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第4話 僕はタダでは絶対に動かない人間なんだ

「君は自分の命に、いくらかけられる?」


 我ながらクズかっこいい登場を果たした僕は、目の前の彼女にそうたずねる。

 案の定、彼女はと言うと……何事かとポカンとした顔で、メガネの奥の大きな瞳で僕をジッと見つめる。


「自分で言うのもなんだけど、僕はタダでは絶対に動かない人間なんだ。でも僕の友達が君を助けたがっている。だから君を助ける代わりに、対価として君は僕にいくら支払う?」

「は……え?」


 彼女は困惑してるのか、なかなか対価の金額を提示してくれない。困ったなぁ。

 だから僕は、ダメ元で押してみた。


「僕は別に君を助けなくても全然なんとも、これっぽっちも罪悪感はもたないよ。だって僕らは赤の他人で、これが初対面だからね」


 実際、僕には関係のないことだし。

 強いて言うなら、ちょっとヒメカが罪悪感を持つくらいかな。


「おい、テメー……いきなり出てきて、なにを……」

「わ、私は……」

「どうする? 早く決めなよ」


 彼女と僕の後ろにいるチンピラ風情Aが、手を大きく振り上げる。


「い……」

「……ごちゃごちゃと!」

「一千万……っ!」


 僕はニヤッと笑う。



「その言葉……忘れないでね」



 チンピラAが手を振り下ろした瞬間、僕の身体に鋭い痛みが走る。それと同時に赤い血飛沫が地面や壁一面に飛び散り、僕はそのまま前のめりに倒れ込む。

 背中からはドクドクと赤い液体が流れ出し、じわじわと痛みが広がっていく。本当、ここらは治安が悪いな。


 でもかすれゆく意識の中、僕は思う。今日はラッキーだ。

 一千万の金額がも手に入る上に、もうひとつ――――。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「おい、殺ったか?」

「脈はねぇ、死んでる」

「ならさっさとこの女を捕まえて、ズラかる……」



 ――――ザシュッ……――――



「……? なんだ?」

「お、おい……お前っ、足……!」

「あ?」



 ――――ブシュ……ッ!――――



「う、うわぁぁぁああ!」


 チンピラの一人が、切断された片足を抑えながら地面に転がる。


「……面白いねぇ、君の能力スキル。これは『空気を圧縮して斬撃として飛ばす能力スキル』かな?」

「お、お前……なん……!?」


 チンピラたちは、化け物でも見たかのように悲鳴をあげる。


「どうしたんだい? そんな、化物でも見たかのような悲鳴をあげて」

「お前、さっき……死ん……!」

「あぁ、なるほど」


 僕は納得したように頷くと、チンピラたちに軽く種明かしをする。


「たしかに僕は死んだよ。でもこうして生き返ったのさ。僕の『起死回生シニモドリ能力スキルでね」


 僕は笑顔で答えてあげる。だって僕は優しいからね。


「僕はね……いくつか大事にしてることがあるんだ。例えば『ご飯や賭け事では、お金は他人のお金を使う』……」


『他人のお金は、僕のお金』。

『僕のお金は、僕のお金』。


 他にもお金に関しては、いろいろと決めてることはある。けど。


「僕の大好きなお金に関しては、今回は置いといて……」


 僕は手を大きく振り上げる。


「この能力スキルを手に入れてから、僕はひとつルールを決めたんだ」


 そしてそのまま、勢いよく振り下ろす。



 ――――ザシュッ!――――



「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁ!」



「『られたら、り返す』……ってね」



『殺られたら、殺り返す』。殺られた側としては、至極真っ当な理由。なんとも素敵な言葉だ。



 ――――シュッ! ザシュッ!――――



 僕が手を振り上げて下ろす度、チンピラたちの汚い血飛沫がここら一体を赤く汚す。


「な、なんで俺の能力スキルを……!?」


 泣きながらそう質問されて、僕は一瞬手を止める。誰かと思えば、僕を殺したチンピラAじゃないか。



「いい質問だね」



 僕の『起死回生シニモドリ能力スキルは、『健康な状態に戻る』って話は前にしたね。


 僕の『起死回生シニモドリ能力スキルは、ただ生き返るだけじゃない。



 思わぬ副産物があったのだ。



 それは、僕を殺した相手の『能力スキル模造コピーする』ことだった。


 それに気づいたのは、僕が十数回目の死を経験した時。たまたま僕を殺した相手が、能力者だったのだ。

起死回生シニモドリ』以外の能力スキルを身につけた僕は、詳しく検証するためにその能力者を探して再戦を申し込んだ。


 もちろん戦闘系の能力スキルを持つ能力者相手に、僕は何度も死んださ。何度も何度も殺されて、何度も何度も死んだ。

 そうして何度も何度も殺されて、何度も何度も死んでいるうちに、僕は気づいたんだ。この『模造コピー』する能力スキルは、『殺されて死んだ数だけ、『本物オリジナル』に近づく』と。


 ……でもね。何度も何度も殺されて、何度も何度も死ぬより、僕は手っ取り早い方法を僕は見つけた。


 なんともシンプルで、簡単なことだ。



 それは『本物オリジナルを殺す』こと。



 でもこれにも、欠点がある。

模造コピー』するには、相手の能力スキルを『理解する』こと。

 いくら『本物オリジナル』の能力スキルを手に入れても、使い方がわからなければ宝の持ち腐れだ。



 今回はたまたま一発でわかったか良かったけど、何度も死んで生き返るのは少し面倒だからね。単純な能力スキルで助かったよ。


 そんなわけで、単純な能力スキルを持っていたチンピラAくんの質問に対する、僕の答えたけど――――。



「でもどうせ今から死ぬんだから、ひ・み・つ♪」




 そうして僕は、笑顔で手を振り下ろした。

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