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第3話 『能力者狩り』って、名前だけで物騒だよね

「『能力者狩り』って、名前だけで物騒だよね」

「急に何よ?」


 僕はさっきテツローからすったお金で買ったフルーツ牛乳を飲みながら、ふとした疑問を口にする。


「いやさ『能力者狩り』って単語だと物騒なのに、『能力者狩りハンター』ってルビを振るとちょっとマイルドになるって言うか……」

「ルビとか言うな」


 ヒメカの鋭いツッコミを華麗に受け流しながら、僕は少し先で繰り広げられている光景をジッと見守る。


「……まぁ僕が何を言いたいかって言うと、テツローがいない時に『能力者狩りハンター』に出くわしたくはないよねってこと」


 この僕の言葉に、ヒメカはようやく事態に気づいたようだ。

 僕らの少し先にある路地裏に、複数に囲まれて怯える人影がいる。相変わらず、日本だとは思えないほど治安が悪いな。

 遠目からだからよく分からないが、その子は僕らと同じくらいの歳の少女のようだ。


 僕がこのフルーツ牛乳を飲み終えるまで、この世界について簡単に話そう。



 この世界には、能力スキルというものが存在するということは前回話したね。


 能力スキルはその希少性や危険性から、大きく三つの待遇に分かれる。


 例えば戦闘系の能力スキル

 正義感の強い人間にその能力スキルが宿れば、人のために正しいことに使うだろう。

 逆に悪意ある人間にその能力スキルが宿れば、言わずもがな多くは犯罪に使われるのは目に見えていることだ。仮に本人に犯罪を行う意志がなくとも、悪い人間に悪用されれば同じことだ。


 能力スキルを人のために使う者と、能力スキルを悪用する者……そして能力スキルを利用する者。


 特に第三者を守るため、国はとある法を作った。


能力スキル登録法』。


 コレは戸籍謄本みたいで、国に登録した能力者を保護や援助するためのものだ。

 ……というのは建前で。正しくは能力者を管理・監視するものだ。

 たしかに『能力スキル登録法』で能力スキルを登録すれば、国からの保護は得られる。だがそれは同時に、自分の将来を国に決められるということだ。


 例えば回復系の能力スキル

 攻撃系の能力スキルよりも、断然重宝される。

 この長生きが当たり前となった現在では、下手したら今の医療技術では解決できない病ですら治すことも出来るかもしれない。


 そしてそれがもし、悪い人間や組織に見つかったら?

 ここから先は君たちの想像力に任せよう。

 そう、今想像したことが答えだ。


 だからこそ、回復系の能力者はこの『能力スキル登録法』に真っ先に登録して国の庇護かに入る。人生と引き換えにね。


 そんな『能力スキル登録法』にも穴がある。なんだと思う?


 そう、能力者本人が登録を拒めばいいのだ。


 登録しなければ国からの管理も監視もされることは無い。将来の夢は選びたい放題、やりたい放題さ。もちろん、その代わり国からの保護や援助はしてもらえないけどね。


 つまりはね、『能力スキル登録法』に登録していない『』は『悪い人に悪いようにされても仕方ないよね』ってこと。まぁ僕も野良能力者だけど。


 そして僕らが話してた『能力者狩りハンター』とは、その悪い人たちのことを指す言葉。野良能力者を捕まえて、さらに悪い人に売ったりする。クズい僕が言うのもあれだけど、クズみたいなやつらさ。



 ……おっと、そんなこんなでフルーツ牛乳を飲み終えてしまった。

 説明はここまでね。



「……あの子、野良能力者なのね? どうするクズイ?」

「『どうする』って……野良能力者になることを選んだのは彼女だし、仕方ないことでしょ?」

「アンタ、本当にクズね」


 僕は「そりゃ、どーも」と返しながら、ヒメカの方をチラッと見る。どうやらヒメカは、囲まれている野良能力者である少女を助けたいようだ。


「……僕は止めないけど、ヒメカには無理だよ」

「つまり自分可愛さに、見捨てろってこと?」

「そうは言ってないさ。僕は客観的なことを言っただけ」


 牛乳パックを潰しながら、僕は冷静に答える。

 ヒメカの能力スキルは『八方美人ハニートラップ』。お世辞にも、戦闘向きではない。


 そういう僕も、どちらかと言えば戦闘向きでは無い。


 それに、僕には彼女を助ける義理も理由も……。


「知ってる、クズイ? あの子の制服……」


 僕はお金を手に入れるためなら、手段は選ばない。



「すごくお金持ち学校の、お嬢様よ?」



 その言葉を聞いて、僕の身体は自然と動いていた。


「あ、アナタは……?」

「ねぇ、君は……」


 そして彼女の前に立ち塞がり、僕はこう問いかける。


「自分の命に、いくらかけられる?」




 我ながら、クズかっこいいと思う登場だ。

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