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第8話 思い出

「終わんねえよお。」

炎の声が部屋に響く。

「いいからさっさと手を動かしなさい。こんなにあるとはこっちも聞いて無いんですよ。」

影も指で机を叩き、全て諦めた様な顔をしている。

「しかし、あのゾンビ騒ぎは何だったんですかね。」

ベルも鈴を布切れで磨きながら呟く。 

あの後、依頼の書類をいくら探しても、どこにも無かったのだ。

「皆さん、差し入れ持ってきました。」

佳が息を切らしながら、前が見えないほどの何かを持って来た。

「ナベさんが、『これあの人達に持って行ってやって。』とのことです。」

お菓子の山から覗く様にして3人に話しかける。

「やった。糖分が来た。」

そう言い、手を伸ばした炎の手の甲を影がつまむ。

「アンタほぼ何もやってないでしょ。書類1枚作るごとに1枚くらいじゃねぇと割に合わないと思いませんかね。」青筋を立てながら、なるべく穏やかになるように話す。

同じくらいの大きさの書類とお菓子の山を見比べながら、そそくさと書類を書き始める。

「僕もやった方がいいですかね。」

申し訳なさそうに書類の山を見上げる。

「「いや、コイツが百パーセント悪いから、せんでいい。」」

2人の声が重なる。

「そこまで言う必要あるかぁ?」

半泣きになりながら書類をさばく炎が、美味そうに菓子を頬張る3人を恨めしそうに睨む。



「や、やっと終わった。」

数時間後、3人も手伝いつつ、書類の山を崩す事ができた。


「ところで、あの書類って、どのくらいほっといた結果なんですか?」

素朴な疑問だった様で、炎に聞いている。

「えっと、えっと、……どんくらいだ?」

あまりに間抜けな回答に、3人はずっこける。

「アンタ覚えてないって、どんくらい放置してたのよ。」

ベルが白い目を向けても、炎は意に介さない様な笑いを浮かべる。

「えっと、入ってから最初の方の任務もあったから、少なくとも… ピー くらいかなあ。」

メガネを直した後、指を折り、上の方を見ながら、影は期間を数える。

「え、 ピー ですか?」

「うん、大体 ピー くらいだな。」

「「嘘だろ(でしょ)」」

余りの期間に、2人の目が点になる。 

「いや、そんな事ねえだろ。」

「いや、だってあん時の任務がありましたよ。」

2人がやいやいと言い合いを始める。

「そ、そう言えば、お二人って、最初の頃はどんなだったんですか。」

少し空気も悪くなったので、佳は気になっていた事を質問する。

「「そうだなあ(ですねぇ)…」」








.........................................................................................


