「ベル、援護は任せたで。」
そう言うと、金髪のお兄さんは、足音を立て、人混みの隙間を縫う様にして、恐竜に向かって走って行った。
「死なないで下さいよねぇ。」
そう言うと、ベルさんは、耳につけた鈴を鳴らした。
チリーン
すると、周りでパニックの様になっていた人々が急に静かになり、スッと恐竜から離れる様に動いていった。
「えっ、凄っ」
驚きで声が出ない。
「これが私の力、『鈴の音』音を聞いた物や人を短い時間だけだけど、操る事が出来るの。」
ベルの能力、鈴の音 自分が鳴らした鈴の音を聞かせた相手を少しの間(約30秒程)、操る事が出来る。動く物であれば、問題は無い。
そんな事を言っている間にも、恐竜は暴れ、街を破壊して行く。
「そして、炎さんの力は…」
ビルが崩れ、2人に破片が降り掛かってくる。
「危っぶな。死ぬとこやったで。」
炎さんが四肢に炎を纏って、空を歩く。そして、2人に掛かりそうだった瓦礫を弾き飛ばす。
「後輩に怖い思いさせた代償は、デカいで。吹っ飛べや、
炎が弾ける様に跳び、恐竜を吹き飛ばす。
「よっし、時間も間に合ったな。二人とも、帰るで。」炎は炎の勢いを少しずつ弱め、地面に降り立つ。
炎の能力、炎 見たら分かるが、炎を操る事が出来る。また、工夫次第で、物体として持つことも出来る。
「それよりも、これどうするんですか?」
佳は目の前の物体を指さす。そこには、黒焦げになった恐竜があった。
「うわっ、しまった。まぁ、アイツなら何とかしてくれるだろ。」
面倒くさそうな顔をして、頭を掻く。
「後始末のプロがいるんですね。」
白い服の掃除屋を思い浮かべる。
炎さんは手をヒラヒラと横に振って答える。
「あ、そりゃ普通はそう思うか。まぁ見てのお楽しみや。」
そう言うと、大きな扉が現れた。
「炎、ベル、只今メシと共に戻りましたぁ。」
「お疲れ」「ごくろーさん」「今度は何をやらかしたんだ」
様々な声が聞こえる。みんな2人の帰還を喜んでいるのだ。 多分
「なんですかぁ?これ。」
エプロンをつけたメガネの男の人が質問する。
「いいやろ、恐竜の新鮮な肉や。」
無理やり3人で扉から押し込んだ恐竜がそこにはあった。
「黒焦げの肉を新鮮とは言いませんよ。」
炎に突っ込む。
「せやなあ、アッハッハ。」
どうやらこの2人は仲が良いらしい。
「あのぅ、炎さん、この人は?」
おずおずと手を上げ、炎に質問する。
「あぁ、紹介するで、こっちは新入りの…何やったっけ。「佳です。」せや、ケイや。」
炎さんが、僕を近くに引き寄せて答える。
「こんにちは、ケイさん。僕は料理担当のナベです。よろしくお願いします。」
そう言うと、ナベさんは、僕の右手を取り握手してきた。
「所でケイ君は、料理ってするの?」
「まぁ、そんなに上手くないですけど。」
本当である。卵焼きくらいしか作りきれない。
「マジで、じゃあ今度料理一緒に作ろうよ。」
突然目を輝かせながら誘って来る。
すると、ベルさんは、ナベさんの首根っこを掴んで、子猫の様に持ち上げる。
「コラ、そんなに急に誘わないの。ごめんね、この子ものすんごい料理オタクなんだよね。」
「あ、いえいえ、僕も料理出来るようになりたいので。」
本当の姉弟みたいだなぁ。この2人は。
「ほら、ナベ、今から料理すんでしょ。」
ベルさんがナベさんを床に放り投げる。
「そうだった そうだった。さて、色々作ってみますか。」
「ジャ、俺も手伝うで。」
ぐへぐへと言いながら、目をらんらんとさせ、竜を丸ごと引き摺るナベさんに、炎さんがついて行く。
所で、ベルさんに気になった事を聞いてみる。
「そういえば、ベルさんとか、炎さん、ナベさんもですけど、本名なんですか?」
少し悩む様な仕草をして、ベルさんが答える。
「う〜ん、実は、この組織って、実はある理由で基本的には、コードネームで動くんだよねぇ。」
「その理由って?」
「この組織が、世界の均衡を保つための組織だって話はしたっけ?」
佳は、上の方をぼんやりとさっきまでの事を思い出す。
「何かヒーローみたいなものと言ってたのは聞きましたけど…」
「そうそう、実際そんなもんなんだけど、まず、世の中には、色々な種類の世界があって、」
そこら辺にあった紙にいくつかの丸を書く。
「そこには、ギャグの世界とか、ラブコメの世界とかがあるんだよね。」
丸の中に、可愛いキャラクターを書く。
「でもさ、ミステリーの世界に、急にゾンビが大量発生したら、どうなると思う?」
佳の方を向いて、ベルさんが問いかける。
「そりゃ、世界観が崩れちゃうじゃないですか。」
ベルさんが指を鳴らす。
「そう!そして、それを守るのが、私達の役目って訳。でも、あくまで私達は、その世界の中心たる、メインキャラにバレない様に事を進めなきゃならないの。」
佳は答える。
「そこで、偽名を使ってるってことですか。」
「そうそう、しっかし君、ほんとに頭良いな。羨ましいくらいだよ。所で、料理オタク達は大丈夫かな。」
「出来ましたよ〜。ドラゴンの卵のスクランブルエッグと、シチューです。」
2人がお盆に皿を乗せて、戻って来た。
そこには、さっきまで街を破壊しまくっていた竜で作ったとは到底思えない、美味しそうな料理が並んでいた。「「「いただきます。」」」
みんなの挨拶の声が揃う。
「そういえば、佳さんに、設備の案内ってしないでいいんですか。」
「せやな。ケイ、食べ終わったら、ここの案内したるわ。」
炎さんが、料理にがっつきながら言う。
「はひ、ははひはひた。」
佳は、余りの美味しさに、ほっぺたが伸びて、ハムスターみたいなことになっている。
「アハハハ、詰まらせないで下さいね。」
モブ達は、今日も元気である。