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第6話  目覚めしもの

 朝焼けの下、私たちはしばらく無言で歩いた。

神影山の遺跡は、後ろで静かに消え行くように、霧に包まれていった。


「……本当に、終わったんだな」

高峰が、小さくつぶやく。


「終わり、ではないさ」

教授が帽子を押さえながら言った。

「始まりだよ、これからが」


私は頷いた。未来を切り開くという選択──それは、失われた記録を手放すことでもあった。

もしかしたら、何かを失ったのかもしれない。それでも、前に進むと決めたのだ。



ふもとまで下りたとき、私たちは異変に気付いた。


町の空気が、どこか妙に張り詰めていた。

普段なら人通りのある駅前にも、人の気配がほとんどない。


「なんだ……?」

高峰が眉をひそめた。


スマートフォンを取り出すと、緊急速報が何件も届いていた。画面には、こんな文字が躍っていた。


【世界各地で異常気象、重力波観測。原因不明。】


「まさか──」

私は血の気が引いた。


教授も険しい顔になった。


「記録を破棄したことで、予期せぬ影響が現れたのかもしれん……!」


空を見上げると、東の空に奇妙な黒点が瞬いていた。

それは星ではなかった。何か、巨大な“目”のようなものが、空の向こうからこちらを見つめている気配だった。



私たちは急いで、大学の研究室に戻った。

すぐにデータベースにアクセスし、異変の原因を探ろうとしたが――そこでも問題が起きていた。


「見て!データの改ざんが……!」

高峰が叫んだ。


歴史の記録、地質データ、宇宙観測データ――すべてが、微妙に書き換わっていた。

私たちが知る“現実”とは、どこかズレた世界になっていたのだ。


「これが……新しい未来、か」


教授は苦く笑った。


だが、そのときだった。


研究室の入り口が、ノックもなく開いた。


現れたのは、一人の男。

全身黒いコートをまとい、冷たい銀色の目をした見知らぬ人物だった。


「ようやく会えたな」

低く響く声。


「君たちが、“選んだ者”か」


私たちは身構えた。

この男は、一体何者なのか? そして、彼の背後に広がる影は──。

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