムとか、結構充実してるしなぁ」
そう言いつつ、ウォーターラインシリーズの横に並ぶアイテムを見ていく。
クレーンやタグボート、港に、工場……。
実に色々揃っている。
「なんか懐かしいなぁ」
「ふふっ。昔思い出しました?」
「あ、そういえばつぐみさんには昔、ウォーターラインシリーズ集めていたって言ってたっけ」
「ええ。最初にここで買っていってもらったのは、駆逐艦の吹雪です」
「そんなことまで覚えているんだ」
驚いてそう聞くと、当たり前のようにつぐみさんは言う。
「だって、あなたの事は誰よりも知りたいと思ってますから」
以前のように真っ赤になったりはしないがその言葉に少し照れる。
「ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして…」
「しかし、F社がウォーターラインシリーズ撤退したって言う事だけどさ、理由とか知ってる?」
僕がそう聞くと、待ってましたとばかりにつぐみさんが説明を始めた。
「まぁ、よく言われるのは、有名どころはT社やH社ばかりで、F社が担当する艦船がマイナーで売り上げに差が出たことって言われてますね」
「でも、それってどうやって出す艦船決めたんだい?」
「くじ引きって話なんですけど、F社のラインナップ見る限りは、あまりにもくじ運無さ過ぎですよね。もっとも、もう少し留まってがんばっていたら違ってきたかもしれませんけど……」
「それって、どういうこと?」
僕が聞くと、つぐみさんは雑誌を持ってきて見せる。
そこには某有名擬人化戦闘艦コレクションのゲームの絵があった。
「これですよ。これでウォーターラインシリーズは息を吹き返しました。特に、A社は他のメーカーの商品をグッズをつけて再パッケージすることで、このゲームシリーズの艦船を次々出すだけではなく、ゲームで有名になった補給艦とか超マイナーな艦とかをバンバン出してます。今、ウォーターラインシリーズで一番元気なのは、A社だと思いますよ」
「へぇ。通りでA社のモデルが多いと思った」
「もちろん、T社やH社も新作出してますけど、A社の挑戦的なラインナップに比べると、無難な艦船のリニューアルって感じがしてA社に比べると勢いが感じられない感じですね」
「なら、F社もしまったなと思ったんじゃないの?」
「そうでもないですよ。ウォーターラインと言う縛りがなくなったから、同スケールの洋上モデルで有名艦が出せますからね。それにエッジングパーツを出して、別売りと同封の豪華版といった感じで幅広いモデラーに対応して差別化を図ってます。あと、大きいのは、後発だからより出来のいい洋上モデルを展開できるってことじゃないかな」
「より出来のいいって?」
「ああ、T社やH社の有名艦は初期のモデルがほとんどなんですよ。だから、F社が今の技術で販売したら差別化も図れるし、なによりその艦の売り上げ奪えるじゃないですか」
「ああ、なるほどね。確かに新しいモデルの方が出来がいいのは普通だもんな」
「そういうことです。あと、船って年代で艤装が違ったりしますから、そういう細かいところも考えて展開しているみたいですよ。ちなみに、それはF社だけでなく、同スケールの洋上モデルに新規に参入したPT社もやってますね。新しい新規の金型だから、どうしても値段は高くなりますから、少しでも魅力的に見せるためにいろいろやってるんでしょうね」
「でもさ、ウォータラインシリーズの三社もやられっぱなしじゃないんだろう?」
僕がそう聞くと、棚の商品を指差しながらつぐみさんが説明する。
「そうですね。T社やH社は古いシリーズをリニューアルしたり、価格を抑えたりして対抗してますね。それに古いモデルに新しいパーツ追加してみたり……」
「ああ、前買った吹雪についていた追加パーツの事か」
「そうそう。あんな感じで、全部リニューアルは難しいし、やはり大型艦や有名艦からリニューアルしていく以上、マイナーな艦や駆逐艦などの小型船はそういう感じで対応していくしかないみたいですね。後は、A社みたいにブームに乗ってマイナーなやつを責めの姿勢でどんどんラインナップに入れるとか」
「いやぁ、ウォーターラインシリーズの話だけで、こんなに色々聞けるとは思わなかったな」
僕が笑いながらそう言うと、つぐみさんも笑って言った。
「何事にも歴史はあるもんですよ。平坦な何も無い歴史はありません」
「確かにその通りだね。何事にも歴史はある。その通りだ」
僕はそう言ってつぐみさんを見つめる。
つぐみさんも僕を見ている。
なんか周りの雰囲気が変だ。
なんかもう、この世界、二人だけって感じさえしてしまう。
そして自然と目と目が合い、そして僕が言う。
「僕らの歴史もいろいろなことがあったね」
僕がそう言うと、つぐみさんは微笑んで言う。
「あったじゃありませんよ」
「え?」
「今も進行形です。過去形じゃありません。いろんな歴史がこれからも続いていくねと言うことです」
思わず笑いが漏れる。
「そうだ。そうだったね。まだまだ先があるんだった」
僕がそう言うと、つぐみさんも笑う。
「もちろんです。でも、あれですね」
「あれ?」
「はいっ。いや、やっぱり日本語は難しいなぁと再度思っちゃいました」
そして、二人で笑いあう。
さっきまで周りにあった雰囲気が消し飛んでしまったが、それはそれでいいんじゃないかと思う。
だって、イチャイチャしてたらまた美紀ちゃんに怒られるかもしれないしね。
そう思いつつ、入口の外からじーっとこっちを見て様子を伺っている美紀ちゃんに手を振ったのだった。