目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 巨大怪獣は聞いてねぇ


「な、なんですか、あれ。」

佳は、人生で見たことがないくらいの大きさのゾンビを見て、震え上がる。

「皆さんは離れていて下さい。ここは私達で何とかします。」

朱雀に乗った影は、後ろの方を見ながら、佳たちに命令する。言い終わるやいなや、朱雀は大きく羽ばたき、火の粉を桜の様に散らせながら、とてつもないくらいの速さで先に向かった炎の方に向かう。



「おいおいどうなってやがる。こんなの書類に書かれてねえぞ。」

呆れたような声で炎はつぶやく。

異常事態イレギュラーくらい、いくらでも湧いてきますよ。いい加減諦めて下さい。」

そこに、遅れて影がやってくる。

すると、ゾンビが、ゆっくりと顔を2人の方に向ける。その口の近くに、禍々しい光が集まって来る。


避けないと、死ぬ


彼らは分かっていた。コイツを野放しにすると、世界が崩壊する《消える》と。

間一髪の所で放たれた光線をかわし、ゾンビと向かい合う。

「影、さすがに今回は本気出すぞ。」

「書類もこのくらい緊張感あればあっという間に終わるんでしょうね。」

軽口を叩きつつも、2人の額には汗が流れていた。


どうするんだ、コイツ 近付こうにも、あんなに長い腕があったら、当たった瞬間、即アウトだぞ。


しかも、遠距離から攻撃を当てようにも、あの火力のビームなんて防ぎようが無いぞ。


どうするんだ、考えろ、考えろ、考えろっっ。








あれなら、  いける!


「「おい、影(炎)!」」

2人は互いの顔を見て、ニヤリと笑う。


やっぱ、考える事は一緒だな。


2人は通信機の電源をつける。

「ベル、こっちに来てくれ。」

ノイズの後に、声が聞こえる。

『え、私ですか。』

困惑した声が聞こえる。

「良いから、早く。そっちに八咫烏向かわせてる。」

そう言うと、影は足が3本ある烏、八咫烏を呼び出し、丘の方に全速力で飛ばした。



「ベルさん、どうしたんですか?」

驚いた様な顔をしたベルを見て、佳は心配そうに尋ねる。

「佳、これ頼んだ。」

持っていた双眼鏡を首から外し、佳に押しつけるようにして渡す。

「待ってください。一体何があったんですか。」

何も説明がないので、太郎も思わず肩に手を乗せる。

「2人が呼んでる。それ以上に理由が要るかよ。」

そうしてクシャッと笑った後、姿勢を正して飛んできた八咫烏の足につかまる。


「大丈夫!帰って来るよ。3人でな。」

そう言う彼女の後ろ姿は、かっこよく見えた。



「クソっ、やっぱ暴れるから当てづらいな。」

一方、炎と影は、巨大ゾンビの攻撃を躱しながら、地道に攻撃を当て続けていた。


バサッ


希望の羽音が聞こえる。

「ごめん、遅れた。」

そう言うと、建物の屋根に飛び降り、ゾンビを見上げる。

「おう、大丈夫や。むしろ早いくらいやな。」

ベルが来たのを確認して、両手からだした炎を繋げ、棒の様な物を作る。

「チャンスは実質一回です。いきますよ。」

影が掛け声を出す。

「3」

3人がゾンビに近づき、ベルが耳に手を当て、鈴を鳴らす。

「2」

炎が棒を振り、先端から炎の刃を出す。

「1」

影は朱雀に指示して、動けなくなったゾンビを炎の壁で覆った。

「0!」

炎が建物の屋根に乗り、地面が揺らぐほどの勢いで思いっきり飛び上がり、鎌を振り下ろす。

グギャァァァ

断末魔を上げ、頭を切りつけられたゾンビは燃えながら倒れる。

「「「や、やったぁー!!!!!!!勝ったぁ~」」」

3人は地面にへたり込む。

ノイズが聞こえる。

『皆さん、う、上をみてください。』

佳が怯えた様な声を出す。

フードを被った人物が浮いていた。


チリーン



『あ、さっきの猫…だけど、顔が 無い。』

通信機の向こうからも声が聞こえる。

フードの人物が手招きすると、猫は宙に浮き、熱気球の様に飛んでいって、肩に乗った。

次の瞬間、彼は消えた。




「良がっだ。無事でじだがぁ~」

3人が帰ってきて、心配していた佳たちは泣き出す。

「大丈夫だって言ったろ、心配すんなよ。」

なだめなから、炎は、さっきの人物の事を考えていた。


どっかで見た気が…





ベルがふり返る。

「2人とも、ありがとう。所で、うちに来ない?」

太郎は首を横に振る。

「いや、良いよ。俺はこの街を元通りに、人が住める様にしなきゃだし。」

三太も首を振る。

「いや、遠慮しとくよ。確かに、お前さん達と居るのは楽しかったぜ。でも、お前さん達と一緒に居ると、お前さん達に頼り切りになっちまいそうでな。」

別に居心地が悪かったわけでは無い事を示す様に、手も振る。

「そっか、じゃあ、ここでお別れだね。」

佳が寂しそうに言う。

突然、2人が背中を叩く。

「な~に言ってんだよ。またいつか会えるさ。」

「大丈夫ですよ。佳さんなら、上手くやれます。」

2人なりに、佳の事を心配していた様だ。


「佳、行くぞ。」

炎さんが、丘の麓から手を振る。

「そろそろ時間ですよ。」

ベルさんも、口に手を当て声を張り上げる。

「そういや、コイツの報告書の手伝いあるんだった。いやだなあ。」

影さんは、この後の事務仕事を考えてトボトボと歩いていた。

「今行きます!」

僕のモブ《ヒーロー》としての仕事は始まったばかりだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?