私たちの前に現れた“三つの選択”。
その意味を深く考える間もなく、遺跡全体が微かに脈動し始めた。まるで、私たちがどの道を選ぶのかを、古代の何かが見守っているかのようだった。
「時間がないのかもしれない」
高峰が周囲を見回しながらつぶやく。
「焦るな。選択を誤れば、取り返しのつかないことになる」
教授は低い声で言い、私たちを制した。
私は石板に刻まれた文字をもう一度見つめた。
記録を従い、世界を守る。
記録を破棄し、未来を切り開く。
過去へ干渉し、未来を変える。
(どうすればいい?)
心の奥底で、問いかける。しかし答えは簡単には出なかった。
「君にしかできない」
教授が、静かに言った。
「この選択は、私たちがどう助言しようと、最終的には君の意思に委ねられる。なぜなら──君こそが、この暗号を解き明かした者だからだ」
私は、拳をぎゅっと握りしめた。
(選ぶしかない。あの五分後を乗り越えたときのように)
私は、台座に手をかざした。
その瞬間、目の前に三つの道が幻のように浮かび上がった。
一つ目の道には、今の世界が続く穏やかな光景が。
二つ目の道には、荒れ果てた、しかし新たな文明が芽吹きつつある世界が。
三つ目の道には、過去が変わり、知らない未来が広がる恐ろしい景色が映っていた。
「……私は──」
小さな声が洞窟にこだました。
「未来を切り開く」
私は、記録を破棄する道を選んだ。
過去に縛られず、自ら未来をつくり出す選択。
台座が青白く輝き、洞窟全体が震えた。
壁に浮かんでいた記録たちが、次々と崩れ、消えていく。
「……本当に、いいんだな?」
教授の声が震えていた。
「はい。過去の文明が残した警告に従うだけじゃ、前には進めない。今を生きる私たちが、責任を持って未来を作らなきゃいけないと思うから」
高峰が、ぐっと拳を握りしめた。
「私も賛成だよ。未来は、誰かに決められるものじゃない」
洞窟の奥から、一筋の光が差し込んだ。
まるで、私たちの選択を祝福するかのように。
私たちは、深い息を吐き、光の中へと歩き出した。
背後で、静かに遺跡の扉が閉ざされる音がした。
もう、戻ることはない。
だが、後悔はなかった。
外に出ると、夜明けの空が広がっていた。
濃紺から薄明へと変わりゆく空の下で、私は確かに感じていた。
(未来は、ここから始まる)
教授も、高峰も、笑顔を浮かべていた。
「これで、また新たな歴史が刻まれるな」
教授がぽつりとつぶやいた。
私は静かに頷き、朝焼けに向かって一歩踏み出した。