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第113話 デートの後に…

「じゃあ、また、ね」

駐車場まで送ってもらい、私が車から降りると彼がそう言って手を振る。

少し照れくさかったが私も笑顔で手を振る。

しかし、なかなか車を動かそうとしない。

しばらく互いに手を振っていたが、ついに諦めたのだろう。

彼が手を振るのをやめると車から降りてきて一気に私の側まで駆け寄ってきた。

「えっと、夢じゃないよね?」

真剣な表情でそういう彼。

思わず私は笑ってしまいそうになったが、なんとか押さえ込み、左手の薬指に光る指輪を見せる。

「ふふっ。夢じゃないわ。その証がここにあるでしょ?」

「ああ。そうだね。そうだ。そうだよな。あはははは……」

彼がそう言って笑った後、いきなり抱きついてきた。

そして耳元で囁かれる。

「絶対に幸せにしてみせるから」

その言葉に私もうれしくなって抱き返しながら囁く。

「うん。互いに幸せになりましょう」

そう。互いに幸せにならないと意味はない。

片方だけ幸せなら、結婚する必要性だってない。

だから私はそう囁く。

その意味をわかったんだろう。

彼はぎゅっと私を少し強く抱きしめて「わかった。互いに幸せになろう」と言い直してくれる。

「うん」

私は短くそう言うと、彼の頬にキスをする。

「ふふふっ。気をつけて帰ってね」

「なんか帰りたくないんだけどなぁ」

まるで駄々っ子のように彼が言う。

私だって一緒にいたいと思うが、今日は彼は夜から外せない用事があると言っていたので、「用事があるんでしょう?」と言ってすーっと彼を押し返す。

「わかってはいるんだけどね」

そう言って、彼は名残惜しそうに私から離れた。

そして車に乗り込む。

「夜、またメールするから」

「うん。待ってるから」

「じゃあ、また明日」

「うん。また明日ね」

そして、諦めがついたのだろう。

彼は車を動かし帰途に着く。

そして、車が見えなくなるまで私は見送った。

彼の車が見えなくなって、私は何気なく薬指の新しい指輪を見る。

ふふふっ……。

ふふふふふふっ……。

ふふふふふふふふふふふふふっ……。

自然と笑みが漏れる。

いけない、いけない。

こんなところ美紀ちゃんに見られたら……。

そう思ってお店の方に向きを変えると、こっちをばっちり見ていた美紀ちゃんと視線が合っちゃいました。

私を見て、ニヤリと笑う美紀ちゃん。

カーッと顔が熱くなる私。

しまったーっ。

だけど、もう遅い。

私は開き直ってお店のドアを開けて中に入る。

「お・か・え・りぃぃぃっ、つぐねぇ」

小躍りしそうな上機嫌で美紀ちゃんが声をかけてくる。

「ただいまっ。お店はどうだった?」

何気ない風を装って別の話題を振る。

しかし、美紀ちゃんはそれが話題ずらしと気が付いたようで、ニヤニヤしつつ答える。

「いつも通りだよ~っ。しかし、今日はいつにもましてベタベタでしたなぁ……」

「そ、そうかなぁ。い、いつもと変わらないわよ」

「ほほう……。いつもあんなにベタベタなんですか?」

ニヤニヤした聞き返してくる美紀ちゃんに、私は慌てて手を振って否定する。

「あ、違うっ。違うのよ」

「ふむふむ。なら、いつもと違ったわけですな」

そう言いかけて途中で美紀ちゃんの口調が変わった。

「つぐねぇ、その指輪……もしかして……」

否定する時、慌てて手を振った時に気が付いたようだ。

隠しておく事ではないし、それにいつかし言わなければならない。

だから私は下を向いて口を開いた。

「えっとね、プロポーズされた……」

顔に一気に熱が集まるのがわかる。

多分、真っ赤だろう。

そして間一髪いれずに美紀ちゃんの喜びの声が当たりに響いた。

「おめでとうっ、つぐねぇ!やったじゃないっ!」

そう言って美紀ちゃんが私に抱きつく。

しかしふと気がついた事がある。

返事をどうしたか聞いてこないのだ。

それが気になって抱きついてきた美紀ちゃんを抱き返しながら聞く。

「どう返事したか聞かないの?」

そう言うと、私から離れてニタリと笑う。

「だってどう返事したかわかってるもん。つぐねぇ、彼にメロメロだもんねぇ」

「そんなにあからさまだったっけ?」

「うん。モロだったね」

私、美紀ちゃんにそんな風に見られるほど彼にラブラブしてたのだろうか。

普通に接していたつもりなんだけど。

まぁ、少しはそんな雰囲気出していたかもしれないけど、人前ではそんな事は……。

そう思いつつも、身に覚えのある事がなんかドンドン浮かんできた。

何やってたんだ、私。

少し自己嫌悪になりそうになったがなんとか踏みとどまる。

「そ、そうなんだ……」

「ねぇ、どんな感じでされたの?」

ワクワクした様子でプロポースのと気の事を聞いてくる美紀ちゃん。

多分、結構細かなところまで聞いてくるだろう。

そして、もしこのまま話している途中に、常連さんが来たらえらい事になるのが簡単に想像できてしまう。

それだけは避けたい。。

そう判断し、私はちょうどお店に入って来ようとするお客様の方に視線を向けて言う。

「もう。その話はご飯の時にね。ほらお客様っ」

「えーっ、もう……」

少し不満気味にそう言うものの、すぐに笑顔になってお客様に挨拶をする。

「いらっしゃいませっ」

よし、今のうちに。

私はさっさと店の奥の引っ込む事にしたのだった。

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