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第2話 ……で、生まれたのが僕ってわけ

「……で、生まれたのが僕ってわけ」

「いや、そんな軽く言われても……」

「逆にコメントしずれーわ……」


 目の前の男女二人にため息をつかれ、僕は不貞腐れる。なんだよ、僕の生い立ちについて知りたいと言ったのは二人なのに。


「酷いなぁ、二人とも」

「とりあえず一つだけ、言えることがあるわ」

「『クズイはクズい』ってことだな」

「いやぁ〜、照れるなぁ〜」

「褒めてないわよ!」

「褒めてねーよ!」


 やぁ、みんな。僕の名前はクズイ。クズなことばかりしていたから、こんな名前になった訳じゃないよ。正真正銘、僕の名前はクズイ。『クズいからクズイ』って覚えてくれればいいよ。


 そして目の前にいるのが、ヒメカとテツロー。僕の数少ない友達だ。


「……てか、お前さん。よくそんな致命傷を負って、生きてられたな」

「『致命傷』っていうか、実際はけどね」


 そう。僕は一度、一年前に死んでいるのだ。


「よく死んでも、平然としてられるわね」

「まぁ僕の能力スキル起死回生シニモドリ』的に、嫌でも慣れなきゃいけないからね」



 この世界には、能力スキルと呼ばれるものがある。

 それは全ての人間にそなわっている訳ではなく、生まれつき先天的なものや、思春期などに後天的に手に入れる場合がある。


 僕の場合、先天的なのか後天的なのかは分からない……だが『起死回生シニモドリ』が発動した今、僕は能力者として覚醒したのだ。


 そして『起死回生シニモドリ』の能力スキルが発覚した僕は、とりあえず能力を試してみることにした。ここらは治安が悪いから、試すにはうってつけだ。



 まず、たまたま近くを通っていたチンピラにわざと絡まれ、ただ何もせずにボコられてみたが痛いだけだった。彼らは僕の大切なお金をとっていっただけで、命まではとらなかった。なんてクソ野郎だ、許せないね。


 次に試したのは、ヤのつくいかにも堅気じゃない人たちとのトラブル。まぁ正確には僕から絡みに行ったというより、賭け事でイカサマした相手がその人たちだっただけ。この人たちは、相当イラついていたんだろうね。僕をボコボコにした後、ドスで腹を突き刺されたよ。刺しどころが良かったのか、悪かったのか内蔵に刺さってね。おかげで失血多量で二度目の死を経験したよ。


 その後、僕は幾度かの死を得て『起死回生シニモドリ』の条件や発動後について色々と気づいた。


起死回生シニモドリ能力スキルは、言葉通り『能力スキルだ。別にゼロから始める生活みたいに分岐点まで時間が巻き戻ったりする訳ではなく、僕が死ぬ前の『』ということらしい。



 元の姿に戻る生き返るまで少し時間がかかることと、死なないと発動しないということが少しネックだけど、実はもうひとついいことがあるけど……それはお楽しみに取っておこう。



 あっ、そうそう。ちなみに目の前の二人も能力者だよ。


「僕は思ったよね……『起死回生シニモドリ』という能力スキルがあったなら、もう五万くらい取っておくんだった……ってね」

「いや、死の間際に思うのはおかしいでしょ……」

「全部で十万する気だったって……さすがのクズさ加減だ……」

「だから、照れるってば〜」

「褒めてないわよ!」

「褒めてねーよ!」


 二人は僕のことをよく褒めてくれる。本当にいい友達だ。



 そうだ、気分がいいから二人について軽く紹介しよう。



 まずはヒメカ。

 銀髪碧眼の女の子で、能力スキルは『八方美人ハニートラップ』。

 前に能力スキルで僕を誘惑してお金を騙し取ろうとしたところ、純粋な心を持つ僕には効かず、逆に返り討ちにしたあたりから仲良くなった。

 能力スキルが『八方美人ハニートラップ』って言いながら、欲しいところにはないスレンダーなのが少し勿体ないよね。

 ……とか考えてたら、殴られたや。実は多重能力者なのか?



 まぁヒメカはこの辺りにして。



 次はテツロー。

 黒髪に赤いターバンを巻いたガタイのいい青年で、能力スキルは『初志貫徹ハートファイター』。

 彼はすごくいいヤツだ。なんせ僕とヒメカが能力者狩りハンターに追われている時、なんの見返りも求めずに助けてくれたんだから。僕だったら助けたお礼にお金を巻き上げるのに、彼は巻き上げなかった。大した男だよ。

 でも能力スキルが『初志貫徹ハートファイター』っていうのは、ちょっと恥ずかしくないのかなって思う。

 ……とか思ってたら、殴られたや。彼も実は多重能力者なのかな?



 そんな感じで僕らは出会い、仲良くなって今に至るのだ。



「しかしお前……クズで守銭奴なのは分かったけど、そんなに金に困ってるのか?」

「えっ、どうしたの急に。なに? 言ったらお金くれるの?」

「いや、やらねーよ!?」

「そもそもアンタ、そこまでお金に切羽詰まってるようには思えないんだけど」


 酷いなぁ、二人とも。僕をなんだと思っているんだ。


「仕方ない、二人にはずっと黙っていたんだけど……実は僕には、年の離れた病弱な姉さんがいるんだ……」

「えっ、ウソでしょ!?」

「まぁ、ウソなんだけど」

「おい」


 僕はヒメカに右の頬をつねられた。いたい。


「実は昔、父さんがリストラにあって……その時の借金がまだたくさん残ってて、そのために……」

「そ、そうか……知らなかったぜ……」

「まぁ、ウソなんだけど」

「おい」


 僕はテツローに左の頬をつねられた。ひぃたひぃ。


「真面目に話せよ」

「そうよ。アタシたち、と……友達、なんだし……」


 仕方ない。僕は二人につねられた頬を擦りながら、正直に答えることにする。


「それじゃあ話そう。僕はお金が好きだ。いや、大っっっ好きだ! 特に他人から奪ったお金が! そして他人のお金を使って、僕が損をせずに賭け事をするのも! イカサマをして倍にするのも! さらにそのお金で食べるご飯も!! 僕は好きで好きでしょうがない! 僕はこのために生まれてきたと言っても過言ではないほど、お金を愛してる……っ!!」


 どうだい、二人とも? 僕のお金に対する愛の力説は?

 二人をチラッと見ると、頭を抱えながら大きなため息をついている。なんでだい?


「はぁー……」

「聞いた俺らが馬鹿だった……」


 そう言って、二人は去っていく。


 一人残された僕は、先程ヒメカからこっそりすっておいたパック牛乳にストローをさす。


「……だって年の離れた病弱な姉さんや、借金がないのは仕方ないよねぇー」


 ないものはないんだし、僕がお金を好きなのは変わらない事実だし。


 パック牛乳を『じゅうー』と飲みながら、僕は遠い空を見上げる。




 それに僕は元々一人っ子だし、父さんと母さんは今頃海外で仲良くランデブーしてるんだからさ。

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