朝焼けの下、私たちはしばらく無言で歩いた。
神影山の遺跡は、後ろで静かに消え行くように、霧に包まれていった。
「……本当に、終わったんだな」
高峰が、小さくつぶやく。
「終わり、ではないさ」
教授が帽子を押さえながら言った。
「始まりだよ、これからが」
私は頷いた。未来を切り開くという選択──それは、失われた記録を手放すことでもあった。
もしかしたら、何かを失ったのかもしれない。それでも、前に進むと決めたのだ。
ふもとまで下りたとき、私たちは異変に気付いた。
町の空気が、どこか妙に張り詰めていた。
普段なら人通りのある駅前にも、人の気配がほとんどない。
「なんだ……?」
高峰が眉をひそめた。
スマートフォンを取り出すと、緊急速報が何件も届いていた。画面には、こんな文字が躍っていた。
【世界各地で異常気象、重力波観測。原因不明。】
「まさか──」
私は血の気が引いた。
教授も険しい顔になった。
「記録を破棄したことで、予期せぬ影響が現れたのかもしれん……!」
空を見上げると、東の空に奇妙な黒点が瞬いていた。
それは星ではなかった。何か、巨大な“目”のようなものが、空の向こうからこちらを見つめている気配だった。
私たちは急いで、大学の研究室に戻った。
すぐにデータベースにアクセスし、異変の原因を探ろうとしたが――そこでも問題が起きていた。
「見て!データの改ざんが……!」
高峰が叫んだ。
歴史の記録、地質データ、宇宙観測データ――すべてが、微妙に書き換わっていた。
私たちが知る“現実”とは、どこかズレた世界になっていたのだ。
「これが……新しい未来、か」
教授は苦く笑った。
だが、そのときだった。
研究室の入り口が、ノックもなく開いた。
現れたのは、一人の男。
全身黒いコートをまとい、冷たい銀色の目をした見知らぬ人物だった。
「ようやく会えたな」
低く響く声。
「君たちが、“選んだ者”か」
私たちは身構えた。
この男は、一体何者なのか? そして、彼の背後に広がる影は──。