そのように、陰謀論に関する持論に、話がそれながらも、
「しかしね、話をもどすとね、ヨンファ? この、トランスヒューマニズム的な思想というのが、力を持ちつつあるのは、確かなのかもしれない」
「ほう」
と、二人は、再びコーヒーカップを手にしつつ、
「その手法の中には、外部から――、例えば、ハリウッド映画にでもでてくるような、ハイパーメカニックな義手のようなガジェットを装着するんだけじゃなくてね……、それこそ、身体の“内部”に働きかけることで、直接、身体を変化・変身させるような発想の技術も、研究されていてね」
「身体の、内部に働きかけて、変化させる――、だって?」
「ああ」
と、ドン・ヨンファが確認するように聞いて、それに、友人が答えようとした。
そこへ、
――カランコロン♪ カランコロン……♪
と、不意打ちのように、電話の着信音が鳴った。
「うん……? えっ? ソユンからか」
ドン・ヨンファは、着信の主を確認したところ、パク・ソユンからだった。
「お、恋人からか?」
「おいおい、」
と、茶化す友人に、ドン・ヨンファが勘弁してくれよとの顔をする。
「ソユンって、パク・ソユンだろ? あの、DJとモデルをやっている」
「そうだよ。まったく、何の用なんだい? いきなり」
と、友人に答えつつ、ドン・ヨンファがやれやれと電話に出る。
「ん? どしたんだい? ソユン?」
まず、そう聞くと、
『ねえ? 明後日、暇でしょ』
と、電話の向こうのパク・ソユンから、そう返って来た。
こちらの都合を聞くことなく、また、はてなマークをつけた疑問形でもない。
黙って、「うん」と答える以外の選択肢のない、無言の圧が込められた質問。
返答しようとする前に、パク・ソユンが続けて、
『もし、暇じゃなかったらさ、草刈り機でアンタの首、狩るから』
「い、いや、ま、まだ、何も答えてないじゃないか。ま、まあ、暇を作れるといえば作れるよ」
と、物騒なことをいうパク・ソユンに、ドン・ヨンファが物怖じした様子で答える。
そのまま続けて、
「で? どんな要件なんだい?」
『何かさ、リゾートの島の招待状貰ってさ? たぶん、カジノとかあるやつ』
「へぇー……、それで? 何てところなの?」
『さあ? Ⅹパラダイスっていうらしいんだけど、ヨンファ? 知ってる?』
「Ⅹパラダイス……?」
ドン・ヨンファが、首をかしげる。
見たことも、聞いたこともないリゾートの名だった。
『まあ、確定でいいわよね。予定変えたら、ほんとに草刈り機で四肢を落とすから、――』
と、そこで電話は、ガチャン――といわんかのように切れた。
まあ、ガチャンと鳴るわけはないのだが。
「……」
電話の切れたあと、ドン・ヨンファが呆気にとられたように、ポカンとしていた。
そこへ、
「お? リゾートデートかい? いいねぇ」
「おいおい、よくないよ」
と、茶化してくるカジに、ドン・ヨンファが「勘弁してくれよ」の顔をする。
しかし、
「またまた、そんなこと言っちゃって~。ぶっちゃけ? “あっちの方”は、どうなんだ? ヨンファ」
と、そのカジは追求の手を緩めることなく、二人の、エッチのほうの事情を詮索してくる。
「どうって……、すっごい、マグロなんだよね、ソユン」
「マグ、ロ……」
「ああ。むしろ、冷凍マグロっていってもいいくらいさ。あの、解体される前の、冷凍庫でキンキンに凍ったくらいの……」
「……」
と、強張った様子で語るドン・ヨンファに、先ほどまでチャラけてたカジの表情も硬くなってくる。
そうして、ドン・ヨンファが思い出して話すところ、こうである――
ーー少し以前の話。
高級マンションの、パク・ソユンの部屋のこと。
ラグジュアリーな部屋には、某デザイナーのバッグのような、菱形タイル状のパターンで彩られた白いアート壁を前にして、“錆びたチェーンソーと蔓バラ”という、およそ趣味はよくないオブジェが佇んでいた。
そんな、パク・ソユンの部屋のベッドにて、
「……」
と、裸のパク・ソユンが、いつものジトっとした目を、――まるで冷凍庫の死んだ魚のような目をして、仰向けに横たわっていた。
いっぽう、
「……」
と、ドン・ヨンファも無言だが、こちらの表情は、少し引きつるように強張っていた。
そうして、“コト”を始めるも、
――ギコ、ギコ……
と、揺れるベッドだが、
「……」
「……」
と、まさに冷凍マグロのごとく、まったく動かないし反応しないパク・ソユンに、両者ともに沈黙した空気が漂う。
「ね、ねぇ? 何か、反応してくれよ、ソユン」
ドン・ヨンファが、恐る恐る頼む。
そんな、電動マッサージベッドが必要なくらい、マグロで何も反応がないパク・ソユンに、ドン・ヨンファがコトを再開する。
動きに合わせて、
「あ、ふ……、あふ……、」
と、パク・ソユンが死んだ魚の目のまま、声だけ出す。
「……」
ドン・ヨンファが、再び沈黙した。
今度は、驚愕と虚無と混じった表情になる。
「……気持ち、いいのかい?」
恐る恐る、聞くと、
「さ、あ……?」
と、答えるパク・ソユンは、マグロ状態はそのままに、挙句にはタブレット開き、いつものグロ動画を見ていた。
そんな、シュールなエッチは続き、
「あ、ふ……、あふ……」
「も、もっと、楽しそうにしようよ? ソユン?」
「う、ん……」
と、パク・ソユンは答えつつ、
「あ、ふ……、あ”ふラ”〇ク……!」
「ちょっ……!? タンマ!」
と、急に発せられた某米国産の白い鳥のヤツのようにふざけたパク・ソユンに、ドン・ヨンファがガバッとたまげる。
「え? 何で? 笑かそうと思ったのに」
「いや、楽しそうにの種類が違うって……、ソユン」
と、ナチュラルな顔で言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファはどうしようもない様子でつっこむより他なかった。