「くそー」
っていうか、いつまでこの魔法少女の恰好なんだよ。
「あ、そうだ。このドアどうしてくれるんだ。外れちゃったじゃないか」
玄関のドアはひしゃげ、廊下に倒れていた。
「ん? でもそう言えば、ドアが壊れて大きな音がしたのに誰も出てこなかったな」
「ああ、それはね、魔法少女が変身してる間は結界が張られてるから」
「結界?」
「そう。ここは君の結界の中なんだ。元の世界に戻ればドアも元通りだよ」
「そうなんだ……って戻れないんだけど!」
一生このまま? それ死ぬよりいやだぞ。
「うーん、困ったね。ここから出られないと永遠にこのままだ」
マジなのかよ。
「それならやっぱり転生させてくれ」
「そんなこと言われても……」
どうすればいいんだよ……。
ボン!
突然、大きな音がして、俺は煙に包まれた。
シューっという音とともに煙が消えていくと、俺は元の情けないジャージ姿に戻っていた。目の前のドアも壊れていない。
「よかったああ……」
俺は大きくため息をついた。
「あはは、戻れたじゃん。どうやったの?」
「俺が知るかよ。ほかの魔法少女は戻る時どうやってるんだ?」
「それも人それぞれかな。なんか呪文を唱える人が多いけど」
「うーん、そんなの無理だから不安だよ。もう変身したくない」
「そういうわけにはいかないよ。バグデーモンに一度見いだされたら次々にやって来るからなあ」
「マジか……あんなのが……それってぼっちよりきついかも」
憑き殺されてた方がマシだったんじゃ……。
「まあこれからも、危なくなったらボクを呼んでね」
「呼ぶ? どうやって?」
「さっきと同じだよ。スマホのボクのアイコンをタップすればいいんだよ」
スマホの画面の隅には、ヘンテコな謎の生物をかわいくキャラ化したようなアイコンが表示されていた。
あ、勝手にインストールしやがったな!
「これ、消せないのか?」
「ダメだね」
「じゃあ、スマホ機種変更しようかなあ」
「ああ、変更しても漏れなくボクが憑いてるよ」
「なんだよそれ、一生ついてくるつもり?」
「まあ、そのうち卒業もあるかもね」
「なんだよそれ……」
「あ、そうだ。あした学校行ってくれないかな」
「え?」
アプリが突然、無茶なことを言いだした。
「あしたさ、君の学校にバグデーモン注意報が出てる」
「え? 俺の高校知ってるの?」
「スマホから君の情報はすべて把握させてもらったよ」
「はあ? それって個人情報だぞ」
「さっき教えてもらった君の名前で認証したってことさ。それにボクら友だちだろ。もういつでも連絡できるし」
「なんだそりゃ。フィッシング詐欺かよ。それに注意報って何?」
「えーとね、繰り返し出てくるバグデーモンはだいたい出没場所と日時が予測できるんだ」
「天気予報かよ」
「まあ、とにかくあしたは学校に行ってね」
「俺が学校行けると思うか?」
「うーん。行ってもらわないと困るんだよね。君が行かないと誰か死んじゃうかもよ。じゃあまたね」
「あ、おい!」
アプリは突然静かになった。