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第117話 食事会

結婚式が無事終わったとはいえ、それで終わりではない。

披露宴ではないが、その後、食事会を用意している為だ。

食事会の会場は、以前つぐみさんとの初めてのデートの際に行った『お食事処浅海』を一日貸し切りという形になった。

会場をどうしょうか迷っていたら、悟さんから大将が手伝いたいと申し出があったということを聞きここに決めた。

結婚式は、つぐみさんと相談して自分達で手作り感のある結婚式と披露宴を兼ねた食事会をしたかったから渡りに船であり、なによりプラモデルが展示してある店内は僕らにピッタリだと思ったからだ。

マイクロバスを何台か借りて、ゲストと一緒にお店に行く。

到着すると、すでに何台も車が止まっており、食事会だけに参加する方が僕らを待っていた。

なぜ、こういう形になっているのか。

実は、結婚式に参加したいという方が多かったのだ。

僕とつぐみさんが結婚式を準備していると聞き、模型同好会の人やお店の常連さんとかが、参加希望を申し込んできたのである。

だけど、結婚式を挙げる教会は、小さくて彼らまで入れなかった為、では披露宴を兼ねた食事会に参加という形になったのであった。

「すみません。お待たせしました」

僕とつぐみさんが最初に降りて頭を下げると、待っていた人たちは、笑って言う。

「何言ってやがる、俺らが頼み込んだんだ。そっちが頭を下げる必要はないぜ」

「そうだ。そうだ。俺らは、ただ二人を祝いたいだけだからな」

「ほんとそれだ。いいこと言うじゃねぇか」

「そういや、いい忘れてるぞ。結婚おめでとう」

「おっとそうだ、そうだった。おめでとう」

そんな感じで、その場に集まっていた人達から祝福を受ける。

本当にありがたい。

つぐみさんは涙ぐんでいた。

その反面、僕に対しての言葉はつぐみさんのに比べるとやっかみや妬みが少し入っていた。

「ぜってぇ、つぐみさん泣かせるなよ」

「そうだそうだっ」

「俺らのマドンナを射止めたんだからな。幸せにしろよっ」

いやはや、冗談っぽく言ってますが、本気度高そうです。

だから、僕は大きく頷く。

「絶対に幸せにしてます。つぐみさんが泣くようなことはしません」

その宣言に、わっと盛り上がる。

「よく言ったっ」

「その言葉に免じて許してやる」

「くそっ。見せつけやがって」

いやはや、アルコール入っていないのに、もう無茶苦茶盛り上がっている。

流石に見かねたのか、南雲さんが苦笑を浮かべて割って入る。

「おいおい。食事会始まる前から盛り上がるなよ」

そして、ニタリと笑って言葉を続けた。

「どうせなら、食事会でばーっと発散させちまえ」

その言葉に、後発参加組はおーっと掛け声を上げる。

なんかさ、もうすごいことになってやがる。

予想外の流れに、僕はもう笑うしかなかった。



そんな事があったものの、実に楽しく笑いの絶えない披露宴を兼ねた食事会が始まった。

結構な人がこの店の事を知らなかったのだろう。

きょろきょろしている人も多い。

そして運ばれてくる料理と飲み物。

実に美味しそうだ。

なお、参加者には事前に料理の希望と駄目な食材や料理を聞いている。

料理の希望は、三種類。

和風、洋風、中華である。

それぞれの名前の書かれているテーブルに注文したものが運ばれた後、司会の南雲さんから食事会の開催が告げられる。

そして、乾杯の音頭をとるのは、修と牧ちゃんだ。

二人が笑って音頭を取る。

「では、みなさんわかっていらっしゃるとは思いますが、星野模型店の看板娘の心を奪った幸せ者の光二とつぐみさんの結婚を祝って。そして、星野模型店の今後の発展を願ってっ」

「「「「かんぱーいっ」」」」

皆が楽し気にグラスを上げて当てると飲み物を飲み始め、それにつづいて湧き上がる拍手。

そして、しばし食事タイムとなる。

誰もが自分の料理を食べ始める。

「おっ、こりゃうまいぞ」

誰もが料理をまずは楽しむ。

中には、「いいなここ……」とか「また来ようかな」とか言っている者もいたりと、料理もかなり好評のようだった。

なるほど。

模型の展示のあるし、飯もうまいとなれば、間違いなくそっち系の人は通うようになるだろうし、この料理なら、模型に興味がない人も気に入るだろう。

反応からも、これは新規顧客開拓も期待できると言うものだ。

流石抜かりないと思ってしまう。

そう思って厨房の方に視線を向けると店長がニタリと笑って親指をぐっと立てていた。

いやはや、流石だ。

そしてある程度食事が過ぎると、南雲さんの進行で、食事会参加者のスピーチタイムが始まる。

一人当たりの時間はそれほど多くないものの、その分参加者は多い。

特に常連さんや模型同好会の人達はノリノリである。

いや、アルコールは出してないんですが、その場の雰囲気に酔ってしまっているのだろう。

スピーチに参加した人は、祝いの言葉と共につぐみさんやお店の思い出を話していく。

調子に乗りすぎて、南雲さんや梶山さんから駄目出し喰らって席に戻されたりとかもあったりして実に笑いが絶えない。

それだけでも、どれだけ星野模型店とつぐみさんがみんなに慕われているかがわかる。

もちろん、僕の友人だけでなく、元上司の課長も参加しており、僕の失敗談やおかしい話を楽しげに話していく。

特に修のやつはかなり張り切って話しており、しかし残念ながら時間切れで強制的に席に戻されていた。

「くそっ、なんでこんなに短いんだっ」

そんな事を叫んでいたが、それは仕方ないんだよね。

参加者多いから。

多分、前回の結婚式の時の遺恨返しのつもりだったらしいが甘いのである。

ニタリと笑ってやったら悔しそうにしていた。

なお、そんな僕と修の様子を牧ちゃんとつぐみさんは苦笑してみていたが。

そんな感じで時間は進んでいく。

実に楽しくて、充実した時間だった。

だが、どんなことでも終わりが来る。

そして、司会である南雲さんが宣言する。

「皆さん、お楽しみの所申し訳ありません。そろそろ時間のようです。それでは最後に、二人からの言葉を御願いします」

そう言われて、僕と嗣さんは立ち上がった。

全員の視線が僕とつぐみさんに集まる。

皆の視線を受けつつ、僕とつぐみさんは参加した人達の名前をそれぞれ言って、短くではあるが感謝とお礼の言葉を告げていく。

ここにきている人達は、僕とつぐみさんのよく知っている人達ばかりだ。

だから、原稿はなかったが、スルスルと言葉が出てくる。

そして、全員に言葉を送った後、僕はつぐみさんを見る。

つぐみさんも僕を見る。

そして二人で再度皆を見回して僕は口を開いた。

「今ここに僕らがいるのは皆さんのおかげです。そして、これからも色々とやっていくつもりです。もちろん、大変なこともあるでしょう」

そこで一旦言葉を切り、つぐみさんの方を見て彼女の手を握り締める。

「でも、つぐみさんや皆さんの手を借りつつ頑張っていきます。ですから、これからも、星野模型店と僕ら二人の事をよろしくお願いいたします」

深々と僕とつぐみさんは頭を下げる。

すると皆が温かい拍手を贈ってくれた。

本当にありがたい。

こうして、僕とつぐみさんの結婚式と披露宴を兼ねた食事会は、無事終了したのであった。

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