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第5話  分岐点

 私たちの前に現れた“三つの選択”。

その意味を深く考える間もなく、遺跡全体が微かに脈動し始めた。まるで、私たちがどの道を選ぶのかを、古代の何かが見守っているかのようだった。


「時間がないのかもしれない」

高峰が周囲を見回しながらつぶやく。


「焦るな。選択を誤れば、取り返しのつかないことになる」

教授は低い声で言い、私たちを制した。


私は石板に刻まれた文字をもう一度見つめた。


記録を従い、世界を守る。

記録を破棄し、未来を切り開く。

過去へ干渉し、未来を変える。


(どうすればいい?)


心の奥底で、問いかける。しかし答えは簡単には出なかった。


「君にしかできない」

教授が、静かに言った。

「この選択は、私たちがどう助言しようと、最終的には君の意思に委ねられる。なぜなら──君こそが、この暗号を解き明かした者だからだ」


私は、拳をぎゅっと握りしめた。

(選ぶしかない。あの五分後を乗り越えたときのように)





私は、台座に手をかざした。


その瞬間、目の前に三つの道が幻のように浮かび上がった。


一つ目の道には、今の世界が続く穏やかな光景が。

二つ目の道には、荒れ果てた、しかし新たな文明が芽吹きつつある世界が。

三つ目の道には、過去が変わり、知らない未来が広がる恐ろしい景色が映っていた。


「……私は──」


小さな声が洞窟にこだました。




「未来を切り開く」


私は、記録を破棄する道を選んだ。

過去に縛られず、自ら未来をつくり出す選択。


台座が青白く輝き、洞窟全体が震えた。

壁に浮かんでいた記録たちが、次々と崩れ、消えていく。


「……本当に、いいんだな?」

教授の声が震えていた。


「はい。過去の文明が残した警告に従うだけじゃ、前には進めない。今を生きる私たちが、責任を持って未来を作らなきゃいけないと思うから」


高峰が、ぐっと拳を握りしめた。


「私も賛成だよ。未来は、誰かに決められるものじゃない」




洞窟の奥から、一筋の光が差し込んだ。


まるで、私たちの選択を祝福するかのように。


私たちは、深い息を吐き、光の中へと歩き出した。

背後で、静かに遺跡の扉が閉ざされる音がした。


もう、戻ることはない。

だが、後悔はなかった。




外に出ると、夜明けの空が広がっていた。

濃紺から薄明へと変わりゆく空の下で、私は確かに感じていた。


(未来は、ここから始まる)


教授も、高峰も、笑顔を浮かべていた。


「これで、また新たな歴史が刻まれるな」

教授がぽつりとつぶやいた。


私は静かに頷き、朝焼けに向かって一歩踏み出した。



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