そんな、一連の話を聞いて、
「うっわ……、本当にひどいな。その、セックス……」
「ああ……。本当に、ひどいだろ」
と、先ほどまで興味津々そうにしていたカジの顔が、ドン・ヨンファと同様に虚無そうな表情へと変わっていた。
その友人が、続けて、
「……それで、ヨンファ? 君らは、どんな関係なんだ? 付き合っているのか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
「いやいや、そういうわけじゃないと、どういうわけよ? わざわざ、二人でリゾートに行ったりして、」
「おいおい、いっしょに遊んでいるだけで、イコール付き合っているにはならないだろ? 童貞かい、それの発想は? 世には、愛人やセ・フレ、ときどき男女の友情もあるだろ?」
「まあ、それはそうだな」
と、カジ友人は、コーヒー片手に納得してみせた。
――ここまで、多重に回想しながらも、時間軸は夜の屋台へと戻ってくる。
「何だ? それで、そのⅩパラダイスってとこに行ってくるわけかよ? お前らは?」
キム・テヤンが、ジュワァァッ……と、何かを焼きながら、しかめた顔で聞いた。
「うん。そうだけど」
「けっ、何が『うん。そうだけどー』だ、まったく」
答えるドン・ヨンファに、キム・テヤンが舌打ちしつつ、
「まあ、『そうだけど』としか、言いようがないんだけど」
と、パク・ソユンが、もう何杯目か分からない焼酎のグラスを空にして、コン――! と、置いた。
「フン……、それにしても、どこにあるか分からない島に行くって、何だよ? ふざけた話だな? まあ、お前たち、ふざけた連中にふさわしいっちゃ、ふさわしいけどよう?」
「は? ヨンファならいいけど、私までふざけた人間扱いしないでくれる?」
少し不機嫌そうになるパク・ソユンと、
「い、いや、僕も、そんなふざけてないさ」
「けっ……、何が、『そんなふざけてないさ』だ? お前は、存在自体がふざけてんだよ!」
と、ドン・ヨンファが、キム・テヤンと応酬する。
するとそこへ、
「しかし……、確かに、そのⅩパラダイスってところが、どこにあるのか分からない島にあるってのは、気にするなといわれても気になるな」
いちおうは、このグループのリーダーのカン・ロウンが、口を開いた。
普段からあまり変わらない表情とサングラスのカン・ロウンだが、どこか二人を心配するようにも見える。
同時に、回る酔いとともに、見る画面ーー
ジュワァァッ……と、鉄板の音がしながらも、画面に映る竹の回転螺旋が、どこか不気味に感じつつ……
そこへ、
「まあ、行ってみればわかるんじゃない? とりあえず、もう明日行くのは確定だし」
と、パク・ソユンが、乾いたグラスを再び持ち上げつつ、自分で焼酎をつぐ。
「おいおい、そう言いながらまだ飲むのかよ? お前は」
と、やれやれとキム・テヤンが言う中、そのパク・ソユンはグイグイとグラスを空にしていく。
そうして、スッコン――と、空にしつつ、
「は、ぁ……。飲んだ、飲んだ」
と、言いながら、パク・ソユンはもう一杯、グラスに焼酎を注ぐ。
「おい? 飲んだ、とは?」
キム・テヤンがつっこむ。
その横で、
「……」
と、ドン・ヨンファは、ただ黙って見ていた。
まあ、自分が余計なことを言ってつっこむと、首にチェーンソーを突きつけられるか何をされるかわからない。
賢明な行動だろう。
その間にも、パク・ソユンはブイブイ言わせるように、焼酎をガソリンのように飲みながら、
――スッ、コンッ……!
と、何度目かの、乾いた杯を天板に置いた。
そんなふうに、アルコールを交えつつ、
「は、ぁ……、ん……。ま、あ……? そんな、特に変わった……、事は起きないでしょ? 私たちに限って?」
と、少し垂れた首を起こしながら、言うパク・ソユンに、
「いや、お前たちだから、何か起きそうなんだが――」
キム・テヤンが、真顔で言ってみせたーー
――とここまでが、回想の回想である。
ようやく、場面は島のほうへと戻ってくる。
「ふぅ……」
ドン・ヨンファが、ため息しながら足を止める。
「やれやれ……、その矢先の、“これ”、か……」
と、再び見上げる。
そこには、やはり、
――ゴゴゴ……
と、ヒトガタの建築が、謎に聳えていた。
そんな、夢と現(うつつ)と見紛う中、
「まあ……、とりあえず、行くわよ。これ以上、ボーッ……としてても仕方ないし」
「あ、あ……。そうだね」
と、パク・ソユンがドン・ヨンファに促す。
そんな風に、再び足を進めながら、
「……」
と、パク・ソユンも、この謎のヒトガタ建築を見上げてみた。
その髪の部分は、
――ゆるり……
と、やはり二重螺旋が、回転するように見えていた。
そうして、“ナニカ”の予感がしながらも、二人はそのⅩパラダイスに足を踏み入れる。
そこで、これまで生きてきた中で信じ難(がた)いことが、起きることになるのだが……