「で? これって、何なん? しかも、島の名前が分からないっていう――」
パク・ソユンが聞く。
「何か、韓国内外のエンタメ界やセレブ、インフルエンサーたちに、同じような招待状が届いているみたいよ」
女が答えるも、
「いや、それは分かったけど、この、Xパラダイスって何なん? そこで、何すんの?」
「さあ? パーティとか、じゃないんじゃない? それに、カジノもあるし。ソウ、ポーカーやってるから、ちょうどいいじゃないか」
「はぁ、」
と、求める答えを返してこない二人に、パク・ソユンは、気の抜けた相槌をするより他なかった。
――といった感じで、今に至る。
場面は、再び屋台に戻って、
「そんな感じな、わけよ。ほんと、肝心の、島の名前が出てこないのがイミフなんだけど」
パク・ソユンが言い、
「島の名前が、出てこない、か……」
と、その言葉を聞いて、カン・ロウンもどこか引っかかる。
「まあ、いいんじゃんねぇか。行くのは、どうせこいつらだしな」
とは、キム・テヤンが貝を焼きながら、嫌味っぽく言う。
そのまま続けて、
「――で? 一緒にいくというのが、よりによって、“こいつ”かよ? ソユン」
「こいつかよって、失礼だな、テヤン」
と、改めて指を指され、ドン・ヨンファも、さすがにムスッとした表情を見せる。
そして、そのドン・ヨンファが、貝をつまみに焼酎を飲みながら振り返る内容は、次のようになるーー
(3)
ここで、またまた時間軸は、今日の昼のことに戻す。
黄色の奇抜スーツでビジネス中の、ドン・ヨンファのこと。
まあ、実業家だが、そもそも資産家で、さらに中堅とはいえ財閥だった。
なので、本来、せかせか仕事をする必要はない。
ただ、『仕事とは人生の暇つぶし』とは誰か高貴な労働貴族が言ったものか? このドン・ヨンファもその例に漏れなかった。
何もしなくては退屈なので、ビジネスでもやっているというところだろう。
そんな、有閑的な生活ーー
そうして、訪れた先も、ある医療ビジネスを扱っている友人のところだった。
日本の、侘びさび感を残しつつ、オールド朝鮮様の要素を折衷した和室。
コーヒーの香りが漂う中、
「トランス、ヒューマニズム……だって?」
と、ドン・ヨンファが、友人から発せられた言葉に、そう聞き返した。
目の前には、黒ぶちメガネに昭和風の黒髪。
それから螺旋文様の入った浴衣を着て、コーヒーカップを手にした男の姿があった。
そんな、風変わりな友人が続けて、
「ああ。どこかで、聞いたことあるだろ? 身体の一部、もしくはほとんどをマシンだったり、あるいは、もっと高度に作られるものに置き換えたりして、あらゆる自然の制約から抜け出そうとする、思想というべきかな。まあ、ヨンファたちのような、すでにサイボーグ的な異能力を使える人間には、あまり関係ないかもしれないが」
「そんな、過大評価してくれるなよ、カジ」
と、ドン・ヨンファも同じくコーヒーカップを手にしながら、謙遜して言う。
カジとは、日本に所縁(ゆかり)があるこの友人のニックネームだった。
また、ドン・ヨンファはコーヒーカップを手にしたまま続けて、
「まあ、確かに、どこかで聞いたこともあるな。で? カジが扱っているとこが、そういう研究をしているわけか?」
「実用化には、少し遠いけどな。ちなみに、件の核酸医薬の技術も、もしかするとそのような発想で研究されているのかもしれないな。まあ、陰謀論的だけど――」
「陰謀論、ねぇ……」
ドン・ヨンファが、手垢もついていながらも、一般に使われるようになって久しい単語を口にしながら、天井を仰ぐ。
そのドン・ヨンファに、友人が、
「まあ、陰謀論自体は、本来バックボーンとなる思想や事実はあるみたいだし、そうしたものを扱っていた方々が、自制心を以ってやっていたわけだが……、今のネット民はどうしようもない。『ネットで真実ガー』とか、『目覚めたー』とか言ったり、真偽の怪しいものにパクっと喰いついてばかりいるから、陰謀論とバカにされるわけだ。……ただ、その陰謀論をバカにする側も、情報の複雑な事情や細かいところ吟味することなく、『ホンそれ~』と脊髄反射で反応しているんだがね」
「まあ、両者ともに、出てきた情報を真に受けすぎなんだよ。陰謀論者は、政府や財閥、権力者側の闇を暴くような情報というのは、常に、すべて善意に基づいた真(しん)であるとするし……、反対に、反陰謀論者は、政府や機関、企業の発信する情報というのは、常に理性と善意に基づいた公正なものであり、そこに嘘はない、と……。両者ともさ、昔から性悪説って言葉があるってことを、もう少し考えようよ、とは思うね」
「そうすると、例の『ディープステート』様も、我々貧民様も、どっちもクズでカスって考えるのが正解――、ってことか? ヨンファ」
「そのとおり。しかし、僕らが、自分たちのことを貧民様っていうと、厭味になっちゃうだろうけどね」
と、ドン・ヨンファは、カッコ笑いのように言った。