俺はアイリの後を追った。
ホント、体がめちゃめちゃ軽いし、難なくアイリについていけるんだから、魔法少女ってすごいよなあ。
普段の俺だったら、たぶん十歩ぐらい走ったところでへたばってると思う。
……あ、でもこれ、また筋肉痛になって戻ってきちゃうのか。
つらい、鬱だ……。
「体鍛えようね、ユート」
うるさいわアプリ。
俺は引きこもる前からインドア派なの!
まあ、きのうアイリにマッサージされてハズすぎたから、ちょっとは考えてないわけでもないけどね。
「あ、あそこ!」
アイリが叫んだ。
「げええ……」
大きな道路との交差点の真ん中に、茶色い小山ができていた。
よく見るとうようよ動いてる。キモい……。
ヒサルキの群れが何かに乗っかってるんだ。
「あの中にエミリがいるんだと思う」
「えっ!」
「あれ、たぶんエミリの防護ドームの上だから大丈夫だと思うけどね」
びっくりさせないでくださいよ。
「まずはやつらを蹴散らしてから3人を呼ぼう!」
アイリが言った。
「で、でもあれ……いったい何匹いるのやら」
「まずは私がスナイパーライフルで連中の頭を撃つからさ、とりあえずユート君は待機してていいから」
今度は狙撃兵ですか。さすがマルチ軍人さんですね。
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。ガシャン。ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。ガシャン、ダン、ダン、ダン……。
ものすごい速さでアイリはライフルでヒサルキの頭を打ち抜き始めた。カートリッジ交換はコンマ数秒!? それに全弾当たってるし……いやホント、最強の魔法少女を自認するだけのことはありますね。
「キイイ!」「キイイ!」と悲鳴を上げながら、ドームのこちら側のヒサルキはほとんど消滅……しかけたと思ったら、向こう側からどっと出てきたよ! どうなってるの?
「あいつら、まだコピペ続けてるみたい。きりがないね」
アプリが言った。
「しょうがないなあ。こうなったら弾道ミサイル……」
「それはダメだってば!」
「それならどうするの? ユート君の杖のタコ殴りだってあれだけの数はちょっと厳しいんじゃない?」
タコ殴り……もっとかっこいい名前つけてくださいよ、アイリさん。
「あ、そういうのボク、得意だよ。生成AIだからね。スパイラルクラッシュってのどう?」
「あ、お、おう……」
なかなかいいな。
普段かっこいいセリフ考えてるだけのことはあるか。
「こ、今度はお、俺がや、やってみます」
「うん。相棒だからね。信じてる!」
そう言ってアイリは親指を立てた。
米軍の人ですか?
でもなんかうれしいな、信じてるなんて言ってくれて。
「うおおおお……お……お」
俺は叫び声を上げて突進し……ってか、大声なんか出せるわけないよ俺、コミュ障の陰キャなんだから。怖くて自然に出ちゃう時以外はさ。
いいや、俺らしく黙ってやろう。
俺はヒサルキの山に突進した。近づくにつれてぎょろぎょろした目と鋭くギザギザした歯がよく見えてきた。怖いけど……。
「勇気を示す時は今だ! ユート!」
ああ……はいはい。
俺は前と同じようにクルクル回るながらヒサルキの頭を狙って次々に粉砕していった。頭がつぶれるたびに茶色いウニみたいなのが飛び散るよ……すぐ消えるけどさ、キモすぎでしょ。
「キイイ!」「キイイ!」って上げる叫び声もさ、あれだよ、ガラスをひっかく時みたいな感じ。マジでぞわぞわするんだよなあ。
でも確かにこいつら弱いけど敏捷で、何匹かはドームの向こう側に逃げられてしまう。
くそー。そう思った瞬間、ドームの上からたぶんまたコピペされた新しいヒサルキの大群が俺に襲いかかってきた。
ダダダダダダダダダダ。
機関銃の音がしてヒサルキたちの体が吹っ飛んで消えた。
アイリのサポートだ。ホントに俺たち、パートナーなんだな。
ところが……また同じぐらいの大群が今度はドームの脇から現れた。
「確かにキリがないね」
アプリ。のんきなこと言ってる場合じゃないだろ。
「キラリンビーム!」
え!? ミウさんだ!
ミウの叫び声が聞こえ、七色の光の粒の帯がドームをぐるぐる回って辺りを包み込んだ。
「キイイ!」「キイイ!」
耳をふさぎたくなる大量の悲鳴が聞こえた後、周囲は静かになった。ドームを覆っていたヒサルキは一掃されたみたいだ。
「ミウ!」
アイリがそう叫ぶと、ほうきに乗ったミウがゆっくり地上に降りてきた。オレもあわてて駆けつけた。
「ミウ、ほうきに乗って来てくれたんだ。ちょっとピンチだったから、ホント助かった」
アイリが言った。
「まあね。瞬間移動は待ってってアプリに言われたけど、居ても立ってもいられなくなっちゃって」
「うん、ありがとね」
アイリがほほ笑んだ。
「ユート君、きょうも頑張ってたね」
「え?」
ミウさんからまた声かけられちゃった?
俺、なんて言えばいいの……。
「アイリ! ミウ!」
後から声がした。振り向くと、シックなゴスロリ風の黒と紫が基調の衣装を来た魔法少女が立っていた。たぶんエミリって人だ。
「ああ、エミリ。大丈夫だった?」
アイリが聞いた。
「あ、うん。防護ドームで何とかね。でも、まさかあいつら、あんなに増殖するなんて聞いてなかったよ」
「そうなんだよ。ボクも初耳だよ」
エミリが手に持った黒い日傘からアプリの声が聞こえた。ああ、あれが俺の杖と同じような役割なんだ。アイリさんのアプリは軍服の中みたいだし。
それにアプリ、一つの生成AIなのに、やっぱりそれぞれの魔法少女に合わせてしゃべるんだな。
「でもね、まだ油断しないで。最初のやつがまだ逃げてるから。あれ? この人、新しい魔法少女?」
エミリさんが俺をじっと見て言った。
「あ、はは……」
俺は言葉が出てこなかった。