「なんじゃこりゃあ。」

屋根に映る美しい模様、巨大な机、大きな像、

それは、若き日の炎を驚かせるには十分だった。

「凄いですよねえ、これ。」

目をキラキラさせる炎の横で、少し早くやって来ていた若き日の影は喜びの表情を見せる。

「おっと、通しておくれよ。」

横を、沢山の本を入れた段ボールを持った人物が通り抜ける。

「今度は何だったんだい。」「いや、動く本がサスペンスなのに、道をジタバタしてたもんだから、さすがにこれはヤバいだろと。」

暴れる本を押さえつけるために、段ボールに封をする。

影は、そんな風景を見ながら、頼まれた任務の書類を炎に見せた。

「これが、僕達の最初の任務らしいです。」

眉をひそめながら、炎は首を傾げる。

「いや、話は聞いてるけど、これどういうことなん。」

「さあ、僕もよく分かって無いんですよね。」

2人で薄っぺらい紙とにらめっこする。

「どうしたの?」

後ろから覗き込む様にして、フードをかぶった人物が現れる。

「「あ、先輩。」」

見上げながら、2人同時に答える。


「ああ、それなら、私も一緒だねぇ。」

場所を移し、2人から任務の事について相談を受けてから、答える。

「あと、あいつもだったか、てかどこ居るんだあいつ。」何か思い出した様な顔をして、ブツブツと呟く。

「zzz」寝袋が宙を舞いながら、道を移動して来る。

「おい、こっちだ馬鹿者。」寝袋の端をつまみ、地面に引きずり下ろす。

「ナニコレぇ」

炎は思わず突っ込む。

「どうしたんだよう、衣」

寝袋から引きずり出され、目を擦りながらぼーっとした様子で答える。

「どうしてもこうしたもねえよ。てめえどこに居たんだ。探したんだぞ。」

ほっぺたをつねりながら、心配した様子で怒っている。

「ひはは、へほふひははへへふ(いやぁ、寝坊しただけです。)」

頭を掻きながら、えへへと笑う。


すごい人がいるんだなあ。

2人は、奇しくも同じ感想を抱いていた。


「全く、後輩に見せる顔もねえよ。」

座り込み、顔を手で覆った。 

「大丈夫!どうにかなるよ。」

衣の肩を叩き、ガッツポーズをする。

「元はといえば、てめえのせいじゃねえか、雲。」

そう言うと、2人は喧嘩を始める。


ギャアギャア


「炎さん、これって、」

「影、やっぱそうだよな。」

2人は顔を見合わせる。

「「なんかめっちゃ泥仕合何だが。」」

取っ組み合いをしているが、雲と衣はゼイゼイ言いながら、ふらふらとして居る。

「だ か ら、お前が早く来ればいい話だろ。」

「いいや、場所を急に変えた衣が悪いだろ。」

2人は次第に口論に切り替わっていく。

「あのぅ、任務の説明を…」

まだ何も説明を受けていない炎は、2人の間にびくびくしながら入る。

「「そうだった、こんな事してる場合じゃねえか。」」

2人ともお互いの手を放す。

「良し、今から、任務の時のルールを説明するぞ。」椅子に座って、足を組み、紙に目を通す。

「ひとつ、世界の主人公にバレない様にする事。」

人差し指を立てる。

「世界には、その世界の中心にあたる主人公が居るんだが、そいつの動き次第では、世界が崩壊しかねない。だから、そいつ含め、その近くの奴らにはあまり近づかないのがセオリーだな。」

中指も立てて、2のマークを作る。

「ふたつ、なるべく、能力はなるべく使わない事。」

手を左右にヒラヒラさせる。

「万一、怪しまれて、捕まりかけたりしたら、任務に支障が出るので、もちろん、必要時以外では能力は使わない事。」

薬指も上げ、3のマークを作る。

「最後に、本名を名乗らない事。」

手をぱっと広げる。

「これはあまり無い事何だが、もし、世界が崩壊ししそうになった時に、誰かが名前を知っていた場合、その世界の人間と見なされて、世界もろとも、。」親指を立て、首を切るジェスチャーをする。

炎と影は顔を真っ青にして、手を取り合う。

「「アバババ…」」

少しやり過ぎたかと思い、雲は満面の笑みで言う。

「まぁ、大丈夫だよ。そんな事になる案件なんてほぼ無いよ。僕も観たことないし。」衣の頭を軽く叩く。「脅し過ぎだよ。」「でも、マニュアルには書いてるだろ。」

2人は炎と影の方を向き、それぞれ手を取る。

「「(まあ、)ようこそ、2人とも。ヨロシクゥ(頼むよ。)」


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「「こんな感じだった(か)なあ。」」

2人とも昔の事を思い出し、いつの間にか出てきたお茶を飲んでいる。

「「色々ツッコミどころだらけなんですけど!!」」

今との余りの違い様に、2人は思わず突っ込む。

「なんですか、あの純粋な瞳の少年は。ほんとにこのダメ人間なんですか。」

炎に言葉がグサグサと刺さる。

「そ、そこまで言わないで良いやろ。」

口から血を吐きながら、答える。

「そうですよ、コイツは前からダメ人間です。」

炎は椅子からひっくり返る。

「酷えな、おい。」震えながら、机に手を乗せる。

「あははは…」

佳はどういうことも出来ず、ただ苦笑いして居る。

「さて、さっさと終わらせますかね。」

影は頭の上で腕を組み、ストレッチする。



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